研究年報 第73号(2022) 和文要旨

 

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和文要旨
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総説

東京都健康安全研究センターにおける新型コロナウイルス変異株の検査対応

 2019年12月に中国で最初に確認された新型コロナ感染症(COVID-19)は,2022年に入っても未だ収束していない.東京都健康安全研究センターではCOVID-19発生初期から検査対応を行ってきた.発生当初は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を確実に検出することに主眼が置かれていたが,感染者の増加に伴い,さらに検査能力を上げることに注力することになった.その後,免疫からの逃避や感染性・伝播性が増加したSARS-CoV-2の変異株による感染が拡大し,変異株の流行状況や置き換わり状況の把握が主な業務となった.SARS-CoV-2変異株の検出には,Allelic Discrimination modeによるリアルタイムPCR法により変異株に特徴的なアミノ酸変異を検出する手法を開発し,B.1.1.7系統株(アルファ株)のN501Y変異やB.1.617.2系統株(デルタ株)のL452R変異,オミクロン株のE484A変異などを検出し,変異株の疫学的なモニタリングを実施してきた.リアルタイムPCR法を用いた変異株スクリーニング検査は,次世代シーケンサーよりも高感度で,迅速かつ大量処理が可能であり,東京都における変異株のモニタリングにおいて果たしてきた役割は大きい.

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2),新型コロナウイルス感染症(COVID-19),新型コロナウイルス検査,変異株スクリーニング検査,変異株

 

栄養成分表示制度の変遷と東京都における栄養成分検査

 東京都では健康増進法に基づく特別用途食品の表示や食品表示法食品表示基準に基づく栄養成分表示を監視するため,食品の収去検査を継続的に行っている.ここでは,栄養成分の表示制度の変遷及び現状とともに平成27年4月から令和2年3月までの期間に当センターにおいて実施された栄養成分検査の結果について報告する.東京都保健所管内で収去された特別用途食品及び栄養表示食品合計250食品について,分析によって得られた栄養成分含有量と表示値を比較した.その結果250食品中21食品については,適正範囲を逸脱している栄養成分等を一つ以上含んでいた.栄養成分表示は消費者が食品選択を行う際の重要な情報の一つである.行政による収去検査を継続し,表示の適正化を推進していくことが重要である.

栄養成分表示,許容差の範囲,食品表示基準,食品表示法,収去検査

 

論文Ⅰ 感染症等に関する調査研究

東京都において分離されたSevere acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)オミクロン変異株の分離培養条件の検討

 我々は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発生時初期からVero系細胞を用いて,原因ウイルスであるSevere acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)の分離培養を行ってきたが,オミクロン変異株は,従来の株(アルファ株,デルタ株等含む)とは異なり,分離培養しにくい事例も見られている.今回VeroE6, Vero細胞へのアンフォテリシンB添加の効果について検討し,分離率の向上を図った.その結果VeroE6,Vero細胞はアンフォテリシンB添加維持培地を使用することで,分離率が向上した.今後も登場するであろう,新たなSARS-CoV-2の変異株について,分離培養条件についても引き続き検討を続けていく必要があると考える.

Vero系細胞,オミクロン変異株,エンドサイトーシス,インターフェロン誘導性膜貫通(IFITM)タンパク質,アンフォテリシンB

 

都内のと畜場に搬入されたブタのEscherichia albertii 検出状況と遺伝子解析

 Escherichia albertii は2003 年に新たに報告された新興下痢症起因菌であり,わが国では本菌を原因とする集団食中毒事例が複数報告されている.本菌は鳥類や哺乳類から分離報告があるものの,その保菌状況の詳細は明らかになっていない.本研究では2019 年から2020 年に都内のと畜場に搬入されたブタのE. albertii 保菌状況を調査し,分離された菌株について遺伝子解析を行った.検査したブタ盲腸便80 検体中6 検体(7.5%)から6 株のE. albertii が分離された.すべての分離株がeae,cdtB 陽性,stx 陰性であった.6 株中3 株は供試薬剤すべてに感性,2 株は2 剤耐性,1 株は3 剤耐性であった.PFGE 解析では,同一バンドパターンを示す分離株が2 組認められたが,いずれも当センターに搬入された都内下痢症患者由来株とは異なっていた.この2 組の株はそれぞれ同一農場から出荷されたブタ由来であり,農場内での同一クローンの存在が示唆された.全ゲノム解析では約1,500 のcore gene が検出され,系統解析の結果,分離株はブタおよびヒト由来株と同一クレードに属した.今回分離されたブタ由来株はヒト由来株と分子系統学的に近縁であることが示され,ブタにおける本菌の動態について更なる調査が必要であると考えられた.

