研究年報 第77号(2026) 先行公開和文要旨

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総説

畜水産食品中残留動物用抗菌剤の検査に用いる分析法の開発

 健康安全研究センターでは,畜水産食品中に残留する動物用抗菌剤について,適否判定に必要な結果を確実に得るため,バイオアッセイと液体クロマトグラフタンデム型質量分析(LC-MS/MS)を用いてスクリーニングと同定・定量を行っている.本稿では,検査の概要,検出事例及び同一試験溶液をバイオアッセイによるスクリーニングとLC-MS/MSによる確認・定量の双方に用いる3つの連結法を概説する.開発法Ⅰでは多系統抗菌剤の一斉分析法として,2種の抽出溶媒と固相精製を組み合わせて試験溶液を調製した.妥当性評価,内部品質管理及び技能試験等の性能評価により,行政検査への適用性を確認した.さらに同一試験溶液をバイオアッセイにも適用するため,感度向上と擬陽性低減を目的に条件を再検討し,対象33剤について残留基準値相当濃度での検出を可能とした.開発法Ⅱではサルファ剤10剤及びキノロン剤11剤の計21剤,開発法Ⅲではアミノグリコシド系抗生物質12剤を対象に,新たなバイオアッセイ試験平板及び前処理条件を導入し,バイオアッセイでの検出と検出試料に対するLC-MS/MS測定による薬剤の同定・定量を可能とした.これらの方法により,検出試料のみを追加前処理なしにLC-MS/MSで確認・定量できる検査体系を構築し,検査の迅速化,結果の信頼性向上,試薬使用量や廃液量の削減に資することを示した.本連結法は,網羅性,定量性及びグリーン分析化学を両立する有用な残留検査法である.

動物用抗菌剤,畜水産食品,残留検査,バイオアッセイ,LC-MS/MS,連結法,グリーン分析化学

   

論文Ⅲ  食品等に関する調査研究

液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計による畜産物中シクラニリド分析法

 畜産物中のシクラニリド分析法について検討を行った.アセトンで抽出し,アセトニトリル-ヘキサン分配で脱脂後,オクタデシルシリル化シリカゲル(C18)及びエチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲル(PSA)ミニカラムで精製後,液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC–MS/MS)で測定を行い,絶対検量線法で定量した.4品目の畜産物(牛の筋肉,牛の脂肪,牛の肝臓及び牛乳)を対象に残留基準値濃度または定量下限濃度(0.01 ppm)における添加回収試験を行った結果,真度(n=5)は83.3–111.0% ,併行精度は1.6–7.3%であり定量限界は0.01 mg/kgであった.

シクラニリド,植物成長調整剤,畜産物 ,液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計

 

窒素キャリアガスを用いた大気圧ガスクロマトグラフタンデム型

質量分析装置による農産物中の臭素分析

 農産物中の臭素分析法について検討した.試料を灰化後,臭素イオンを過マンガン酸カリウムで酸化し,遊離臭素と3-ペンタノンとの反応で生成する2-ブロモ-3-ペンタノンを,窒素キャリアガスを用いた大気圧ガスクロマトグラフタンデム型質量分析装置で測定した.13品目の農産物及びその加工品(豆類及び果実)を対象に,臭素濃度が5 mg/kgとなるよう標準溶液を添加し,分析者3名が併行数2で2日間,又は分析者1名が併行数2で5日間の試験を行った.その結果,本法は「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン」の目標値に適合し,試験法の妥当性が確認できた.

