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ワンヘルスアプローチに基づく抗微生物薬と薬剤耐性微生物の実態把握に関する研究 |
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令和3–5年度に実施した重点研究「ワンヘルスアプローチに基づく抗微生物薬と薬剤耐性微生物の実態把握に関する研究」の概要を報告する.本研究は,世界的に人類の健康への大きな脅威となっている薬剤耐性(AMR)の対策への一環として,コンパニオンアニマル,食品,農産,畜産及び環境における抗微生物薬と薬剤耐性微生物の存在実態の両面からアプローチすることを目的とした.5つの個別課題を進めたところ,次の成果を得た.薬剤耐性菌の存在実態に関しては,基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生大腸菌株の分子疫学的解析より,ヒト流行株と近縁の株がイヌ,ネコ,河川水よりを検出することを示した.これにより,ヒトから排出された耐性菌が,ペットや河川へ伝播するといった関連性が窺えた.一方,食品由来株は,遺伝子型が異なっていた.また,耐性獲得や伝播の仕方について一考察を得た.抗微生物薬の実態については,AMRを獲得するよりも低い濃度の残留の有無を判定し,かつ精確にその量を測定出来るようにすることを試みた.畜産食品中の高極性抗微生物薬,農産食品及び環境水中農業用殺菌剤に対し,各々の試料に適した高感度かつ高精度な分析法開発を行った.開発法の応用として,食品分野では日常検査への導入を試み,環境分野では浄水処理の挙動の解明を行った.成果の発信により,WHOが提唱するワンヘルスアプローチに基づく薬剤耐性対策の強化の一助となった. |
薬剤耐性,ワンヘルスアプローチ,ESBL産生大腸菌,高極性抗微生物薬,農業用殺菌剤,コンパニオンアニマル,畜産食品,農産食品,環境水,浄水処理,ゲノム解析,LC-MS/MS |
地方衛生研究所における次世代シークエンサーの利用と課題 |
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を契機に,次世代シークエンサー(NGS)が全国の地方衛生研究所(地衛研)で配備され,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株解析等で活用されている.NGSのそれ以外の具体的な利用法としては,臨床検体の網羅的な病原体解析,病原体の詳細な遺伝子解析等が想定される.地衛研を取り巻く状況として,感染症予防計画等を踏まえた健康危機対処計画が策定されている.微生物分野の健康危機事例発生時の病原体検査は地衛研において必須となり,従来の検査法に加え,NGSの効果的な活用を標準化していかなければならない.一方で,まだまだNGSに関係するインフラ,技術,予算および人材育成面での課題は山積している.特に,網羅的解析等に係るソフトウェア,パルスフィールドゲル電気泳動法としての代替法としての利用,集積したゲノム情報の活用等,地衛研として解決すべき課題は多い.本稿では,地衛研におけるNGS解析法の使用法を紹介するとともに,地衛研が抱える課題について考えてみたい. |
次世代シークエンサー,地方衛生研究所,利用,解析 |
都内における下水中の新型コロナウイルスモニタリング調査と変異株解析 |
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下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)モニタリングは,COVID-19の流行状況のモニタリングツールの一つとなることが期待されている.今回,2023年5月から2024年5月までに都内水再生センター20カ所(区部13カ所,多摩地域7カ所)で採取された流入下水を対象に,全自動遺伝子検査装置を用いた半定量的SARS-CoV-2検査を実施し,ヒートマップ形式でウイルス量の変化をモニタリングした.その結果,都内定点医療機関あたりの患者数とヒートマップで連動がみられ,流行状況のモニタリングツールとして有用性が示唆された.さらに,下水検体を対象にリアルタイムPCR法による遺伝子変異検出(スパイク蛋白G339D/H)を試みたところ,都内感染者の変異株流行状況を反映した遺伝子変異の変遷が確認された. |
下水,新型コロナウイルス,SARS-CoV-2,定量,全自動遺伝子検査装置,ヒートマップ,リアルタイムPCR法 |
