研究年報 第72号(2021) 和文要旨

 

*記載内容

 

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和文要旨
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総説

動物由来感染症を取り巻く国内外の状況の変化と東京都における動物由来感染症の発生状況

 国内外における動物由来感染症を取り巻く状況の変化を概説し,あわせて東京都におけるエキノコックス症,オウム病,Q 熱,ブルセラ症の最近15 年間の発生状況を記述した.人と動物の健康が相互に依存しかつそれらは生態系の健全性とも結びついているとするワンヘルスの概念は2000 年代以降広く認識されてきたが,この背景には新興感染症への大きな危機感があった.新興感染症の多くは動物に由来しており,これまで重症急性呼吸器症候群,新型インフルエンザウイルス感染症などが世界的な規模で流行してきた.気候変動や土地利用の変化等により将来的にも新興・再興感染症の発生は増加すると考えられ,その予防や制圧には人と動物のサーベイランスの統合などワンヘルスに基づくアプローチが必要であり,学際的連携を一層深める必要がある.エキノコックス症,オウム病,Q 熱,ブルセラ症の東京都における約15 年間の発生報告数は,それぞれ10 例,20 例,9 例,9 例と少なかった.動物が感染源と考えられた例はオウム病では70.0%(14/20),Q 熱では66.7%(6/9),ブルセラ症では44.4%(4/9)と高かったが,感染源の多くは推定であり確定には至らない例が約9 割を占めた.発生が稀な感染症について関係者が情報を共有できる機会を設けること,ならびに動物や環境等における動物由来感染症病原体の分布状況等を調査する仕組みを整えていく必要がある.
動物由来感染症,新興感染症,ワンヘルス,疫学,オウム病,エキノコックス症,Q熱,ブルセラ症

 

事業報告

網羅的ゲノム解析法等を用いた健康危害微生物の検出・解析に関する研究

 2018~2020年度に実施した重点研究「網羅的ゲノム解析法等を用いた健康危害微生物の検出・解析に関する研究」の概要について報告する.本研究では,東京都内での国際的マスギャザリング(MG)の開催を踏まえ,都で発生する微生物危害の発生や拡大を防ぐ目的で,様々な病原体を網羅的に検知するゲノム解析等を駆使した新たな微生物検出方法の検討・開発について,6つの個別課題の中で行った.主な成果として,次世代シーケンサーを用いた検討では,ウイルス分野での検査・解析方法の最適化,侵襲性インフルエンザ菌や多剤耐性菌に関連した解析,結核菌の分子疫学解析手法の検討,毒素産生ウルセランス菌やStaphylococcus 属菌の新規毒素の解析を行った.また,腸管出血性大腸菌の検査・解析法検討では,新規の遺伝子解析手法であるMLVA法を行政検査へ導入するとともに,市販診断用血清で型別ができない菌株を対象にPCR法を用いた型別法の利用を検討した.さらに,質量分析計の利用では,食品製造のリスク管理手法やヒスタミン生成菌・カビ毒産生株の確認試験法の開発・改良等,質量分析計のライブラリー拡充による同定精度の向上を行った.これらに加え,疫学部門との協調による新型コロナウイルス検査へのゲノム情報の応用や大規模MGの開催に向けたサーベイランス強化方法を検討し,都内で発生した新型コロナウイルス感染症の拡大防止へ実応用した.

網羅的ゲノム解析,質量分析計,マスギャザリング,次世代シーケンス,微生物毒素,腸管出血性大腸菌,感染症サーベイランス

 

食品及び環境中の抗微生物薬残留実態と薬剤耐性微生物に関する研究
 2018~2020年度に実施された重点研究「食品及び環境中の抗微生物薬残留実態と薬剤耐性微生物に関する研究」の概要について報告する.目的は,近年,世界的に問題となっている薬剤耐性について,食品及び環境分野における基礎的データを収集することであり,理化学的及び微生物学的側面から取組みを行った.本研究は4つの個別課題から成り,畜産食品中の抗微生物薬に関する研究では,β-ラクタム系薬剤,サルファ剤及びキノロン系薬剤の高感度測定法を開発し,畜産食品中の残留実態について情報を得た.環境水を対象とした研究では,カルバペネム系薬剤の測定法を開発し,河川水,井戸水及び下水処理場の流入水・放流水について,各種抗微生物薬を調査した.また,同時に,河川水についてはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(以下CREと略す)の存在を確認した.抗微生物薬の水環境中における挙動に関する基礎的検討では,各種抗微生物薬について,加水分解,生分解及び光分解による半減期を求め,次亜塩素酸処理,オゾン処理,活性炭処理及び活性汚泥処理等を実施して,分解性に関する情報を収集した.環境中の病原微生物に関する研究では,下水処理場の流入水について,CRE及びエンテロウイルス(ポリオウイルスを含む)の効率的分離法を確立し,調査を行った.分離されたCREについては,次世代シーケンサーを用いて全ゲノム解析を行い,カルバペネマーゼ遺伝子について詳細な解析を行った.