残留臭素,臭化メチル,くん蒸剤,農産物,大気圧ガスクロマトグラフタンデム型質量分析装置

 

水産食品中に残留するPCB及び有機スズ化合物の同時抽出法の検討

 当センターでは,高速溶媒抽出装置を用いた水産食品中に残留するポリ塩化ビフェニル及び有機スズ化合物(トリブチルスズ化合物,トリフェニルスズ化合物)の分析法を開発してきた.これらの分析法では両者を別々に抽出する必要があり,作業工程の煩雑化や溶媒使用量の増加が課題であった.本研究では,既報及び本研究で得られた検討結果に基づき,A法及びB法を構築し,同時抽出及び共通抽出液を用いた精製条件等の最適化を行った.また,環境省「化学物質環境実態調査実施の手引き」に基づく性能評価を実施した結果,いずれの方法も定量下限値,添加回収試験ともに目標値を満たす良好な結果が得られた.さらに,ポリ塩化ビフェニルにおける操作ブランクのばらつきが,より小さかったB法について,厚生労働省「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン」に基づく妥当性評価を行った.その結果,真度及び精度の目標値に適合し,抽出工程の共通化による試験の効率化及び迅速化,溶媒使用量の削減による作業者の負担軽減に寄与する試験法として,日常検査に適用可能だった.

高速溶媒抽出装置(ASE),ポリ塩化ビフェニル(PCB),トリブチルスズ化合物(TBT),トリフェニルスズ化合物(TPT),同時抽出,水産食品

  

化学物質及び自然毒による食中毒事例(令和6年~令和7年)

 令和6年から令和7年に東京都内で発生した化学物質や自然毒による食中毒及び有症苦情事例のうち,原因(疑いを含む)となる化学物質及び自然毒が検出された4事例について報告し,今後の食中毒等予防及び発生時における迅速な検査の参考とする.(事例1,2)喫食直後に舌のピリつきや顔面紅潮等のアレルギー様症状を呈した事例が計2事例認められた.原因食品は,いずれもぶりの調理品によるもので,薄層クロマトグラフ(TLC)及び高速液体クロマトグラフ(HPLC)による分析を行ったところ,いずれの食品からもヒスタミンを検出した.(事例3)炭酸飲料にタブレット型の塩素系漂白除菌剤が混入し,患者が喫食後に喉の痛み等の症状を呈した事例である.残品から塩素臭を認めたほか,pHは5.2であり,正常品の2.7と比較して高値を示した.さらに,液体クロマトグラフ–タンデム質量分析計(LC-MS/MS)による分析を行ったところ,イソシアヌル酸を検出した.(事例4)児童が公園に自生していたスイセン様の植物を喫食し,嘔吐,下痢,発熱等の症状を呈した事例である.児童が喫食した個体と同時に引き抜かれた植物についてLC-MS/MSによる分析を行った結果,リコリンを検出した.

化学性食中毒,ヒスタミン,ぶり,炭酸飲料,塩素系漂白除菌剤,イソシアヌル酸,スイセン,リコリン

 

東京都で開発した食品中のグリチルリチン酸分析法の試験検査導入に向けた性能評価

 甘味料であるグリチルリチン酸について,当センターで開発した分析法の妥当性確認を行った.5食品を対象とし,定量限界(0.01 g/kg)において,分析者2名,2併行,3日間の添加回収試験を実施した.試験溶液は機器及び測定条件を組み合わせた3パターンで測定し,性能を比較した.その結果,選択性,真度(71–104%),併行精度(3–9%)及び室内精度(4–13%)はすべてガイドラインの目標値を満たした.本研究は限定された条件下での検討ではあるが,測定機器や高速液体クロマトグラフィー条件を変更した場合でも,定量限界,選択性,真度及び必要に応じて併行精度を評価することにより,他の性能項目の信頼性も確保できる可能性が示唆された.さらに,液体クロマトグラフ質量分析による確認分析法を構築した.本検討から,本法はグリチルリチン酸の日常検査法として有用であることを示した.