東京都における胃腸炎ウイルスの検出状況(2022年度~2023年度) |
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2022年度から2023年度に東京都健康安全研究センターに食中毒調査,積極的疫学調査,感染症発生動向調査により搬入された検体について胃腸炎起因ウイルスの検査を実施した.その結果,714事例中317事例から胃腸炎起因ウイルス(ノロウイルス:NoV,A群ロタウイルス等)が検出された.内訳はNoVによるものが最も多く,遺伝子型GII.4が大半を占めていた.2023年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の5類感染症移行とともに検体搬入数およびウイルス検出数は2022年度と比較して大幅に増加した.また,検出されたNoVの遺伝子型はCOVID-19の流行以前と比較して遺伝子型の多様化が見られた. |
食中毒調査,積極的疫学調査,感染症発生動向調査,感染性胃腸炎,ウイルス性食中毒,ノロウイルス,ロタウイルス,サポウイルス,アデノウイルス,アストロウイルス |
市販のヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を用いたヒトノロウイルス分離培養方法の検討 |
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感染性胃腸炎の主要な原因ウイルスであるヒトノロウイルス(HuNoV)は培養系が確立されていなかったが,近年,ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞(iPS-DIEC)を用いたHuNoV分離培養の成功事例が報告されている.現在,iPS-DIECは国内でも市販されており,iPS細胞の培養や,目的とする細胞への分化処理に関する技術に習熟していなくても,簡便にiPS-DIECを利用することが可能となっている.本研究では,HuNoV陽性の糞便検体を分離材料として,市販のiPS-DIECにHuNoVを接種し,分離培養を試みた.その結果,HuNoV遺伝子型別にみるとRNAコピー数ベースで,最大HuNoV GII.2[P16]は約300倍,GII.3[P12]は約20倍,GII.6[P7]は約700倍,GII.7[P7]は約1,000倍,GII.4[P16]は約3.8倍,GII.17[P17]は約1.5倍に増加した.またHuNoV陽性の糞便検体を,85°Cで5分間加熱して培養が可能か調べたところ,加熱処理により増殖が抑制されることを確認した.以上の結果から,市販のiPS-DIECは,簡便な取り扱いでHuNoVの培養が可能であり,加熱処理等のHuNoV不活化試験等に応用できることが示唆された. |
ヒトノロウイルス,ウイルス分離,ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞 |
GISAID登録データを用いた東京都内のSARS-CoV-2薬剤耐性変異株の検索(2023年度) |
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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)治療薬は,重症患者や重症化リスクのある患者の治療に用いられる一方で,その使用により治療薬の薬理作用から逃避する変異ウイルスの出現が懸念されている.SARS-CoV-2に特有のアミノ酸変異が治療薬に対し強耐性を示すことは現時点では確認されていないが,薬効を減弱させる可能性があるアミノ酸変異が多数報告されている.そこで,国際的なゲノムデータベースであるGlobal Initiative on Sharing Avian Influenza Data(GISAID)登録データを活用し,2023年4月から2024年3月に東京都内で検出されたSARS-CoV-2薬剤耐性変異株について,検出時期別にPANGO系統株との関連性を調査した.その結果,特定の検出時期およびPANGO系統で,薬剤耐性変異株が多数検出された.最も多かった薬剤耐性変異株はnsp12領域に変異を有するG671S株(3,737株)であり,東京都が登録した全4,553株の82.1%を占めた.また,nsp5領域に変異を有するM49L株は8株あり,系統樹解析ではEG.5.1.1,EG.5.1およびHK.3系統(いずれもオミクロン株)内でクラスターを形成したが,クラスター形成株間の疫学的関連性は低いと考えられた. |
