生活をする上で欠かすことのできない水は飲用、食用、清掃、洗濯などに利用され、それらの排水は、都内20か所ある水再生センターに集められ、処理されています。
水再生センターに集められた流入下水には、感染者から排出された新型コロナウイルスの遺伝子断片が含まれていることが知られており※1、流入下水中の新型コロナウイルス量を調査することで、その処理区域の新型コロナウイルス感染症の状況把握に繋がる研究が各地で実施されています。
東京都健康安全研究センター(当センター)においても、2020年から都内水再生センターから流入下水を採取し、流入下水中の新型コロナウイルスの研究を実施しています※1-3。
咽頭ぬぐい液などの臨床検体と比べて、①下水中のウイルスは少なく、②様々な物質等の影響によりウイルスそのものには感染性がありませんが、➂採水された流入下水を遠心分離により濃縮することでウイルスの検出が可能です。
下水中のウイルス量は雨天時と比べ、晴天時に高いとの報告もあり※4、流入下水流量の変動によりウイルス量は影響を受けやすく、明確な定量値を測定することが難しい、どの流域の下水なのかがわからないといった課題もあります。
※1:Kitamura K, et al:Efficient detection of SARS-CoV-2 RNA in the solid fraction of wastewater,Science of The Total Environment,763, 144587, 2021
※2:Nagashima M, et al: RNA Detection Using RT-qPCR and Non-Isolation of SARS-CoV-2 inConcentrated Wastewater (June–August 2020, Tokyo) , Jpn J Infect Dis.75, 212-215, 2022
※3:熊谷遼太ら:都内下水中の新型コロナウイルス検出状況(2020年度),東京健安研セ年報,72, 87-92, 2021
※4:Martins MM, et al: Long-term wastewater surveillance for SARS-CoV-2: one-year study in Brazil, 14, 2233, 20222
従来法では検査に係る工程が多く、多検体処理は不向きと考え、当センターではコンタミネーション防止ならびに多検体処理を目的とし、全自動遺伝子検査装置を用いた検査法を検討しています※3。
流入下水検体を遠心分離し、10倍濃縮液(沈渣含有)を回収します。10倍濃縮液を検出用チューブに添加し、全自動遺伝子検査装置による新型コロナウイルス検査を実施します※3,5。
この方法で、水再生センターで採取された流入下水から新型コロナウイルスが検出されました。 第6波前に一時的に検出できなくなりましたが、第6波以降では再び検出されています※5
従来法 全自動遺伝子検査装置法
※5:熊谷遼太ら:東京都内における流入下水中の新型コロナウイルスの検出状況(2020-2022年),第63回日本臨床ウイルス学会(東京)