甘味料,食品添加物,グリチルリチン酸,妥当性確認,HPLC-PDA,LC-MS

 

ナチュラルチーズ中ナタマイシン分析法における高速液体クロマトグラフィー測定条件

の改良と妥当性確認

 ナチュラルチーズ中のナタマイシン分析に用いられる通知法は,高速液体クロマトグラフィー測定時の移動相中の酢酸濃度が約5%と高く,ピークリーディング及び保持時間の変動が生じる場合がある.これらは定量値の再現性低下につながることから,日常検査への影響が懸念される.そこで,移動相中の酢酸濃度を0.1%に低減した条件について,保持時間の安定性及びピーク面積再現性を検証するとともに,行政検査への適用の可能性を評価するため妥当性確認試験を実施した.さらに,カラムの種類により保持挙動や夾雑成分の分離状況が異なる可能性があることから,3種類のカラムを用い,4種類のチーズを対象に2濃度を添加し試験を行った.その結果,いずれの条件においても真度及び精度は目標値を満たし,通知法と比較して保持時間の変動率が低減するとともに,ピーク面積に基づく定量値の再現性が向上し,より安定した定性及び定量が可能となった.以上より,本条件はチーズ中ナタマイシンの行政検査に適用可能であると考えられた.

ナタマイシン,ナチュラルチーズ,食品添加物,HPLC,酢酸,移動相,妥当性確認

 

食品中のフェノール系酸化防止剤分析法の信頼性確保に向けた性能評価

 令和5年に改正された「第2版食品中の食品添加物分析法」のフェノール系酸化防止剤「ジブチルヒドロキシトルエン(BHT),ブチルヒドロキシアニソール(BHA)及び没食子酸プロピル(PG)」の分析法Aを対象に,高速液体クロマトグラフ-フォトダイオードアレイ検出法(HPLC-PDA)及び高速液体クロマトグラフ-蛍光検出法(HPLC-FL)を用い,キャノーラ油,クラッカー,煮干し,ポテトチップス,バター及びマヨネーズ6食品で性能評価を行った.対象は指定添加物の3種及び指定外添加物のtert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)の4種とし,2名3併行3日間の添加回収試験を実施した.その結果,いずれも選択性は十分で,真度79.1–107%,併行精度8.7%以下,室内精度12%以下であり,妥当性確認ガイドラインの目標値に適合した.また,日常検査で食品由来成分の影響により再測定や確認分析が必要となることから,これらに用いる試験溶液の再調製の要否判断のため,試験溶液中の安定性を検討した.全食品で調製後4週間まで,BHT,BHA及びPGは定量用途に,TBHQはスクリーニング用途に使用できた.一方,TBHQの定量用途ではクラッカー,ポテトチップス及びバターの3食品でのみ使用可能であった.さらに,HPLC試験溶液を用いたガスクロマトグラフ-質量分析計による確認分析では,アセトンへの転溶操作なしに,BHT,BHA及びTBHQを確認できた.本法は日常検査に適用可能であり,試験溶液再調製の要否判断及び確認分析にも有用なことを示した.

酸化防止剤,ジブチルヒドロキシトルエン,ブチルヒドロキシアニソール,tert-ブチルヒドロキノン,没食子酸プロピル,HPLC-PDA,HPLC-FL,GC-MS

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査 (令和5年度~令和7年度)

 令和5~7年度までに都内に流通していた輸入農産物のうち,野菜,きのこ類,果実類,穀類及び豆類の計83種996作物を対象に残留農薬実態調査を実施した.その結果,44種310作物から殺虫剤,殺菌剤,除草剤,共力剤及び植物成長調整剤合わせて41種類の農薬を検出した.検出農薬の内訳は,野菜では22種149作物から殺虫剤15種類,殺菌剤12種類が,果実類では17種144作物から殺虫剤18種類,殺菌剤13種類,共力剤1種類,植物成長調整剤1種類が検出された.一方,穀類では2種4作物から2種類の殺虫剤,豆類では3種13作物から4種類の殺虫剤,3種類の殺菌剤,1種類の除草剤及び1種類の共力剤が検出された.これらのうち,12種18作物において日本の残留基準値又は一律基準値0.01 ppmを超過して農薬が検出された.この内訳は,野菜ではにんじん及びしょうがのクロチアニジン,未成熟えんどうの数種類のトリアゾール系殺菌剤,オクラのブプロフェジン,たまねぎのチアメトキサムであった.果実では,ラズベリーのトリフロキシストロビン,いちごのテブコナゾール,アボカドのピラクロストロビン,メロンのクロルフェナピルであった.穀類及び豆類では,とうもろこしのクロルピリホス,ひよこ豆のクロルプロファム,緑豆のチアメトキサム,ピリミホスメチル及びシプロコナゾールであった.これらはいずれもEDI/ADI比から推定し,当該作物の喫食により健康被害が生じる可能性は低いと考えられた.