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2),薬剤耐性,抗ウイルス薬,GISAID,ニルマトレルビル,エンシトレルビル,レムデシビル |
東京都におけるSARS-CoV-2抗体価について(2019年12月~2023年11月) |
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2020 年から世界で流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,日本でも感染者が述べ3,300 万人を超え,未曽有の大災害の原因となった.これに対し,今までにないスピードでワクチン開発が進められ,世界各地で積極的に接種が行われた.多くのヒトが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への感染とワクチン接種により,体内に抗体を保有し,その増減を調べることは感染者の割合と市民の免疫をおおよそに把握することにつながるため,血清疫学的に利用されてきた.今回,当センターに性感染症検査として搬入された血液を用いて,2019 年12 月から2023 年11 月までの期間においてSARS-CoV-2の抗ヌクレオカプシド蛋白(N)抗体価,抗スパイク蛋白(S)抗体価および中和抗体価を測定した結果,都内のCOVID-19の流行とともに抗N抗体の陽性率の上昇が見られ,ワクチン接種率の上昇と同様に抗S抗体の陽性率は上昇していた.また,抗S抗体価と中和抗体価において,対数のプロットは正の相関を持ち,月ごとの幾何平均値のプロットの概形は非常に似通っていた.定期的に抗体を測定することにより市民のもつ抗体価の全体的な傾向を観察できる可能性が示唆された. |
SARS-CoV-2,COVID-19,抗N抗体,抗S抗体,中和抗体 |
アンモニア水を使用しない食品中のグリチルリチン酸およびステビア甘味料一斉分析法 |
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クリーンアナリシスに配慮した効率的かつ回収率の向上を図ることを目的とし,アンモニア水を使用しないグリチルリチン酸(GA,カンゾウ抽出物を含む)およびステビア甘味料(ステビオシド(SS),レバウジオシドA(RS))一斉前処理法ならびにLC-PDAによる同時測定条件について検討した.その結果,トリス緩衝液・メタノール混液を用いた直接抽出および固相抽出による効率的な前処理法とLC-PDAによる良好な同時測定条件を確立した.トリス緩衝液は,トリス塩基とトリス塩酸塩を使用することで,塩酸によるpH調整を不要とした.また,ODSカラムで移動相にギ酸およびアセトニトリルを用いたLC-PDAによるグラジエント測定条件を構築した.これにより,1分析あたり30分以内で両甘味料の良好な同時測定が可能となった.12種類の食品について添加回収試験を行った結果,SS,RSは90%以上,GAは70%以上と良好な回収率であった.また,SS,RSは既存法と同等性が確認された.一方,GAでは食品により厚生労働省通知「食品中の食品添加物分析法」(通知法)の検査法による定量値と比較し差があった.これは,本法と通知法における抽出溶液の組成の違いおよび試料量と抽出溶液量の比率の違いに起因していた.米菓,スナック菓子およびポテトチップスにおいては,抽出溶液に水を多く含む本法の方が,通知法より2.1–16.0倍高い添加回収率が得られ,日常検査に有用だと考えられる. |
食品添加物,甘味料,グリチルリチン酸,カンゾウ抽出物,ステビア甘味料,ステビオシド,レバウジオシドA,アンモニア水,トリス緩衝液,LC-PDA |
化学物質及び自然毒による食中毒事件例(令和3年~令和5年) |
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令和3年から令和5年に東京都内で発生した化学物質や自然毒による食中毒及び有症苦情事例のうち,原因が明らかとなった5事例について報告し,今後の食中毒等予防及び発生時における迅速な検査の参考とする.(事例1)給食でサンマの梅味噌焼きを喫食した43名中17名がアレルギー様症状を呈した.薄層クロマトグラフ(TLC)及び高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析をしたところ,サンマの梅味噌焼きからヒスタミンを検出した.