健康食品については、現状、そのものを規定する単独の法律(例えば、「健康食品法」なるもの)がなく、法令上、明確な規定はありません。ただし、一般的には、広く、健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般(栄養補助食品、サプリメントなど)を指すと考えられています。
このような健康食品のうち、個別に、生理的機能や特定の保健機能を示す有効性及び安全性等に関する国の審査を受け、消費者庁長官によって有効性に係る表示を許可又は承認された食品を「特定保健用食品」といい、また、特定の栄養成分を含むものとして国が定める基準に従い当該栄養成分の機能を表示する食品を「栄養機能食品」といいます。
さらに、国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要事項を販売前に消費者長官に届け出れば、機能性を表示することができる食品を「機能性表示食品」といいます。これら3つの食品を総称して、「保健機能食品」といいます。
(1)各種法令との関係
一つの商品が世の中に出て消費者の手に渡るまでには、原料の仕入、製造、包装、表示、広告、流通、販売等、さまざまな過程を経ています。この過程において、安全でよりよい商品が適正な商取引により販売されるように、健康食品は通常の食品と同様、種々の関係法令によって規制されています。以下にその概略を示しました。
法令の正式名称及び略称は以下のとおりです。
正式名称 | 略称 |
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 (昭和35年法律第145号) |
医薬品医療機器等法 |
食品衛生法(昭和22年法律第233号) | 食品衛生法 |
食品表示法(平成25年法律第70号) | 食品表示法 |
食品表示基準(平成27年内閣府令第10号) | 食品表示基準 |
健康増進法(平成14年法律第103号) | 健康増進法 |
日本農林規格等に関する法律(昭和25年法律第175号) | JAS法 |
不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号) | 景品表示法 |
特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号) |
特定商取引法 |
東京都消費生活条例(平成6年東京都条例第110号) | 消費生活条例 |
(2)食品衛生法の概要と関与
ア 目的等
食品衛生法(昭和22年法律第233号)では、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ることを目的としています。この法律で「食品」とは、医薬品医療機器等法で規定される医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品以外の全ての飲食物を指し、健康食品も含まれています。また、経口的に摂取する飲食物だけでなく、飲食物に用いる器具、容器包装や洗浄剤、乳幼児が口に入れる可能性のあるおもちゃなども規制の対象としています。
イ 主な規定事項
(ア)食品等事業者の責務(第3条)
(イ)不衛生な食品、新開発食品、特定の食品等の販売等の禁止(第6,7,9条)
(ウ)指定成分等含有食品による健康被害情報の届出(第8条)
(エ)厚生労働大臣が指定していない食品添加物及びこれを含む食品等の販売等の禁止
(第12条)
(オ)規格、基準に適合しない食品、添加物の販売等の禁止(第13条)
(カ)規格、基準に適合しない器具、容器包装の販売等の禁止(第18条)
(キ)公衆衛生に危害を及ぼすおそれのある虚偽又は誇大な表示又は広告の禁止
(第20条)
(ク)食品等の輸入の届出(第27条)
(ケ)製造等の営業許可、営業の届出(第55条、第57条)
(コ)食品リコール情報の報告制度(第58条)
(サ)違反者等の公表、罰則(第69条、第81条~89条)
(シ)錠剤、カプセル状等の形状の食品を取扱う事業者の自主的な取組みの推進
(3)食品表示法の概要と関与
ア 目的等
食品の表示は、これまで食品衛生法、JAS法(日本農林規格等に関する法律(昭和25年法律第175号))及び健康増進法(平成14年法律第103号)と、複数の法律に定めがあり、非常に複雑なものになっていました。
平成25年6月28日に、これら3法の食品表示に係る規定を一元化した食品表示法が公布され、平成27年4月1日に施行されました。
食品表示法(平成25年法律第70号)は、次のことを目的としています。
・販売の用に供する食品に関する表示について、基準の策定その他の必要な事項を定めることに
より、その適正を確保し、もって一般消費者の利益の増進を図ること。
・食品衛生法、健康増進法、JAS法による措置と相まって、国民の健康の保護及び増進並びに食品の生産及び流通の円滑化並びに消費者の需要に即した食品の生産の振興に寄与すること。
なお、食品表示法において表示の具体的なルールである「食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)」が規定されています。
イ 主な規定事項
(ア)衛生事項
食品衛生法で定められていた、国民の健康の保護を図るために必要な食品に関する表示事項について規定しています。
(添加物、賞味期限、消費期限、保存方法、アレルゲン、製造所所在地 等)
(イ)品質事項