Escherichia albertii,ブタ,食中毒,全ゲノム解析,core gene,系統解析

 

東京都内で分離された新型コロナウイルス(オミクロン株)の次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株の相次ぐ出現により,現在も世界各地で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が続いている.2022年7月現在,世界中で流行している変異株はオミクロン株であり,東京都においてもオミクロン株の感染によるCOVID-19患者が連日報告されている.今回,SARS-CoV-2オミクロン株について,2021年12月から2022年6月までにVero系細胞を用いたSARS-CoV-2分離株を次世代シーケンサーを用いて解析した.その結果,第6波の主流株であるオミクロン株は,感染力の強い亜系統が相次いで置き換わることによって第6波長期化の要因となっていた.また,第5波で流行したデルタ株とオミクロン株の混合感染検体におけるVeroE6/TMPRSS2細胞を用いた培養の結果,デルタ株のみ分離されたことからオミクロン株はデルタ株とは感染複製様式が異なることが推察された.

SARS-CoV-2,COVID-19,分離培養株,変異株,オミクロン株,次世代シーケンサー,系統樹解析

 

東京都のHIV検査におけるHIV-1陽性のWB法判定保留例または陰性例を用いたHIV-1/2抗体確認検査法の有用性の検討

 HIV 検査は,スクリーニング検査と確認検査の2 段階で実施されている.確認検査においては,既存法としてウエスタンブロット(WB)法が使用されてきたが,2018 年11 月にイムノクロマト(IC)法を原理とした新たな抗体確認検査法(以下,確認IC 法)の試薬が我が国で体外診断用医薬品として承認された.また,2019 年11 月に病原体検出マニュアルが,2020 年6 月には「診療におけるHIV-1/2 感染症の診断ガイドライン2020 版」が改訂され,確認検査がWB 法から確認IC 法を用いる手順に変更になったことから,今後,検査現場での確認IC 法の導入が進むと考えられる.今回,東京都健康安全研究センターにおいて,WB 法判定保留例または陰性例(HIV 検査陽性)を用いて確認IC 法の有用性の検討を行った.その結果,WB 法ではHIV-1 陽性判定に至らなかった約75%の検体が確認IC 法によりHIV-1 陽性となり,WB 法に代わる方法として確認IC 法の使用は有用であることが確認された.

ヒト免疫不全ウイルス,後天性免疫不全症候群,HIV検査,抗体確認検査,確認IC法

 

インフルエンザ様疾患における核酸多項目同時検出試薬の有用性の検討

 2020 年1 月から2021 年8 月の期間に感染症発生動向調査事業の一環で東京都健康安全研究センターに搬入されたインフルエンザ様疾患の患者検体(咽頭拭い液)78 件を対象に,核酸多項目同時検出試薬の有用性の検討を行った.当センターで実施の核酸増幅検査法(3 種類)と結果を比較したところ,陽性検体についてはほぼ結果が一致し,当センター法陰性例62 件のうち 24 件で他の病原体遺伝子が検出された.一般に,核酸増幅検査では検査項目を絞って実施するため,対象の病原体が存在しない場合には陰性と判定されてしまう.当センター法陽性例と核酸多項目同時検出試薬による検査結果は概ね一致していたこと,当センター法検査陰性例から病原体が検出されたことから,インフルエンザ様疾患の調査に核酸多項目同時検出試薬を使用することで,さらに有用な疫学データが得られることが示唆された.

インフルエンザ様疾患,FilmArray,インフルエンザウイルス,アデノウイルス,エンテロウイルス,複数の病原体検出

 

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で実施した食品細菌検査

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は2021年に開催された国際的な大規模イベントである.大会期間中に提供される飲食物の衛生上の安全確保は極めて重要である.今回,当センターにて食品等を対象に細菌学的検査を行ったので,その経緯と検査結果について報告する.検査は164件の食品等に対し,一般生菌数,大腸菌,黄色ブドウ球菌の3項目について自動生菌数測定装置TEMPO®を用いた簡易迅速検査法により行い,おおむね良好な結果が得られた.これらの検査は,東京2020大会の安心・安全な運営の一助となったと考えられる.

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会,東京2020大会,マスギャザリング,食品細菌検査,一般生菌数,大腸菌,黄色ブドウ球菌,簡易迅速検査法,自動生菌数測定装置,TEMPO®

 

東京2020大会に向けた東京都健康安全研究センター微生物検査部門の準備と実践

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)は,2020年に東京都を中心とした複数の都市での開催を予定していたが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で1年,開催が延期され,2021年7月23日~8月8日(オリンピック)と8月24日~9月5日(パラリンピック)に、いわゆる「バブル方式」で開催された.東京都健康安全研究センターでは東京都における対策の他に,地方衛生研究所としてできる準備を段階的に行ってきた.オリパラ期
間内に新型コロナウイルスの変異株はアルファ株からデルタ株へ置き換わり,他の感染症ではRSウイルス感染症が小児で流行したが,海外からのインバウンドに起因する流行を示唆するものはなかった.結果的に,COVID-19の影響で,我々の使命はバブル外でのSARS-CoV-2検査等の限られたものとなったが,これらの経験をレガシーとして残していかなければならない.

