平成18年11月6日に全国町村会館(千代田区)で、『こどものアレルギーを正しく知ろう~ぜん息と食物アレルギーの治療と日常生活の過ごし方』をテーマに、国立成育医療センター医師の大矢幸弘氏による講演を行いました。
当日は、託児も実施し、会場は子どものアレルギー疾患に悩む保護者、保育園・学校関係者など259名の参加者で満員になりました。
講師から、ぜん息や食物アレルギーに関する最新の診断・治療方法や、日常生活の管理について具体的な対応方法も含めたお話がありました。また、講演後、会場から質問が多数寄せられましたが、一つひとつわかりやすく答えていただきました。
参加者からは「ぜん息の発作がないときもコントロールが必要であることがわかりました」「中途半端なステロイド吸入の使用を避けたいと思います。ステロイド吸入がとても有効なことがわかり今後の考え方が変わりました」「食物除去は医師の指示のもとで、適切な判断が必要であることがわかりました」「子どもへのストレス対策について、悪化させる行動にあてはまっていた。対応がよくわかりました」等の感想が寄せられました。
気管支ぜん息は、気管支が慢性の炎症を起こして過敏になっている病気です。そのため、健康な人が反応しない程度の刺激でも気管支が収縮して発作がおこります。
気管支ぜん息の特徴
(1)原因がひとつではない、多因子性疾患である
(2)症状があるときだけ治療が必要な急性疾患とは違う慢性疾患である
(3)アレルゲンの回避と気道の慢性炎症を治す必要がある
『ぜん息死』の問題があります。
重症患者だけでなく、軽症・中等症の人でも起こっています。日本のぜん息死亡者数は、年間3,100から3,200人ぐらいですが、そのうち重症患者は半分、軽症・中等症患者が各々4分の1の割合となっています。年々死亡者数は減ってきていますが、先進国の中で日本はぜん息死が多いと言われています。
日本にぜん息死が多い理由
(1)非発作時の根本的な治療であるステロイド吸入の導入が欧米諸国よりも遅れ、気管支拡張剤よる急性発作対策中心の治療が続いてきたこと
(2)慢性疾患としての認識が十分に行き渡っていないということが原因と考えられています。
治療の根本は気管支の慢性の炎症をなくして、正常な気管支に戻すことです。
薬物治療
(1)長期管理薬(コントローラー)
長期間かけて慢性炎症を治す薬
つまり発作準備状態をなくす薬
(2)発作治療薬(レリーバー)
発作が起きたときの気管支をひろげる薬
発作が起きてしまったら、発作治療薬を使用し、発作をとめますが、これを繰り返していると、だんだん気道の壁が厚くなり、元に戻らなくなってしまいます。
そこが問題です。
従来は発作治療薬を中心とした薬物療法が多く行われていましたが、いまは長期管理薬が重視されています。その代表的なものが吸入ステロイドです。
吸入ステロイドについて
(1)なるべく早めに吸入ステロイドを使って、気管支を元のきれいな状態に戻してあげることが大事
(2)新しい子どものぜん息ガイドラインでは、ステロイド吸入が第1選択薬
(3)「ステロイド吸入は危なくないの?」という疑問が多くあるが、実は医師のコントロール下で適切に用いれば、非常に安全な薬で、内服と異なり全身への影響がほとんどない
治療の目標
(1)薬を使っているときの目標
(注釈1:ピークフロー 大きく息を吸い込んで力いっぱい息をはきだす強さを表す数値で、気管支の状態を判断するてがかりになります)
(2)最終目標
・薬が無くても、発作がでないこと
環境整備:シンプルライフ(掃除のしやすい環境)へ
大事なことは、アレルギー反応を起こす元になる、たくさんの因子(ダニ・ホコリ・カビ・タバコの煙・ペット・花粉・疲労など)を減らし、激しい運動・温度の変化・ストレスなどに注意することです。
たくさんの因子に対する対策を立てることで、少しでも症状を改善することができます。
(1)環境整備のポイント
タバコ | 受動喫煙も危険 |
じゅうたん | 拭き掃除ができる床に変える |
ソファ | 布製は使用しない |
ぬいぐるみ | 減らす。洗って掃除機をかける |
寝具 | ダニを通さない高密度布団カバー (布団カバーは、1週間に1回は洗いましょう) |
