ヘルパンギーナや手足口病は、幼児が感染しやすい夏かぜとして知られていますが、これらはいずれもエンテロウイルス属に属するウイルスによって引き起こされます。
これらの二疾患は、新型コロナウイルス感染症が流行した2020年以降、例年と比べて発生が減少していました。しかし、社会活動の再活発化に伴い、都内でも報告数の拡大傾向が見られます。
ヘルパンギーナの報告数は、昨年(2023年)、全国的に増加し、東京都でも警報レベルに達しました。2024年の報告数は現時点では昨年と比較すると落ち着いてはいますが、増加傾向にあり、今後の動向にも注意が必要です。
手足口病は、第24週時点で定点当たり報告数が31保健所中11保健所で警報レベルを超え、保健所管内人口の合計は、東京都全体の 35.67%となり、警報基準に達しました。また、第34週時点の定点あたり報告数は、4.55で警報レベルが続いています。
過去5年間の年間推移 過去10年間の推移
過去5年及び10年のヘルパンギーナ・手足口病の医療機関当たり患者報告数(2024年9月4日現在)
東京都感染症情報センター WEB感染症発生動向調査より
ウイルス研究科では、感染症法に基づく調査として感染症発生動向調査を実施しており、小児科定点医療機関(病原体定点)から搬入されたヘルパンギーナや手足口病の患者検体のウイルス検査を行い、検出されたウイルスについては遺伝子検査を実施し、原因ウイルスの解析を行なっています。
ヘルパンギーナ・手足口病とも、 患者の年齢は5歳以下がほとんどで、1歳代が最も多くみられます。一般には軽症で数日の経過で軽快し、夏かぜの代表的疾患といわれています。
主にエンテロウイルス属のコクサッキーウイルスA群ウイルスによって引き起こされます。遺伝子検査により、さらに細かく型別することが可能ですが、流行する型は年によって異なります。
主にコクサッキーウイルスA群ウイルスやエンテロウイルス71型(以下EV71)によって引き起こされます。EV71による手足口病の流行時は、中枢神経系合併症の発生頻度が高く、国内でも死亡例が報告されており、継続して注意していく必要があります1,2)。
ヘルパンギーナと診断され当センターに搬入された臨床検体について、遺伝子検査を実施したところ、コクサッキーウイルスA群6型(CA6)が2件、コクサッキーウイルスA群10型(CA10)が3件、コクサッキーウイルスA群16型(CA16)とエンテロウイルスD68型(EV‐D68)がそれぞれ1件ずつ検出されています。
手足口病と診断され当センターに搬入された臨床検体について、遺伝子検査を実施したところ、コクサッキーウイルスA群6型(CA6)が24件、コクサッキーウイルスA群10型(CA10)が1件、コクサッキーウイルスA群16型(CA16)が2件、エンテロウイルス71型(EV71)が7件、ライノウイルスが12件検出されています。
当センターでは、上記の発生動向調査検体から検出されたエンテロウイルスについて詳細な遺伝子解析(系統樹解析)を実施しています。以下に、カプシドを構成する領域(VP4-VP2領域)での系統樹を示します。
7/20現在、都内で検出されたCA6(赤)は、大部分が同じクラスターに属しています。
7/20現在、都内で検出されたEV71の遺伝子は、2023年に検出された2023-②に近い株が検出されました。
当センターでは上記の発生動向調査検体から検出されたエンテロウイルスについて詳細な遺伝子解析(系統樹解析)を実施しています。以下に、カプシドを構成する2領域(VP1領域とVP4-VP2領域)での系統樹を示します。
2023/7/26現在、都内で検出されたCA2の遺伝子は同一のクレードに属しました。既に報告されているCA2の遺伝子とは異なる系統となっており、病原性について不明なことから、今後も注意深く監視を続ける必要があります。
2023/7/26現在、都内で検出されたEN71の遺伝子は二つのクレードに分かれました。過去に都内で検出されたものと比較すると、今年度は異なった系統を持つEV71が流行していると考えられます。
(1)エンテロウイルス71型感染が原因で急死したと考えられた3症例―大阪市
IASR Vol.19 No.3 March 1998(2)エンテロウイルス71型による脳炎死亡例を含む手足口病の流行-兵庫県
IASR Vol.22 No.6 June 2001