東京オリンピック・パラリンピック競技大会,東京2020大会,新型コロナウイルス感染症,新型コロナウイルス

 

新型コロナウイルス変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)における「懸念される変異株における監視下の系統」の全ゲノム情報による解析

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の「懸念される変異株」(Variant of Concern; VOC)であるB.1.1.529系統は,伝播を拡大する中で多くの亜系統を生じている.その中で「懸念される変異株における監視下の系統」(VOC-LUM;Variants of Concern linage under monitoring)に指定されたBA. 2.9.1,BA. 2.11,BA.2.12.1,BA.2.13,BA.2.75,BA.4および BA.5の7つの亜系統のうち,2022年4月~8月末に都内で5つのVOC-LUMが検出された.それらの全ゲノム配列を国際的オープンアクセスゲノムデータベースであるGlobal Initiative on Sharing Avian Influenza Data; GISAIDに登録するとともに,各亜系統について近隣結合法による系統樹解析を行い,国内各地域の発生例の塩基配列情報と比較した.その結果,BA.2.12.1では時期の異なる由来から国内に流入し伝播した可能性が考えられた.一方,BA.2.13では同一の系統に由来する一部のクラスターが短期間に速やかに各地域に拡大した影響を反映していると推察された.またBA.2.75では,主に東京を中心とした2つのクラスターと兵庫県の自治体初検出例を含んだ主に関西地方を中心としたクラスターの3つのクラスターに分かれ,異なる起源由来のものから伝播・派生した可能性が考えられた.BA.4とBA.5においてはsublinageのブランチ内に小さなクラスターが多く存在するものの,近い検体採取日でも小クラスター間の距離は離れており,それぞれのクラスターは異なる由来に起源を持ち派生したものである可能性が考えられたが,BA.5.2においては地域性はみられず,短期間に同一起源から感染が拡大した影響を反映している可能性が推察された.

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2),COVID-19,変異株,GISAID,オミクロン株,VOC-LUM

 

東京都における小児肝炎疑い事例の検査結果について(2022年4–7月)

 2022 年4 月以降,小児における原因不明の急性肝炎が欧米やアフリカ地域で多数報告されている.現在アデノウイルスF41 の関与が疑われているが,原因の特定には至っていない.また,アデノウイルスが検出された幾つかのケースの中にはSARS-CoV-2 が検出された場合もあり,SARS-CoV-2 と肝炎との関連性が懸念されている.2022 年4–7 月の間に東京都健康安全研究センターに原因不明の小児肝炎疑いで積極的疫学調査として搬入された18 事例73 検体について病原体核酸多項目同時測定試薬(2 種類)を用いて病原微生物のスクリーニング検査を行った.陽性となった病原体については別途nested PCR を実施後,ダイレクトシーケンス法による塩基配列の決定を行った.血清17 検体については新型コロナウイルス感染症の抗S 抗体及び抗N 抗体の抗体価を測定した.4 事例がスクリーニング検査の結果陽性となり,アデノウイルスF41 が1 件,パラインフルエンザウイルス1 が1 件,ライノウイルスA34 とB3 が検出された.SARS-CoV-2 の抗N 抗体は2 事例(11.8%),抗S 抗体は9 事例(52.9%)で検出された.少数ではあるが肝炎疑いで搬入された検体の中に,アデノウイルスF41 と同様に SARS-CoV-2 感染が疑われる事例が確認された.

小児肝炎,アデノウイルス,病原体核酸多項目同時測定試薬,FilmArray消化管パネル,FilmArray呼吸器パネル2.1

 

当センター職員の血清を用いた新型コロナウイルスワクチン接種前後の抗体価の変動

 2019年末,中国に端を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,ウイルスの変異を繰り返しながら未だ世界中で流行している.感染を広げる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対抗する方法の一つとしてワクチン接種がある.ワクチンを接種することで体内の免疫反応が誘導される.その結果,抗体が産生され感染しにくくなり,新型コロナウイルスに感染したとしても重症化しにくくなることが期待されている.今回,複数回のワクチンを接種したセンターの職員を対象に一定の期間ごとに採血を行い,得られた血清中の抗体価を市販の抗体検査試薬を用いて測定した.抗N抗体価は全ての血清で陰性であったが,抗S抗体価はワクチンを接種する度に値が高くなっていった.他集団のデータと比較を行った結果,我々のデータとほぼ同じスパンで測定された抗体価の減衰率,上昇率は概ね似た値を示した.

新型コロナウイルス,mRNAワクチン,抗体価,SARS-CoV-2,COVID-19, 抗S抗体,抗N抗体

 

東京都の感染症発生動向調査事業における感染性胃腸炎のウイルス検出状況(2019年度~2021年度)

 2019年度から2021年度に東京都感染症発生動向調査における病原体定点医療機関で感染性胃腸炎と診断され,搬入された患者検体についてウイルス検査を実施した.その結果,168検体中84検体から胃腸炎起因ウイルスが検出された.その内訳はノロウイルスが最も多く,遺伝子型はGII.4やGII.2が大半を占めていた.次に多かったA群ロタウイルスは,2019年度は春から夏にかけて検出数のピークが見られ,遺伝子型はG8P[8]が最も多く検出された.2020年度と2021年度の検体搬入数は少なかったが,ノロウイルスはほぼ継続して検出された.