カーテン | 洗濯しやすいものを使用 |
ペット | 毛のある動物はさける |
家庭での対応:
(1)発作時の家庭での対応
(2)自己管理について
日頃から、ぜん息日誌(注釈2)やピークフローメーターによるモニタリングをしていると、より正確にぜん息の状態を把握することができます。そのため、無駄な薬を減らして精度の高い治療を受けることが可能になります。また、昔からある鍛錬療法(水かぶりや乾布摩擦など)も適切に行えば役に立ちます。
(注釈2)ぜん息日誌:
ぜん息症状やピークフロー値と天候や日常生活の関連をみて、自分の生活を振り返ることにより、発作のきっかけに気づいたり予防へのヒントとなります)
子どもがぜん息発作を起こしたときしか親が真剣に相手をしないと、子どもにとってはぜん息発作を起こした方が親が相手をしてくれる(という嬉しいことがおこる)ので、ぜん息が治らなくなります。
発作がない時こそ、優しくして、よく面倒をみること、非発作時の治療こそ重要です。
子どものぜん息を悪化させる親の言葉と行動(例)
「お兄(姉)ちゃんだから我慢しなさい」
ストレスをかけないよう子どもの言いなりになる
入院したとき何でも好きなものを買い与える 等
食物アレルギーは、原因食物を摂取した後に免疫学的機序を介して、体に好ましくない反応が起こる場合を言います 。
(1)詳しく症状や経過を聞くことで診断できる場合が多い
受診するときに、医師に伝えること
また年齢・栄養方法・家族歴・服薬歴等も伝える。
(2)血液検査(特異的IgE抗体)の結果は参考にはなるが、絶対的なものではない
(3)皮膚テスト(プリックテスト)やヒスタミン遊離試験は血液検査より少し関連が高い
(4)厳密な診断には食物負荷試験
ただし、アナフィラキシー(注釈3)を起こしたことのある患者は危険なので原則としてやらない
(注釈3 アナフィラキシー:アレルギー反応により、意識障害や血圧低下などのショック症状が現れること)
治療は、正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去が原則で、除去の種類や期間は患者ごとの個別対応です。
食物除去にあたって、食物日誌を活用したり、成長・発達に留意しつつ経過観察します(母子手帳を利用して成長曲線の経過観察)。
食物アレルギー症状出現時の対応
(1)症状が出現したら、あらかじめ医師により処方された抗ヒスタミン薬・ステロイド薬を内服する
(2)症状が進んでくる場合(呼吸器症状等)、エピネフリン(注釈4)の自己注射をする
(3)その後、医療機関を受診する
(注釈4 エピネフリン:呼吸器症状やアナフィラキシー症状を改善する薬)
食物依存性運動誘発アナフィラキシー(食後に運動すると誘発される食物アレルギー)
原因食物をとってから2時間、できれば4時間ぐらい運動を控える
原因食物は小麦、エビ・イカなどが多い
口腔アレルギー症候群(口腔粘膜における食物による接触性蕁麻疹)
症状出現は5分以内が多く、まれに全身症状を起こすことがある
原因食物は果物や野菜などが多い
食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は、湿疹などのよく似た症状がでますが、実は特徴が異なります。
症状(湿疹)が出た時に、詳細な問診をし、スキンケア・薬物療法・環境整備による治療を行います。それでも改善しない場合には、食物アレルギーによるアトピー性皮膚炎を疑います。
食物アレルギーによるアトピー性皮膚炎は、年齢が低い乳児に多く、1歳半過ぎの幼児では年齢とともに少なくなります。乳児期の食物アレルギーは自然治癒率が高いです。
いつまでも不要な食事制限を長引かせないことが大切です。
食物アレルギー | アトピー性皮膚炎 |
---|---|
単因子性疾患 | 多因子性疾患 |
慢性疾患というより急性疾患が主 症状がないときには基本的に治療は不要 |
慢性疾患 症状がないときにも毎日治療が必要 |
アレルギー炎症はない アレルゲンの回避だけでよい 毎日の薬はいらない |
アレルギー炎症性疾患 アレルゲンの回避と炎症を治す治療が必要 |
このページの担当は 健康安全研究センター 企画調整部 健康危機管理情報課 環境情報係 です。