 残留農薬,輸入農産物,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,共力剤,植物成長調整剤,残留基準値,一律基準値,一日摂取許容量(ADI)

 

 

国内産農作物中の残留農薬実態調査(令和5年度~令和7年度)

 令和5年4月から令和8年3月までに都内に流通していた国内産農産物のうち,野菜34種208作物,果実10種25作物,計44種233作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,31種83作物(検出率36%)から殺虫剤及び殺菌剤合わせて19種類の農薬を0.01~3.3 ppm検出した.検出農薬の内訳は,野菜では22種64作物から殺虫剤10種類,殺菌剤6種類が検出された.一方,果実では9種19作物から殺虫剤8種類,殺菌剤7種類が検出された.検出頻度の最も高かった農薬はジノテフランで,野菜21作物,果実7作物から検出された.なお,食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出された農薬はなかった. 

 残留農薬,国内産農作物,野菜,果実,殺虫剤,殺菌剤,残留基準値,一律基準値

 

液体クロマトグラフタンデム型質量分析計による

食肉中β-ラクタム系抗生物質一斉分析法の妥当性評価

 新規導入した液体クロマトグラフタンデム型質量分析計を用いて,食肉中のβ-ラクタム系抗生物質11剤を対象とする一斉分析法の妥当性を確認した.試料として豚筋肉,鶏筋肉及び牛筋肉を用い,添加濃度0.01及び0.1 µg/gの2濃度,2併行,5日間の添加回収試験を実施し,妥当性評価ガイドラインの目標値等への適合を評価した.その結果,マトリックス検量線法及び内部標準法による定量において,ガイドラインの目標値等に適合した薬剤は,添加濃度0.01 µg/gでは,豚筋肉,鶏筋肉及び牛筋肉でいずれも11薬剤中9薬剤,添加濃度0.1 µg/gでは,豚筋肉,鶏筋肉及び牛筋肉でいずれも11薬剤中8薬剤であった.本研究により,試験に供した11薬剤中アモキシシリン,アスポキシリン,ベンジルペニシリンの3薬剤を除いて,食肉中β-ラクタム系抗生物質一斉分析法の有用性が示され,行政検査への適応が可能であることを確認した.

β-ラクタム系抗生物質,食肉,液体クロマトグラフタンデム型質量分析計,妥当性評価,動物用医薬品

  

論文Ⅵ  公衆衛生情報に関する調査研究

東京都における麻しんの発生状況(2008年第1週~2026年第25週)

 麻しんは,感染力が非常に強く,時に重篤な症状を引き起こす可能性がある一方,予防接種が有効な感染症でもある.今般,感染症サーベイランスシステム(NESID; National Epidemiological Surveillance of Infectious Disease)のデータを活用して東京都における麻しんの発生状況を調査した.調査の結果,2026年の発生状況からワクチン接種による発症予防,症状軽減,重症化防止効果が認められた.また,修飾麻しん患者は麻しん患者より発病から早期に受診しており,接触者調査等の効果によるものと推測された.以上より,高いワクチン接種率の維持及び早期探知体制の維持が重要と結論づけられた.

麻しん,はしか,感染症サーベイランスシステム,記述疫学,ワクチン,予防接種

 

 

 

 

 

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