感染症発生動向調査,感染性胃腸炎,東京都,ノロウイルス,ロタウイルス,サポウイルス,アデノウイルス,アストロウイルス

 

東京都における病原体レファレンス事業と感染症発生動向調査事業における不明発疹症のウイルス検査結果(2016~2021年)

 東京都では積極的疫学調査の麻しん・風しん検査終了後の陰性検体について,病原体レファレンス事業として追加のウイルス検査を実施している.また,感染症発生動向調査事業において東京都は独自に不明発疹症を対象疾患とし,ウイルス検査を実施している.現状では,麻しん・風しん陰性検体についてはヒトパルボウイルスB19,ヒトヘルペスウイルスの検査を,感染症発生動向調査では患者情報に基づき柔軟に検査項目を設定し,検査を実施している.今回,2016~2021年まで両検査の結果について比較したところ,病原体レファレンス事業では成人の伝染性紅斑の流行を探知し,感染症発生動向調査事業の不明発疹症からはその年のウイルス流行状況と一致する結果が得られた.

病原体レファレンス,感染症発生動向調査,パルボウイルスB19,HHV,不明発疹症,麻しん,
風しん,エンテロウイルス

 

東京都における新型コロナウイルスの全ゲノム解析(2022年1月~5月)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国で初めて確認され,これまでに数多くの変異株が世界中で報告されている.2022年7月現在,主流となっているオミクロン株はBA.1からBA.5までの系統があり,各系統はさらに亜系統に分類されている.新型コロナウイルスの亜系統まで分類するためには,次世代シーケンサー(NGS)による全ゲノム解析が必要である.東京都では,都内でSARS-CoV-2が陽性となった一部の検体でNGSによる全ゲノム解析を実施している.今回,2022年1月1日から2022年5月31日の間にNGS解析を実施した28,874件をGISAIDへ登録し集計した結果,1月と2月においてはBA.1系統のうちBA.1.1.2が流行の主流となっていた.3月以降からBA.2系統への置き換わりが進み,BA.2.3.1やBA.2.3,BA.2等の複数の亜系統が流行していた.都内で検出されたBA.2系統の系統樹解析では,BA.2.3とBA.2.3.1のクレードと,BA.2,BA.2.24,BA.2.29のクレードの大きく2つに分かれた.さらに,3月以降はBA.1系統とBA.2系統の組換え体やBA.5系統などの変異株も出現していた.NGS解析を行い亜系統の分類を集計することで,都内のCOVID-19の流行状況を詳細に把握することができた.

新型コロナウイルス,COVID-19,SARS-CoV-2,次世代シーケンサー(NGS),亜系統,系統樹解析

 

東京都内で検出されたノロウイルスの遺伝子解析(2021年度)

 2021年度に,東京都内で食中毒疑い事例または積極的疫学調査として搬入され,ノロウイルス(NoV) が検出された事例の糞便検体を対象に,ポリメラーゼ領域とVP1領域の2領域を含む領域を用いてNoVの分子疫学解析を行った.その結果,解析可能であった65事例の遺伝子型の内訳は,GII.4Sydney[P31]が36事例(55.4%),GII.2[P16]が20事例(30.8%),GII.17[P17] が2事例(3.1%),GII.3[P25],GII.3[P12],GII.4sydney[P16],GII.6[P7],GI.2[P2],GI.5[P4],GI.6[P11]が各1事例(1.5%)であった.GII.4Sydney[P31]が検出された36事例の内訳は,食中毒疑い事例からの検出が11事例(30.6%),積極的疫学調査事例(保育園での感染症疑い)からの検出が25事例(69.4%)であった.また,系統樹解析では,GII.4Sydney[P31]は大きく分けて2つのクラスターを形成していた.GII.4sydney[P31],GII.2[P16],GII.3[P12],GII.6[P7],GI.6[P11]に分類された株は,次世代シーケンサー(NGS)による全長解析を行い,過去に日本または世界で検出された株と比較した.その結果,GII.4sydney[P31]は特にP2ドメインで特徴的なアミノ酸変異が見られた.P2ドメインのアミノ酸配列を2015年大阪株と比較し,285番目がT(トレオニン)からA(アラニン)またはS(セリン)に変異しているものが見られ,この変異が確認されたものはポリメラーゼ領域とVP1領域を含む遺伝子解析でクラスターを形成していた.

