講師 赤澤 晃 氏 (国立成育医療センター総合診療部小児期診療科医長)
平成17年1月19日(水曜日) 調布市文化会館たづくり くすのきホール
アレルギーと上手につきあっていくために、また、上手に治療していくために、何が必要でしょう?
大切なのは、病気をよく知ることです。アレルギーがどうして起こってくるかを知ると、検査の意味やくすりの必要性についても自然とわかってくるものです。
今回の講演会では、患者さんやご家族が、アレルギーに関する正しい知識をもつこと、そして、「そうか!アレルギーって自分でコントロールできるんだ!」という積極的な気持ちをもつことを目標に、お話していただきました。
以前は、ぜん息というのは、気道の敏感な人が、煙やほこりなどの刺激を受けたときに気道が狭くなり、ヒューヒュー、ゼーゼーといった発作を起こすものと考えられていて、発作のときだけ治療をすればよいという考え方が主流でした。
それが現在では、発作がないときも患者さんの気道は慢性的に炎症を起こしていることがわかりました。そして、発作が起きるとさらに炎症がひどくなり気道が固くなるなどの構造変化(=リモデリング)を起こす・・・という悪循環を断ち切るため、発作がないときも炎症を抑える治療が大切という考え方に変わってきました。
食べ物は、口から食道、食道から胃、胃から腸という経路をたどる過程で、消化酵素によって分解されて小さくなっていきます。そして、細胞を通過して体の中に取り込まれるわけですが、ここで十分に分解されないまま体の中に入ってくると、異物と認識してアレルギーの症状を起こすのです。その理由として、消化液がたくさん出ていないこと、消化管の粘膜のバリアーが弱っていて、いろいろなものを取り込んでしまうことが考えられます。赤ちゃんは消化管の機能が未熟なので、離乳食のときにアレルギーを起こしやすいわけです。
食物アレルギーの症状は、ぜん息の症状やアトピー性皮膚炎の悪化、口の中のかゆみ、くしゃみ、鼻水、下痢など様々です。症状が強いとショック(=アナフィラキシーショック)を起こすこともあります。
皮膚というのは、表面(=角質層)は死んだ細胞でカサカサしています。これを補うために脂が出ていて、刺激に対するバリアーの機能を果たしています。
アトピー性皮膚炎が起こる要因は3つあって、1つ目がこのバリアー機能の障害で、もともと脂が少ない(いわゆるドライスキン)場合など。2つ目が皮膚への刺激で、引っ掻くこと、汗、汚れ、細菌、ダニやほこりなどのアレルゲン、化粧品、熱、紫外線など。そして3つ目が、バリアーが壊れて色々なものが体に入ってくることによる炎症(アレルギー性の炎症反応)です。
アレルギー性の炎症反応にはアレルゲンに接してすぐにおこる反応と、慢性的に続く炎症反応があります。
アレルギーの根本的な治療は、この両方の炎症反応を抑えることなので、ぜん息やアトピー性皮膚炎の症状が改善してきても、くすりを勝手にやめないこと、環境整備やスキンケアなどの自己管理を続けることが大切なのです。
血液検査(IgE抗体検査など) | IgE抗体とは、アレルゲンに反応して作られるもので、その量によって0から6のクラス分類をします。クラスが高いほどIgE抗体の量が多いということですが、クラスがいくつだから必ずこの症状が出ます・・・とは言えないので注意。血液検査の結果だけでなく、総合的に判断することが大切です。 |
皮膚テスト | 皮膚にアレルゲンの液を1滴垂らして軽く引っ掻き、反応をみるものです。 |
肺機能検査 | 呼吸状態をみるものです。(ぜん息で気管が狭くなっていると、息を吐くのに時間がかかる)病院ではスパイロメーターという機械を使いますが、ピークフローメーターを使うと自宅でも簡単に測定できるので、自己管理に役立ちます。 |
気道過敏性試験 | 運動をしたり薬を吸ったりしてから肺機能を計ります。 |
食物負荷試験 | 何を食べているかわからないようにして、アレルゲンの食品を少量ずつ食べさせてみる検査です。 食物アレルギーの最終的な診断となります。 ショックを伴うこともあるので、必ず医療機関でしてもらうこと。 |
ぜん息の治療 | 環境整備 | 体力づくり | 薬物療法 急性発作への対応薬 慢性炎症を抑える長期管理薬(ステロイドなど) |
ポイント 発作の時の対応を、子ども本人と主治医と保育所(学校)と確認しておくこと。 |
食物アレルギーの治療 | 食物除去(または制限) | 栄養指導 | 薬物療法 症状を抑える薬 ショックに対応するための薬 |
ポイント 間違って制限中の食品を食べてしまったときの対応を確認しておくこと。 アナフィラキシーショック時の対応を確認しておくこと。 |
アトピー性皮膚炎の治療 | 環境整備 | スキンケア (皮膚のバリアーを戻す) |
薬物療法 皮膚を保護するもの 炎症を抑える薬(ステロイド) |
ポイント ステロイドの塗り薬を使う時には、確実に炎症を抑えられる強さのものを、しっかり(厚めに)、症状が消えるまで塗ること。 そこからゆっくり減らしていくこと(ステップダウン法) |
後半は、赤澤先生に参加者の皆さんから事前にいただいた質問や、会場からの質問に答えていただきました。
締めくくりに、赤澤先生から「小さな子どもでも、アレルギーの起こる機序を知ると検査や治療に関心をもつので、きちんと説明をして、自分で治そうと思うきっかけを作ってあげてください。」とのメッセージがありました。
参加者の方の感想から・・・
「ステロイドを使っていて心配だったが、治療ガイドラインに沿って、上手にくすりを減らしていく方法が分かった」
「発作の時の対応を見直したい」
「アレルギーが起こるメカニズムが良く理解できたので、かかりつけ医とも相談しやすくなると思う」 など
当日は174名の参加がありました。たくさんのご参加、ありがとうございました。
このページの担当は 健康安全研究センター 企画調整部 健康危機管理情報課 環境情報係 です。