(事例2及び3)ジャガイモを喫食後30分から6時間後に腹痛,嘔吐,頭痛,発熱を呈した2つの事例について液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)による分析を行ったところ,α-ソラニン及びα-チャコニンを検出した.(事例4)コーヒーに洗浄漂白剤が混入した事例であり,定性検査の結果,界面活性剤を検出した.(事例5)ウリ科植物とハマグリの炒め物を喫食した3名中3名が喫食後10分から5時間後に下痢や腹痛等の消化器症状を呈した.LC-MS/MS分析によりウリ科植物からククルビタシンB,ククルビタシンD及びククルビタシンEが検出された.(事例6)公園に生えていたキノコを喫食した4名中4名が錯乱,意識もうろう,嘔吐等の神経症状を呈した.キノコ残品について検査したところテングタケと判明した. |
化学性食中毒,ヒスタミン,サンマ,α-ソラニン,α-チャコニン,ジャガイモ,界面活性剤,ククルビタシン類,ウリ科植物,テングタケ |
食品の苦情事例(令和4年度~令和5年度) |
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令和4年度から令和5年度に検査を実施した食品苦情に関わる11事例のうち4事例を報告し,今後の苦情原因解明の参考とする.(1)弁当に混入していたビニール様片は,官能試験(外観),顕微鏡観察及びフーリエ変換赤外分光分析を行った結果,弁当トレーのバルク包装袋の一部と推定された.(2)焼きそばのシャボン玉液様異味は,発泡試験,陰イオン系界面活性剤試験,非イオン系界面活性剤試験及び界面活性剤薄層クロマトグラフィー試験を行った結果,当該店で使用していた洗剤の混入が原因と推定された.(3)いなり寿司から出てきた歯の詰め物様物は,官能試験(外観),顕微鏡観察及び蛍光X線分析を行った結果,金合金を主成分とする歯の詰め物と推定された.(4)和生菓子に混入していた毛髪様物は,官能試験(外観),顕微鏡観察及び種の鑑別試験を行った結果,イヌの毛と推定された. |
食品苦情,異物,異味,ビニール,洗剤,歯の詰め物,金合金,イヌ,毛 |
食品中の二酸化硫黄及び亜硫酸塩類の含有量実態調査 |
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二酸化硫黄及び亜硫酸塩類(SO2)は,食品添加物として漂白剤,保存料,酸化防止剤の目的で使われている.一方,検査時に,食品成分中の含硫化合物由来と考えられるSO2が検出されることも多く,食品添加物として添加されたものとの判別は,食品表示法への適合を判定する上で重要である.そこで,生鮮食品やSO2の添加表示がない加工食品について,性能評価済みの液体クロマトグラフィーによる分析法を用い,SO2含有量の実態調査を行った.生鮮食品では,赤えび,たまねぎ,にんにく,フラワーえび,アーリーレッド,下仁田ねぎで今回設定した定量限界値1.0 µg/g以上のSO2を検出した.添加表示がない加工食品では,含硫化合物を含む食品を原材料とするにんにく加工品,切り干し大根,干ししいたけ等のほかに,ワイン,ビール,ぶどうジュース,ゼラチン,しょう油等からも検出した.ワインやビール中のSO2は製造工程で使用される酵母由来であると考えられたが,ワインでは含有量が10 µg/gを超えるものもあった. |
実態調査,二酸化硫黄,亜硫酸塩類,食品,HPLC |
清涼飲料水及びビール中のパラオキシ安息香酸ヘプチルの分析法の検討 |
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アメリカで清涼飲料水及びビールに使用が許可されている指定外添加物のパラオキシ安息香酸ヘプチルについて,抽出・精製の検討とHPLCによる定量法,LC-MS/MSによる確認法を検討した.透析液を80%メタノールとして,透析によるパラオキシ安息香酸ヘプチルの抽出・精製を行ったところ80%以上の回収率を得た.HPLCによる定量法ついては,日常検査を行う9種保存料と同時分析できるようにパラオキシ安息香酸ヘプチルの分析条件を検討し,良好な結果が得られた.パラオキシ安息香酸ヘプチルは0.05~1.25 µg/mLの範囲で直線性を示し,検出限界は0.05 µg/mLであった. LC-MS/MSによる定性確認はMRMモードを用い,2種のプロダクトイオンによる観察を行い,確認方法として有用であることを明らかにした. |
食品添加物,保存料,パラオキシ安息香酸ヘプチル,透析法,HPLC,LC-MS/MS |
コチニール色素を使用した輸入マシュマロの4-アミノカルミン酸検出事例 |