東京都,ノロウイルス,食中毒,遺伝子型,ポリメラーゼ領域,次世代シーケンサー

 

論文Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

センノシドが検出された健康食品の植物鑑別及び理化学試験結果(2017年度~2021年度)

 2017年度から2021年度にかけて市場に流通していた健康食品について,センナの植物鑑別及びその含有成分であるセンノシドA(SA)及びセンノシドB(SB)の試験を行った結果を報告する.SA及びSBが検出された製品は13製品であった.このうち,センナ茎あるいはハネセンナに係る表示がある製品は12製品であった.一方,センナあるいはハネセンナに係る表示がない製品は1製品であった.これら13製品について,実体顕微鏡及び低真空走査電子顕微鏡による植物鑑別試験並びにフォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフィー(LC/PDA)による定性及び定量試験を行った.必要に応じて薄層クロマトグラフィー,LC/PDA及び質量分析計付液体クロマトグラフィーによるセンナ葉の確認試験を行った.その結果,センナ茎あるいはハネセンナに係る表示のある12製品においてはセンナの薬用部位を認めなかった.一方,センナあるいはハネセンナに係る表示のない1製品において医薬品に該当するセンナ葉を認めた.

健康食品,センナ葉,センノシド,植物鑑別,LC/PDA,TLC,LC/MS

 

健康食品に含有される医薬品成分の検査事例(2017年度~2021年度)

 2017 年度から2021 年度までに行った,健康食品に含有される医薬品成分の検査事例について報告する.試験検査には,主にフォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフィー,電子イオン化質量分析計付ガスクロマトグラフィーを用い,必要に応じて質量分析計付高速液体クロマトグラフィー,高分解能精密質量測定法,核磁気共鳴スペクトル測定法及び単結晶X 線構造解析法を用いた.343 検体の試験検査の結果,34 検体から医薬品成分が検出された.そのうち強壮効果を標ぼう・暗示する検体から検出された医薬品成分シルデナフィルの類似化合物の3 成分については,国内初の検出事例であった.構造解析の結果,デスカルボンシルデナフィル,ピリミデナフィル及びN-フェニルプロポキシフェニルカルボデナフィルと同定され,「専ら医薬品として使用される成分本質」に該当すると判断された.

健康食品,医薬品,強壮,ダイエット, LC/PDA,LC/MS,GC/MS,構造解析

 

化粧品における配合成分の検査結果(令和2~3年度)

 令和2~3年度に搬入された化粧品114製品について,ホルマリン,防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分及びその他配合制限成分の製品への表示状況並びに検査結果をまとめた.配合禁止成分であるホルマリンは,ホルムアルデヒドとして検査し,ホルムアルデヒドが検出された製品は1製品であった.防腐剤については,フェノキシエタノール及びパラオキシ安息香酸エステル類の検出頻度が高かった.化粧品基準に定められた最大配合量を超過した濃度の防腐剤が検出された製品はなかった.また,表示のない防腐剤が検出された製品は4製品であった.紫
外線吸収剤については,パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルの検出頻度が高かった.最大配合量を超過した濃度の紫外線吸収剤が検出された製品はなかった.また,表示のない紫外線吸収剤が検出された製品はなかった.タール色素については,黄色4号の検出頻度が高かった.承認化粧品成分については,DL-パントテニルアルコール,グリチルリチン酸ジカリウム及び酢酸dl-α-トコフェロールの検出頻度が高かった.その他の化粧品基準に定められている成分については,1製品からユビデカレノンが検出された.

化粧品,ホルマリン,ホルムアルデヒド,防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分,ユビデカレノン

  

論文Ⅲ 食品等に関する調査研究

食品中の二酸化硫黄及び亜硫酸塩類試験法に関する検討―試験品中の安定性について―

漂白剤,酸化防止剤,保存料として幅広い食品に使用される二酸化硫黄及び亜硫酸塩類は,不安定な物質であるため,検査する上で減少することを考慮しなければならない.しかし,保管試料中の二酸化硫黄及び亜硫酸塩類の含有量の安定性についての知見は少ない.そこで,当センターで行っている厚生労働省通知に基づく液体クロマトグラフィーによる確認分析法で,冷蔵,冷凍保存した試料について経時的に定量を行った.その結果,食品の種類によって安定性が異なり,それぞれの再検査可能な保存条件,保存期間を確認した.

二酸化硫黄,亜硫酸塩,漂白剤,保存料,酸化防止剤,蒸留装置,HPLC,乾燥果実,果実酒,えび

 

輸入農産物中の残留臭素実態調査(平成29年度~令和3年度)

 平成29年4月から令和4年3月の5年間に東京都内で流通していた輸入農産物75種914作物について,残留臭素の実態調査を行った.その結果,30種136作物から残留臭素が検出された.穀類および穀類加工品では80作物中43作物から1~18 ppmの範囲で検出された.果実では688作物中57作物から1~11 ppmの範囲で,果実加工品では96作物中14作物から1~21 ppmの範囲で,豆類では50作物中22作物から1~2 ppmの範囲で検出された.今回の調査で21 ppmと最も高い値であったドライいちじくの残留基準値は250 ppmであり,その他いずれの作物においても食品衛生法の残留基準値を超えるものはなかった.

