平成17年度講演会報告

ぜん息とアトピー性皮膚炎の基礎知識 ~子どものアレルギー最新治療~

講師 勝沼 俊雄 氏(東京慈恵会医科大学附属病院小児科診療医長) 
平成17年11月8日(火曜日) 

 近年、アレルギー性疾患を持つお子さんが増加し、また複数の疾患を合併して発症される方もいます。アレルギー性疾患は適切な治療を受けるとともに、患者さんやご家族が正確な知識を得て日常生活上の留意点を守ることにより、症状を抑えコントロールすることができる疾患です。今回は、病院での診察経験も豊富な勝沼 俊雄氏に講師をお願いし、アレルギー性疾患の基礎知識・最新の治療法と共に、日常生活における注意点や発作時の対処法などをお話しいただきました。

 

1.アトピー性皮膚炎について 

  アトピー性皮膚炎の治療は、15年前ならば、まずは卵・牛乳・大豆の摂取を禁止して、非ステロイドの軟膏を中心に様子を見ましょう、というものでした。しかし現在は、
1. 治療方針についての説明を十分に行う
2. 適正な強度のステロイド外用剤を使用する
3. 必要に応じて抗生剤や抗ヒスタミン剤を使用する
4. スキンケアと通院を継続する

以上のように変わってきています。非ステロイド抗炎症性軟膏は、治療効果が低く薬物アレルギーを無視できない割合で引き起こすため、現在は使用しない方がよいと考えられています。
  ステロイド外用剤については、最初は湿疹の重症度に応じた強さのものを使用します。炎症が次第に治まってきたら、弱いレベルに変えていき、徐々に保湿剤へ移行してゆきます。最終的にはほとんどの方が保湿剤のみでコントロールが可能になります。日常生活においては、皮膚を清潔に保ち入浴時には石鹸でよく洗うことが大切です。

 

2.食物アレルギーについて 

  食物アレルギーは、乳児期は10%くらいの確率で発生します。特徴としては、
1. 9割以上の患児では年齢を重ねるに連れて軽快する
2. 魚介類は年長になるほどリスクが増える
3. 食物の摂取量に関連がある
4. 食物・食品の加熱により変化する
5. 場合によっては抗ヒスタミン剤の有効性がある
等があげられます。また、食物アレルギー=アトピー性皮膚炎ということにはなりません。すなわち、食物制限をすればアトピー性皮膚炎が治るという訳ではありません。食物制限とアトピー性皮膚炎に対する治療は、独立したことと考えてください。
  原因食物としては、卵・牛乳・小麦の順番で多くなっています。生活上の注意点としては、
1. 必要な制限をしっかり行う
2. 添加物に注意する
3. 種類によっては強い食物アレルギーがある
4. 交差抗原性に注意する
ことです。また、食物によるアナフィラキシーの症状に対しては、早期のエピネフリン(エピペン)の投与が有効です。ただし現在は自己注射しか認められていないので、緊急時に適切に使用できるような薬品の管理運用体制の整備が課題となっています。

 

3.ぜん息について 

  小児ぜん息の症状を持つ患者のうち、少なくとも半分が大人まで持ち越しています。その原因としては、気管支の慢性的炎症とリモデリング(気道の基底膜が肥厚し硬くなる状態等)が継続・進行していることが考えられます。大切なことは、比較的軽症状態にあっても、適切な診断と評価のもとで治療を受けることです。現在の治療の中心は、吸入ステロイド薬です。吸入ステロイド薬の使用により、病院へのぜん息の入院患者数は明らかな減少傾向を示しています。副作用については、少ない量であれば問題はないので、必要以上に恐れないようにして下さい。使用後には必ずうがいをすることを忘れないで下さい。また、ぜん息の重症度が高いほど運動誘発性ぜん息(EIA)を引き起こしやすくなります。運動をしてもぜん息症状が出ないよう、しっかりケアすることが大切です。
  薬の必要性を真に減らしたければ、自宅の環境を整備することが重要です。具体的には家のチリダニやホコリを減らすことです。部屋や寝具の掃除をこまめに行うことや、防ダニ素材の寝具を使用することで、家の中のアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)を減らすことができます。また受動喫煙を避ける工夫も必要です。
  子どものぜん息については、身体的側面はもちろん精神的側面も含めて総合的に改善を図ることが重要です。ぜん息は、子どもさん本人ばかりでなく保護者も、罪悪感、不安感、精神的負担感が強い状況にあります。医師から的確な診断と治療を受け症状を軽減させることが、子どもや保護者にとってのQOL(生活の質)の向上につながるといえます。