JAS法で定められていた、食品の品質に関する表示の適正化を図るために必要な食品に関する表示事項について規定しています。
(原材料名、原料原産地名、内容量、原産地、原産国名、食品関連事業者 等)
(ウ)保健事項
健康増進法で定められていた、国民の健康の増進を図るために必要な食品に関する表示事項について規定しています。
(4)健康増進法の概要と関与
ア 目的等
健康増進法では、国民の健康の増進の総合的な推進に関して基本的な事項を定めるとともに国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図ることを目的としています。
イ 主な規定事項
(ア)特別用途食品
特別用途食品とは、消費者庁長官の許可を受けて、乳児用、幼児用、妊産婦用、病者用等の特別の用途に適する旨の表示をして販売する食品です。特別用途食品のうち、身体の生理学的機能等に影響を与える保健機能成分を含んでおり、食生活において特定の保健の目的が期待できる旨を表示する食品を「特定保健用食品」といいます(健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令第2条)。
また、特定保健用食品については、それまでの審査で要求している有効性の科学的根拠のレベルには届かないものの一定の有効性が確認される食品については、限定的な科学的根拠である旨を表示することを条件として許可される「条件付き特定保健用食品制度」の他、これまでの特定保健用食品の中で、許可実績が十分である等、科学的根拠が蓄積した関与成分について新たに規格基準を定め、審査の迅速化を目指した「特定保健用食品(規格基準型)制度」、関与成分の疾病リスク低減効果が医学的・栄養学的に確立されている場合、疾病リスクの低減に関する表示をする「特定保健用食品(疾病リスク低減表示)制度」があります。
なお、「特定保健用食品」は、健康増進法と食品表示法の2つの法律に規定されており、食品表示基準において、「栄養機能食品」及び「機能性表示食品」とともに「保健機能食品」として位置づけられています。
(イ)健康の保持増進に係る虚偽・誇大表示の禁止
食品として販売するものに関して、健康の保持・増進効果等について、著しく事実に相違する又は著しく人を誤認させるような表示をすることが禁止されています(健康増進法第65条第1項)。
(5)医薬品医療機器等法の概要と関与
ア 目的等
医薬品医療機器等法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号))は、医薬品の使用によってもたらされる国民の健康への積極的、消極的被害を未然に防止するため、医薬品に関する事項を規制し、その品質、有効性及び安全性を確保することを目的としています。
医薬品医療機器等法において医薬品として規制を受けるべき物は、次のように定義されています。
〔医薬品医療機器等法第2条第1項〕
一 日本薬局方に収められている物
二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいいます。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいいます。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)
三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)
この定義から、「疾病の診断、治療又は予防に使用する」又は「身体の構造又は機能に影響を及ぼす」という目的性がある物は、医薬品に該当し、医薬品医療機器等法の規制を受けるべき物となります。
いわゆる健康食品について医薬品医療機器等法との関係で問題となるのは、医薬品として医薬品医療機器等法で規制を受けるべき物が食品の名目のもとに製造・販売されるという点です。
医薬品に該当する物が、医薬品医療機器等法に基づく承認・許可を取得せず(無承認医薬品)に食品として製造・販売されるとなると、
① 一般消費者の間にある、医薬品と食品に対する概念を混乱させ、ひいては医薬品に対する不信感を生じさせるおそれがある
② 有効性が確認されていないにもかかわらず、疾病の治療等が行えるかのような認識を与えて販売されることから、これを信じて摂取する一般消費者に、正しい医療を受ける機会を失わせ、疾病を悪化させるなど保健衛生上の危害を生じさせるおそれがある
等の問題が生じます。
医薬品医療機器等法は、このような国民の健康への積極的、消極的被害を未然に防止するため、無承認医薬品の製造・販売を禁止しています。
イ 主な規定事項
(ア)医薬品の範囲に関する基準
医薬品医療機器等法に規定する医薬品に該当するか否かについては、昭和46年6月1日薬発第476号厚生省薬務局長通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(通称『46通知』という。)において、具体的な判断基準として「医薬品の範囲に関する基準」が示されています。
(イ)医薬品の判定における各要素の解釈
①物の成分本質(原材料)からみた分類
「医薬品の範囲に関する基準」では、様々な成分についてその成分の作用等を考慮し、「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)」と、「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」に分類し、現在までに判断された成分本質(原材料)のリストを例示しています。