輸入農産物,残留臭素,臭化メチル,くん蒸剤,GC-ECD

 

食品中の放射性物質の検査結果(令和3年度)

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を受け,東京都では,平成23年度から都内で流通している食品の放射性物質検査体制を拡充している.令和3年度は,国産食品1,060検体及び輸入食品70検体,計1,130検体について放射性セシウム及び放射性ヨウ素の検査を行った.検査には,ゲルマニウム半導体核種分析装置及びヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメータを用いて測定した.その結果,国産食品のスズキ1検体から放射性セシウム(Cs-137)が検出されたが,基準値未満であった.

放射性物質,核種分析,放射性セシウム,ゲルマニウム半導体核種分析装置,ヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメータ,食品

 

食品の苦情事例(令和3 年度)

 令和3 年度に検査を実施した食品苦情に関わる9 事例から4 事例を選び報告し,今後の苦情解明の参考とする.(1)ホタテのクリームコロッケに混入していた硬質物は,官能試験(外観),顕微鏡観察及び蛍光X 線分析を行った結果,真珠であると推測された.(2)パイシュークリームに付着していた紙状物は,官能試験(外観)及び顕微鏡観察を行った結果,製造場所近辺に設置されていた紙片と推測された.(3)ドリアに混入していた硬質物は,官能試験(外観),顕微鏡観察,染色試験及び種の鑑別試験を行った結果,カボチャの皮の一部と推測された.(4)肉まんに付着していた黒色物は,官能試験(外観)及び顕微鏡観察を行った結果,ネズミの糞と推測された.

食品苦情,異物,真珠,紙片,カボチャ,ネズミの糞,蛍光X 線分析,種の鑑別

 

乳幼児用おもちゃからの17 元素の溶出に関する実態調査

 乳幼児や子供を対象としたおもちゃの安全性に関しては,様々な国でそれぞれ規格が定められており,欧州連合ではEN71(Safety of toys:欧州玩具安全規格)で,日本では食品衛生法で規格基準が定められている.そのうち,おもちゃの溶出試験に関しては,EN71Part 3(EN71-3)(Migration of certain elements:特定元素の移行)で17 元素を規制しているが,食品衛生法では4 元素が定められているのみである.そこで今回,市販乳幼児用おもちゃに関し,食品衛生法よりも対象元素が広く設定されているEN71 の溶出試験を準用し,17 元素について乳幼児用おもちゃからの溶出の実態を調査した.インターネットや100 円ショップ等の小売店で市販されている比較的安価に入手可能な乳幼児用おもちゃ20 製品を部位および色別に分けた全87 試料を用いて調査した結果,6 製品20 試料からアルミニウム,アンチモン,総クロム,コバルト,ニッケル,ストロンチウム,亜鉛の7 元素を検出した.検出した元素の検出量をEN71-3 に規定されている規格値と比較すると,規格値の1/5~1/1,000 以下であり,今回調査した製品からはクロム以外のEN71-3 の規格値と比較可能な16 元素において,いずれもEN71-3 の規格値を超える元素の溶出は無かった. 

 乳幼児用おもちゃ,溶出試験,欧州玩具安全規格

 

試験溶液調製にケルダール分解装置を使用した食品中の二酸化チタン分析

 現在,二酸化チタンの分析は厚生労働省通知「食品中の食品添加物分析法」に基づいており,試験溶液を調製するための灰化操作や硫酸による溶解操作に磁製るつぼを使用している.しかし,操作中に硫酸蒸気を吸引する危険性を伴うことから,分析者の安全に配慮し,試験溶液調製時に硫酸蒸気を拡散しないケルダール分解装置を使用することとした. 添加回収試験の結果,回収率は70~110%であった.また,加熱時間は 30分が妥当であった.試験溶液中に沈殿物が見られたため,走査型電子顕微鏡を用いて観察を行い,分析法を改善して回収率を向上させた.

二酸化チタン,食品添加物,着色料,食品分析,磁製るつぼ,ケルダール分解装置,ICP発光分光分析装置

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(令和3年度)-野菜類及びその他-

 令和3年4月から令和4年3月までに都内に流通していた輸入農産物のうち,野菜,きのこ類,穀類及び豆類の計42種192作物を対象に残留農薬実態調査を実施した.その結果,26種97作物(検出率51%)から殺虫剤,殺菌剤,除草剤及び植物成長調整剤合わせて66種類の農薬を検出した.検査項目農薬の検出濃度は痕跡(0.01 ppm未満)~0.48 ppmであった.検出農薬の内訳は,野菜では21種87作物から殺虫剤34種類,殺菌剤27種類,除草剤2種類,植物成長調整剤1種類が検出された.一方,穀類では3種5作物から殺虫剤4種類,殺菌剤1種類,除草剤1種類が,豆類では3種5作物からは殺虫剤2種類,殺菌剤2種類が検出された.このうち,中国産未成熟えんどう1作物からヘキサコナゾールが一律基基準値0.01 ppmを超えて0.02 ppm検出された.また,ペルー産パンダ豆1作物からクロルピリホスが検査時の残留農薬基準値0.1 ppmを超えて0.17 ppm検出された.これらの濃度は各々の一日許容摂取量(ADI)の1/5以下であった.それ以外に食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出された農薬はなかった.