 

4.質問に対する回答 

Q1.ぜん息発作が起きた場合の具体的対処法、保育園・学校にて吸入が必要な場合の注意事項について
A1.病院で処方されている飲み薬や頓服(発作止め)を用います。ネブライザー吸入をまず半分の量行い、子どもの気持ちを安心させます。そして屋外の新鮮な空気を吸わせると、多くのケースで呼吸が落ち着いてきます。その後、残りの半分の吸入を行う、というのが私のお薦めです。陥没呼吸(鎖骨の上の皮膚が息を吸う時にへこむ呼吸の状態)がよくならない時は、病院を受診します。

Q2.アトピー性皮膚炎の予防法、敏感肌との違いについて
A2.アトピー性皮膚炎の軽い状態が敏感肌と考えてよい場合もあります。予防法としては、ばい菌を繁殖させないことが大切です。
1. 受動喫煙を避ける
2. ペットを飼わない
3. 防ダニ寝具等も利用して環境中のダニを減らす
4. 皮膚を掻くことが一番よくないので爪をまめに切るようにする
以上があげられます。それでももし発症してしまったら、病院を受診します。

Q3.プロトピック軟膏の効果と副作用について
A3.現在の治療は、ステロイド剤がメインです。プロトピック軟膏は、顔面ではよく効きますが、その他の部分にはあまり効かないこともあります。また、大人用の0.1%に比べて小児用の0.03%は、少々効きが弱い印象を持っています。ネズミの実験においては、極端に大量に用いた場合、体内のリンパ球の機能を低下させてしまいリンパ腫ができたという報告があります。しかし、人間ではかなり安全に使用できると、評価は高まっています。

Q4.アトピー性皮膚炎は成人になればよくなるのか。
A4.ケースによってまちまちです。どういうケアが行われるかによっても違います。ぜん息も同様です。適切な治療を早く受ければ治ります。

Q5.子どもにアレルギー反応が出たら、母親も原因食物の除去をした方がよいか。赤ちゃんの時に除去食にした場合に、発達に影響があるのか。
A5.これもケースによってまちまちです。必要な除去は行います。母乳を摂取することでも、軽い反応は出ることがあります。しかし母親も除去した方がよいのかは、一概には言い切れません。過度な除去を行うと、成長障害を引き起こす場合もあります。子どもの成長を確認しながら治療を受けることが重要です。

Q6.ぜん息の治療で吸入ステロイドを使用しているが、気道の炎症は治るのか。また一生続けなくてはいけないのか。
A6.吸入ステロイドについては、1、2ヶ月使用したくらいでは、すぐには効果は出ません。長期間使用することで効果は現れてきます。平均すると約2年位使用していると、症状はかなり良くなってきます。それでも、ある程度の気道の炎症やリモデリングは残ってしまいます。ぜん息の症状が軽度なうちに、より早めに吸入ステロイドを使用し始めれば、かなりの改善が見込まれます。

 

5.参加者からの意見 

  • ステロイドについて必要以上に怖がらずに使用したいと思いました。今必要な治療をきちんと受けさせることが大切だと思いました。   
  • 症状を悪化させない、出さない治療。出てしまったときの対処を整理・理解して、治療を受けさせていきたい。  
  • 継続的に薬を服用・吸入し、医師の診察を受けるようにします。   
  • 保護者の気持ちに立ってお話いただき、心強く思いました。  
  • 昔と今の治療の違いを明らかにしていただき、よく理解できた。先生の熱意とご自身の体験談に共感しました。   

  
 当日は320名の参加者の方で、会場は満員になりました。勝沼氏の説得力のあるお話に、参加者の方もメモを取りながら熱心に聴いていらっしゃいました。

 

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