VeroE6/TMPRSS2細胞を使用した新型コロナウイルス(デルタ株)の分離培養

新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真 (オミクロン株の写真追加)NEW

 ウイルスは細菌と異なり、生きた細胞がないと増殖することができません。培養細胞にウイルス感染症患者の検体を添加することで、培養が可能なウイルスもあります。ウイルスに感染した細胞は細胞が変化し、それを顕微鏡で判定する分離培養は時間と手間がかかる試験ですが、ウイルス研究においては現在でも重要な検査方法です。

 今回は新型コロナウイルスのデルタ株の分離検査において見られた細胞の変化を観察したので公開します。

分離試験に使用した培養細胞について

 新型コロナウイルスの分離にはVeroE6というアフリカミドリ猿の腎臓上皮細胞由来の培養細胞が使用されていましたが、国立感染症研究所が開発したVeroE6/TMPRSS2細胞 (VeroE6細胞にTMPRSS2プロテアーゼ産生能を発現させた細胞)を用いることでさらにウイルスの分離率の向上が認められました。

 この細胞は境界が明瞭な多角形の細胞で、互いが重なる事なく、敷き詰められたタイルの様に整然と発育します。また、一つ一つの細胞の中に核がある事が観察できます。

検体接種前のVero細胞黄色い線に囲まれた領域の一つ一つが細胞です。中に楕円形の核が見えます。光学顕微鏡X100倍像

 

検体の接種と細胞変性効果(CPE)について

 上記の培養細胞に新型コロナウイルス患者から採取した検体(咽頭・鼻腔拭い液、唾液等)を細胞に接種して培養を続け、細胞中でウイルスが増殖を始めると細胞の外観に特徴的な変化が現れます。この現象は細胞変性効果(CPE)と呼ばれ、ウイルスが細胞中で増殖している事を知る重要なサインとなります。

 新型コロナウイルスのデルタ株を接種したこの細胞の場合には多数の細胞が融合し合胞体と呼ばれる巨大な細胞を形成します。下の顕微鏡写真の細胞境界が曖昧になった部分が融合を始めた部分です。まだ半数近くの細胞は正常な形態を維持しています(検体接種後:約3日目)。

合胞体の現れたVero細胞

カーソルを画像に乗せると融合し始めた合胞体の部分が緑色に表示されます。
 

CPEの成長と細胞の剥離

 合胞体は成長を続けると本来の正常な細胞形態を維持できなくなり、大きな不定形の固まりとなって培養容器の底から剥がれてしまいます。周りの細胞も更に合胞体を形成して変化が進んでいます。正常な形態の細胞は辺縁に少数見られるだけになりました(検体接種後:約4日目)。
 
 CPEによる細胞の融合が更に進み、大多数の細胞が培養容器の底から剥離して風船の様な大きな合胞体を形成しています。正常な姿をした細胞は見えません。コロナウイルス感染によるVeroE6/TMPRSS2細胞の末期像です(検体接種後:約5日目)。
Vero細胞のCPE末期
 この段階で培養液をセラムチューブに回収し、これをウイルス液として-80℃以下で保存します。
(PCR等の検査によって目的のウイルスが増えていることを確認します)
 
*この細胞の変化は感受性の高いVeroE6/TMPRSS2細胞にデルタ株を接種した際に見られるものですが、人体における症状や病原性の強さを表すものではありません。
 

ウイルス分離試験の利点について

 培養細胞を使用した分離培養法は欠点として判定に数日から数週間かかる事や培養条件が合わないとウイルスが存在しても増殖しない事などがあります。さらに、検体の採取法や保存状態が悪いと検査感度が低下するなどの問題が有るため、検査感度や迅速性の点から見ればPCR法に比べ優れた検査法とは言えません。

 しかし、細胞培養により検体中のウイルスを大量に増やして保存できる事の利点として

  • ・微量のウイルスを培養で大量に増やすことが出来るため様々な検査、特に次世代
     シーケンサーで全ゲノム 解析を行う際により正確な解析結果を得ることが出来る。
  • ・ヒトのコロナウイルスに対する中和抗体価を測定する時の攻撃ウイルス、あるいは抗原
  •  として使用することで、ワクチン効果の検証が行える。
  • ・様々な株を分離培養し保存することで、検査法の比較検討、改良が可能となる。
  • ・将来に新たな検査法、分類法が出来た場合にも保存株を用いれば対応が可能である。
 などがあり、培養したウイルスは研究に欠かせない貴重なサンプルとなります。
 

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