残留農薬,輸入農産物,野菜,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,植物成長調整剤,残留基準値,一律基準値,一日摂取許容量(ADI)

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(令和3年度)-果実類-

 令和3年4月から令和4年3月までに都内に流通していた輸入農産物のうち,果実類の19種142作物を対象に残留農薬実態調査を実施した.その結果,16種103作物(検出率73%)から殺虫剤,殺菌剤及び除草剤合わせて58種類の農薬を検出した.食品衛生法の残留農薬基準値の対象部位のうち,検査項目農薬の検出濃度は痕跡(0.01 ppm未満)~1.2 ppmであった.検出農薬の内訳は,柑橘類では5種21作物から殺虫剤13種類,殺菌剤2種類が検出された.ベリー類では3種19
作物から殺虫剤15種類,殺菌剤15種類,除草剤1種類が,その他の果実では8種63作物からは殺虫剤18種類,殺菌剤20種類及び共力剤1種類が検出された.食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出された農薬はなかった.

残留農薬,輸入農産物,果実,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,共力剤,残留基準値,一律基準値

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査(令和3年度)

 令和3年4月から令和4年3月までに都内に流通していた国内産農産物のうち,野菜22種78作物,果実類1種2作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,14種51作物(検出率64%)から殺虫剤,殺菌剤及び除草剤合わせて43種類の農薬を検出した.このうち,検査項目農薬の濃度は痕跡(0.01 ppm未満)~0.28 ppmであった.検出農薬の内訳は,野菜では13種50作物から殺虫剤22種類,殺菌剤19種類,除草剤1種類が検出された.一方,果実類では1種1作物
から殺虫剤2種類,殺菌剤3種類が検出された.検出頻度の高かった農薬はジノテフランで,野菜14作物(検出率18%)から検出された.なお,食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出された農薬はなかった.

残留農薬,国内産農産物,野菜,果実,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,残留基準値,一律基準値

 

蛍光X線分析装置を用いた玄米中臭素の妥当性評価試験 

 蛍光X線分析装置を用いた玄米中の臭素分析法について妥当性評価試験を行った.本法は,玄米を細かく粉砕し,加熱乾燥させ,加圧成型機でペレットに成形したものを蛍光X線分析装置にて測定し,得られた臭素濃度に乾燥前後の玄米の含水率から得られた係数を乗じて玄米中の臭素濃度を算出する分析法である.妥当性評価試験は,玄米中の臭素濃度が5及び50 μg/gとなるように臭化カリウムを添加し,分析者2名が併行数2で3日間の試験を行った.その結果,本法は「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン」の目標値に適合し,分析法の妥当
性が確認できた.また,本法における定量下限値は1 μg/gとした.本法を用いて東京都内に流通していた16道府県産玄米80試料について実態調査を行ったところ,1試料より1 μg/g(1 ppm)の検出を確認したが,残留基準値(50ppm)は超過しなかった. 

臭素,玄米,蛍光X線分析装置,妥当性評価試験,定量下限値,残留基準値

 

魚介類中の残留有機塩素系農薬実態調査(令和元~2年度)

 平成31年4月から令和3年3月までに東京都内に流通していた魚介類,計60種80食品について残留有機塩素系農薬の実態調査を行った.その結果,29種38食品(検出率48%)から6種類の有機塩素系農薬(BHC,DDT,クロルデン,ノナクロル,ディルドリン及びヘキサクロロベンゼン)が0.001~0.030 ppmの範囲で検出された.これらの検体において,食品衛生法の残留農薬基準値及び一律基準値を超えたものは認められなかった.

残留農薬,水産物,有機塩素系農薬,残留基準値,一律基準値

 

畜水産物中の残留有機塩素系農薬実態調査(令和3年度)

 令和3年4月から令和4年3月までに東京都内に流通していた食肉,生乳,鶏卵,魚介類及びその加工品等,畜水産物9種122食品について残留有機塩素系農薬の実態調査を行った.その結果,生乳,キンメダイ,サーモンの14食品(検出率11%)から2種類の有機塩素系農薬(DDT及びヘキサクロロベンゼン)が0.0001~0.018 ppmの範囲で検出された.食品衛生法の残留農薬基準値を超えたものは認められなかった.