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2022年に収去されたコチニール色素の表示がある米国産マシュマロ(ピンク色)から,コチニール色素とは異なる赤紫色の不明色素をTLC上で検出した.過去の事例から,不明色素は4-アミノカルミン酸(耐酸性コチニール)であると考え,通知法に準じてHPLC及びLC-MSにより分析を行い,検査体制を整備して当該色素が4-アミノカルミン酸であることを確認した.当センターにおいて同色素の検出事例は初であった.近年,国内外で4-アミノカルミン酸の検出事例が報告されていることから,今後も最新情報や事例についての情報を蓄積し,日常検査に活かしていくことが必要であると考えられた.また,4-アミノカルミン酸を高選択・高感度に分析するため,LC-MS/MS条件の検討と最適化もあわせて実施し,新規項目に対応できる体制の強化を図った. |
4-アミノカルミン酸,耐酸性コチニール,コチニール色素,カルミン酸,着色料,TLC,HPLC,LC-MS/MS,食品添加物 |
液体クロマトグラフ‐タンデム型質量分析計による玄米中残留農薬一斉分析法の妥当性評価 |
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昨年,農薬283成分を対象に開発した玄米中残留農薬一斉分析法の対象農薬を拡充し,対象外としていた126成分について,異なる機種の液体クロマトグラフ‐タンデム型質量分析計を用いて玄米中残留農薬一斉分析法の妥当性評価を行った.2濃度(0.01および0.1 µg/g),2併行,5日間の添加回収試験を実施し,妥当性評価ガイドラインの適否判断を行ったところ,126成分中124成分(98.4%)が目標値に適合した.昨年開発した一斉分析法では250成分が妥当性評価ガイドラインの目標値に適合しており,本実験と重複している68成分を考慮すると,妥当性評価ガイドラインの目標値に適合した農薬数は計306成分(250 + 124 – 68 = 306)となった.本実験により,計306成分の農薬について開発法における試料前処理法の有用性が示され,行政検査への活用が可能になった. |
残留農薬,玄米,液体クロマトグラフ‐タンデム型質量分析計,LC-MS/MS,妥当性評価 |
魚介類中の残留有機塩素系農薬実態調査(令和3~4年度) |
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東京都は,都民の食の安全・安心を守るため,魚介類中における有機塩素系農薬の残留実態を継続的に把握している.令和3年4月から令和5年3月において都内に流通していた魚介類を対象とし,昨今の喫食事情を反映させた多種多様な63種80食品について調査を実施した.21種24食品(検出率30%)から4種類の有機塩素系農薬(DDT,クロルデン,ノナクロル及びヘキサクロロベンゼン)を0.001–0.023 ppmの範囲で検出した.この調査結果より,残留量と魚介類中脂肪量との相関,魚の生活サイクルと残留の関係について考察した.調査検体において,食品衛生法の残留基準値(MRL)を超えたものは認められなかった.今後飼育環境の変化が考えられる鮭や消費者の喫食が増加すると考えられるアカムツから有機塩素系農薬を検出したことから,今後も継続的に調査を行い,残留実態を把握していく必要があることを示唆した. |
残留農薬,魚介類,有機塩素系農薬,残留基準値 |
畜水産物中の残留有機塩素系農薬実態調査(令和5年度) |
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東京都では有機塩素系農薬による健康危害未然防止のために,東京都内に流通している畜水産物中の残留の実態調査を継続して行っている.令和5年4月から令和6年3月の間に,食肉,生乳,鶏卵,魚介類及びその加工品等,畜水産物12種124食品について食品毎に設定された残留基準値(MRL)を超えていないか調査を実施した.その結果を報告するとともに,既報と比較して残留の変遷について考察した. 食肉,鶏卵では有機塩素系農薬を検出しなかった.一方,生乳4食品,サワラ1食品の合計5食品(検出率4%)から1種類の有機塩素系農薬(DDT)を食品衛生法の残留農薬基準値を超えない0.0001-0.0002 ppmの範囲で検出した. DDTとその代謝体についてはこれまでにも検出例を報告している.このことから,有機塩素系農薬の使用が禁止され長期間たっても,乳牛の飼育環境中に低濃度の残留が続いていること,また生物濃縮等により海産物中に農薬の残留がみられることが示唆された. |
残留農薬,畜水産物,有機塩素系農薬,残留基準値 |