エムポックス(サル痘)の世界的流行について(4月8日更新)

 2022年7月23日に世界保健機構(WHO)はサル痘の世界的な流行について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。この疾病は日本では感染症法上の四類感染症に指定されている。

 サル痘は1970 年に初めてヒトへの感染が確認されて以来、主にアフリカの国々に見られる感染症であったが、2022 年 5 月下旬から欧米を中心に急速に感染エリアを拡大し、アフリカ以外の国から多数の患者報告がされるようになった。サル痘患者の集団発生事例が、異なる地域で同時に報告されるようになったのは今回が初めてであり、以降現在までに欧米を中心に110か国から約86,500例の患者が報告されている。

CDC 2022 Mpox Outbreak Global Map

世界の地域別サル痘患者発生数の推移2022-23 Mpox (Monkeypox) Outbreak:Global Trends

 

東京都におけるエムポックス患者の発生について

  2022年6月下旬~7月中旬にかけて欧州に滞在した旅行者が、帰国後に倦怠(けんたい)感を感じて7月25日に都内の医療機関を受診した。同日、当所にて検体を調べた結果サル痘ウイルス陽性と判明した。調査によりこの旅行者は渡航先でエムポックス患者との接触歴があったことが判明した。その年の9月から10月にかけても少数の患者発生が確認されたがその後患者の発生は年内はなかった。

 しかし、2023年1月中旬から発生件数が増加し、3月6日~27日の週の14人の患者をピークに患者の発生が続いている。

 
東京都感染症週報より集計
 

病原体

エムポックスウイルスは、ポックスウイルス科の二本鎖DNAウイルスである。
遺伝子的にクレードI(コンゴ盆地系統群)とクレードⅡa並びにⅡb( 西アフリカ系統群)の二系統に分かれ、クレードⅠはより感染力が強く重篤になりやすいとされている。今回の世界的流行株は全てクレードⅡbによるものであった。

 今回東京都で検出されたエムポックスウイルスを当所にて全ゲノム解析を行った結果、クレードⅡbに属するウイルスであった。

 

自然宿主

  • 正確なリザーバー(自然宿主)や感染環は未解明。
  • 感受性を持つ動物種は、アフリカに生息するげっ歯類や霊長類など。

これまでのアウトブレイク事例

  • 1970年のコンゴ民主共和国で初めてのヒト症例が確認された。
  • 1970年以来、中央アフリカと西アフリカを中心に患者が発生していた。
  • アフリカ以外で初めて感染が確認されたのは2003年のアメリカ合衆国で、
    . サル痘に感染したペットとの接触が原因と考えられた。

感染経路

 動物からヒトへの感染:

  • 感染動物の血液や体液、病変への接触感染。
  • 感染動物の肉などの摂食も危険因子となる可能性がある。

 ヒトからヒトへの感染:

  • 飛沫感染、接触感染、垂直感染が考えられる。
 https://archive.cdc.gov/www_cdc_gov/poxvirus/mpox/about/science-behind-transmission.html
 

症 状

  • 潜伏期:5~21日(通常は6~13日)。
  • 症状は侵襲期と発疹期に分かれ、通常2~4週間で症状が治まる。

侵襲期:発熱、頭痛、リンパ節腫脹、背部痛、筋肉痛、無力感。
発疹期:発熱後1~3日以内に発疹が起こる。

  • 発疹は体幹よりも顔面や四肢に集中する傾向にある。
  • 合併症は、気管支肺炎、敗血症、脳炎、角膜感染に伴う失明や二次感染など。
  • 致死率は0~11%といわれており、近年では3~6%。(小児や免疫不全患者
    . で重症化し易い)

診断

  • 他の発疹性疾患(水痘、麻しん、細菌性皮膚感染症、疥癬、梅毒、薬物
    . アレルギーなど)との鑑別が重要。
  • サル痘は感染初期のリンパ節腫脹が特徴的で、水痘や痘そう(天然痘)との
    . 鑑別の材料となる。
  • 皮膚病変を用いたPCRによる診断が最適な臨床検査法とされている。

治療薬・ワクチン

治 療 薬 :抗ウイルス剤のテコビリマットの有効性については臨床研究中である。
ワクチン:暴露後予防としての天然痘ワクチンの有効性については臨床研究中である。

予防

 ①ヒトからヒトへの感染リスクを低減させる

  • アウトブレイクを発生させないため、サーベイランスと症例の迅速な特定が重要。
  • 感染リスクの高い医療従事者、家族は標準的な感染予防対策を行う。

 ②感染動物からヒトへの感染リスクを低減させる

  • 野生動物(特に肉や血液、死亡している動物など)との無防備な接触を避ける。
  • 肉などの食品については、十分な加熱などの処理を行う。

 ③動物取引の制限による予防

  • げっ歯類や霊長類の輸入にあたり、サル痘への感染や感染動物との接触が  疑われる個体について、隔離や健康観察など適切な措置を行う。

(以上、WHOにより発出されたFact sheet(Monkeypox 2022.5.19)の内容を抜粋)

https://www.gov.uk/guidance/de-isolation-and-discharge-of-monkeypox-infected-patients-interim-guidance
 

リンク集

国内のサイト

厚生労働省 エムポックスについて
国立感染症研究所 サル痘とは
国立感染症研究所 病原体検出マニュアル「エムポックス」
厚生労働省検疫所(FORTH)海外感染症発生情報

海外のサイト

WHO エムポックス(サル痘) ファクトシート
CDC(アメリカ疾病管理予防センター)エムポックス
ECDC(欧州疾病予防管理センター)エムポックス

東京都環境放射線測定サイト 東京都感染症情報センター 東京都健康安全研究センターサイト
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