残留農薬,畜水産物,有機塩素系農薬,残留基準値

 

論文Ⅳ 生活環境に関する調査研究

東京都(多摩地域及び島しょ地域)におけるプール水及びジャグジー水等からのレジオネラ属菌の検出状況(平成30年度~令和2年度)

 東京都におけるレジオネラ症防止対策の一環として,平成30年度~令和2年度に多摩地区及び島しょ地域に所在する施設のプール水及びジャグジー水等785件についてレジオネラ属菌を調査した.水質基準である「検出されないこと」(10CFU/100 mL未満)を超過した割合は3.8%であった.その内訳は,プール水で0.9%,ジャグジー水等では10.2%であった.また,レジオネラ属菌が検出された120検体について抗血清,Multiplex-PCR法,LAMP法及びリアルタイムPCR法を用いて156株の菌種を同定した.その結果, Legionella pneumophilaが150株で94.9%を占めた.また,Legionella spp.分離株についてシーケンシング法を行った結果,Legionella anisa,Legionella londiniensis,Legionella nautarum,Legionella sainthelensiの同定ができた.

レジオネラ属菌,レジオネラ症,プール水,ジャグジー水,遊離残留塩素,血清群,迅速検査法

 

論文Ⅴ 生体影響に関する調査研究

硫酸水素アンモニウムの28日間反復吸入ばく露によるマウス呼吸器への影響評価

 PM2.5などの大気中の微粒子に含まれる無機成分のうち,硫酸は動物及びヒトでのばく露実験で明らかな影響を及ぼすことが報告されているが,硫酸塩の生体影響に関するデータは乏しい.硫酸水素アンモニウムは,環境中の濃度は低いが,酸性度が高く,呼吸器上皮への刺激作用・障害作用が比較的高いことが推測されることから、マウスを用いて呼吸器に対する亜急性毒性を調べた.8週齢の雌雄BALB/c系マウスに0.5,5及び50 mg/m3の濃度設定で鼻部吸入ばく露装置により毎日3時間,28日間連続で硫酸水素アンモニウムのエアロゾルをばく露した.各濃度のばく露条件における硫酸水素アンモニウムのエアロゾルの最頻粒子径は,それぞれ0.32,0.50及び0.50 μmであった.最終ばく露の翌日に剖検し,臓器重量測定,病理組織学的解析,血液学的解析及び生化学的解析を実施したが,ばく露による顕著な影響は認められなかった.今回,文献値に比べて,10倍程度の高濃度での反復ばく露であったが,マウスに対する器質的な影響は認められなかったことから,硫酸水素アンモニウムのエアロゾル吸入毒性は非常に低いことがわかった.これまで,マウスの反復ばく露による詳細な試験結果は報告されておらず,本結果は有用な情報提供となる.

硫酸水素アンモニウム,PM2.5,28日間反復吸入ばく露,BALB/c系マウス

  

ヒト気管支上皮由来Calu-3細胞を用いた細胞膜間結合力の測定方法の検討

 東京都では,大気汚染保健対策の一環として,大気中汚染物質の健康影響を調べる基礎的実験的研究を行っている.令和2年度から硫酸水素アンモニウムを対象物質としており,硫酸水素アンモニウムが培養細胞に及ぼす影響を調査するため,経上皮電気抵抗(TEER)を指標としたCalu-3細胞の細胞膜間結合力の測定を行う予定である.そこで今回,細胞膜間結合力の測定方法及び実験に使用可能となる細胞の培養条件について検討を行った.その結果,TEER測定時は電極を固定して測定することで,より安定した測定値を得ることができた.インサートへの細胞播種数5.0×105cells/cm2,培養期間約1週間,TEER約3000 Ωcm2を超過したものを,細胞膜間結合力の測定に使用可能であると判断した.また,TEERを低下させる陽性対照物質として,酸化チタンが使用可能であることがわかった.

大気汚染物質,Calu-3細胞,細胞膜間結合力,経上皮電気抵抗(TEER)

 

論文Ⅵ 精度管理に関する調査研究

東京都における水道水質検査の外部精度管理調査結果(令和3年度)

 東京都では,「東京都水道水質管理計画」に基づき,東京都健康安全研究センターが中心となり,水道事業者及び厚生労働大臣の登録を受けた水道水質検査機関を対象とした外部精度管理を実施している.本稿においては,令和3年度に実施した「ナトリウム及びその化合物」(以下,「ナトリウム」とする)及び「有機物(全有機炭素(TOC)の量)」(以下,「TOC」とする)に関する外部精度管理の概要を報告する.ナトリウムは35機関が参加し,全ての検査機関が評価基準を満たしていた.一方,TOCは39機関が参加し,このうちGrubbs棄却検定で棄却された検査機関が1機関あった.棄却された機関は,検量線標準液の調製において国が定めた検査方法(以下,「告示法」とする)を遵守していなかった.また,検査実施状況が告示法に準拠していない検査機関が見られた.これらの検査機関は,検査実施標準作業書を見直すとともに告示法を遵守した適正な検査を実施する必要がある.

外部精度管理,水道水,ナトリウム及びその化合物,有機物(全有機炭素(TOC)の量),告示法

 

 

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