専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)に分類された成分は、医薬品医療機器等法に規定された医薬品の目的性を持つことが明らかであるため、原則として食品に使用することができません。
②医薬品的な効能効果とは
食品に疾病の治療又は予防を目的とする効能効果等が表示説明されている場合、医薬品的な効能効果を標ぼうしているものとみします。ただし、栄養機能食品については、その栄養成分の機能表示等を医薬品的効能効果とは判断しません。
③医薬品的な用法用量とは
その物の使用方法として、服用時期、服用間隔、服用量等の標ぼうのある場合には、原則として、医薬品的な用法用量とみなします。
一方、食品であっても過剰摂取や連用による健康被害が起きる危険性などがあるものについて、「食品」の文字を容器等に分かりやすく記載し、適度な栄養補給を目的として1日量の目安を示す場合は医薬品的な用法用量とは判断しません。また、栄養機能食品については、医薬品と誤認されやすい表現(「食前」、「食後」、「食間」等)を用いる場合以外は、摂取時期、間隔、量等の記載によって医薬品的用法用量とはみなしません。
④医薬品的な形状とは
通常、食品として流通しないアンプル剤等の形状は、消費者に医薬品との誤認を与えるおそれがあるため、専ら医薬品的な形状に該当します。しかしその他の形状のもの(錠剤、丸剤、カプセル剤等)は、「食品」である旨が明示されており、他の標ぼう内容からも、消費者に医薬品と誤認させることを目的としない場合は、原則として医薬品的な形状に該当しません。
医薬品に該当するか否かは、個々の製品について上記①から④を総合的に検討の上、判断することとなります。
なお、次の物は原則として、通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識しないものと判断して差し支えありません。
・野菜、果物、調理品等その外観、形状等が明らかに食品と認識される物。
・健康増進法(平成14年法律第103号)第43条の規定に基づき許可を受けた表示内容を表示する特別用途食品
・食品表示法(平成25年法律第70号)第4条第1項の規定に基づき制定された食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)第2条第1項第10号の規定に基づき届け出た内容を表示する機能性表示食品
(6)景品表示法の概要と関与
ア 目的等
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号))は、過大な景品や不当な表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的としています。
イ 主な規定事項
本法では、商品の包装やラベルなどの表示、見本、チラシ、口頭による広告、ポスター・看板、実演、新聞、放送、インターネット等による広告など、事業者が一般消費者に対して知らせるあらゆるものを対象として、うそや大げさな表現によって顧客を誘引する不当表示を禁止しています。
なお、不当表示は以下のように分類されます。
(ア)商品・サービスの品質や規格、その他の内容について、実際のものよりも、又は事実に相違して競争事業者のものよりも、著しく優良であると誤認される表示(優良誤認)の禁止
(イ)商品・サービスの価格などの取引条件について、実際のものよりも、又は事実に相違して競争事業者のものよりも、著しく有利であると誤認される表示(有利誤認)の禁止
(ウ)その他誤認されるおそれのある表示として、内閣総理大臣は、商品の原産国に関する不当な表示など7種類の不当表示を指定・禁止
(7)特定商取引法の概要と関与
ア 目的等
特定商取引法(特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号))は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的としています。
イ 主な規定事項
本法では、「訪問販売」、「通信販売」、「電話勧誘販売」、「連鎖販売取引」、「特定継続的役務提供」、「業務提供誘引販売取引」、「訪問購入」という、消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。
(8)消費生活条例の概要と関与
ア 目的等
消費生活条例(東京都消費生活条例(平成6年東京都条例第110号))は、消費者の権利を確立し、都民の消費生活の安定と向上を図ることを目的に制定されたものであり、事業者が行ってはならない不適正な取引行為を定めています。
イ 主な規定事項
特定商取引法が対象とする取引類型を限定しているのに対し、条例は事業者と消費者との間の全ての取引を対象としています。したがって、本条例での規制の対象は、事業者が消費者と行う全ての取引形態、全ての商品・サービスです。本条例では、不適正な取引行為として9つの類型を掲げ、事業者が消費者と取引を行うに当たってこれらの不適正な行為を行うことを禁止しています(条例第25条)。東京都は、条例で定めた不適正な取引行為が行われている疑いがあると認めたときは、事業者に対し、指導・勧告等を行うこととなっています。
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