抗微生物薬,薬剤耐性菌,畜産食品,河川水,半減期,下水処理場,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌,エンテロウイルス,LC-MS/MS,次世代シーケンサー

 

論文Ⅰ 感染症等に関する調査研究

伴侶動物から分離されたESBL産生大腸菌B2-O25-ST131の分子疫学解析

 2016 年に策定されたAMR 対策アクションプランでは,ワンヘルス・アプローチに基づいた動物や環境等における薬剤耐性菌対策の重要性が示されている.その中で基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(Extended-spectrum β-lactamase:ESBL)産生大腸菌においては,B2-O25-ST131 株の世界的な蔓延が報告されている.本研究では,都内の動物病院を受診したイヌ・ネコ由来の大腸菌のうち,血清型O25 に型別された 20 株についてESBL 産生菌の検索および分子疫学解析を行った.
 供試した20 株中5 株がESBL 産生菌であり,5 株すべてがフルオロキノロン耐性であった.全ゲノム解析の結果,これらの5 株は,ESBL 遺伝子としてblaCTX-M-15 を染色体上に持つフルオロキノロン耐性B2-O25-ST131 株であることが判明した.近年,イヌ,ネコをはじめとする伴侶動物に対する意識の変化に伴い,ヒトと伴侶動物はより緊密な関係が構築されるようになっている.伴侶動物が薬剤耐性菌のリザーバーとなることも危惧され,今後も継続した調査が必要と考えられる.

薬剤耐性菌,伴侶動物,大腸菌,ESBL,ST131,全ゲノム解析,イヌ,ネコ

 

リアルタイムPCR法を用いたSARS-CoV-2変異検出法の検討
 2019年12月に中国で最初に確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2021年に入っても世界的流行が続いている.その原因の多くは免疫からの逃避や感染性・伝播性が増加した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株による感染拡大で,これら変異株の多くはスパイクタンパク質遺伝子に特徴的な遺伝子変異(アミノ酸変異)を有している.本研究では変異株に特徴的なアミノ酸変異(N501Y,del 69-70,E484K/QおよびL452R/Q変異等)を迅速に検出するリアルタイムPCR法を構築した.この方法を用いることで,感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される変異株に分類されるウイルスを短時間で大量に検査することが可能となり,都内の感染状況を迅速に把握することが期待できる.

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2),新型コロナウイルス感染症(COVID-19),リアルタイムPCR法,変異株,VOC,VOI,N501Y,E484K/Q,L452R/Q

 

都内の新型コロナウイルス施設内感染事例における次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析

 2019年12月に中国で出現し,世界各地で流行した新型コロナウイルス感染症は,国内でも2020年1月以降,多くの感染例が報告され,未だ感染収束が認められていない.東京都内でも病院や高齢者施設などの施設内感染が発生し,保健所等を中心にそれらの疫学解析を実施してきた.今回,2020年6月28日から2021年4月30日までに搬入された,都内における新型コロナウイルス感染症の集団発生30事例の臨床検体計135件から次世代シーケンサーを用いて全ゲノム配列を取得し,得られた塩基配列の比較により遺伝子解析の有用性を評価した.その結果,系統樹解析により集団発生の事例によりほぼ同一のClusterが形成された.さらに得られた新型コロナウイルスのゲノムにおける変異の検出および変異パターンの比較により,同一事例内でも数塩基異なる場合があることが明らかとなった.各事例で検出された新型コロナウイルスの変異が5か所までの範囲であれば,同一の感染源である可能性が示唆され,全ゲノム配列を用いた系統樹解析は感染経路の推定に有用と考えられた.
新型コロナウイルス,COVID-19,SARS-CoV-2,施設内感染,次世代シーケンサー

 

PCR および質量分析計を用いたCampylobacter jejuni 型別法の検討 

 Campylobacter jejuni / coliによる食中毒は,東京都内で発生した細菌性食中毒において2005年~2020年まで16年連続で最多事件数を継続している.また現在,行政検査で用いているC. jejuniの血清型別法は,型別率が50%以下に低下しているため,菌株の疫学解析として十分な知見が得られていない.そこで,本研究では近年新たに開発されたPCRを用いた遺伝子型別法および病院等の臨床分野で微生物同定検査に汎用されているマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF MS)を用いたMS型別法を検討した.都内で散発下痢症患者,食中毒患者および鶏肉から分離されたC. jejuni 1,375株を用いて,血清型別法,遺伝子型別法およびMS型別法を検討した結果,型別率は,血清型別法36.0%,遺伝子型別法95.9%だった.一方,MS型別法は,今回用いた前処理方法によるバイオマーカー解析方法では,血清型や遺伝子型のように同一菌種間における差異を型別することができなかったが,MALDI-TOF MSによるC.jejuniおよびC. coliの菌種同定はPCRと100%一致した.
Campylobacter jejuni,遺伝子型別,PCR,MALDI-TOF MS

 

都内下水中の新型コロナウイルス検出状況(2020年度)
 東京都では,2020 年1 月から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の発生が報告され,2021 年6 月現在,累計15 万人以上の感染者が報告されている.COVID-19 は呼吸器症状を主徴とするが,稀に下痢等の消化器症状を引き起こすことが報告されており,感染者の糞便からも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が検出される.そのため,SARS-CoV-2の感染状況のモニタリング方法として下水の検査が注目されてきた.今回,都内水再生センターの下水(流入水及び放流水)を対象に,定点調査(2020 年7 月~8 月,2 地点)・広域調査(2020 年11 月第3 週,20 地点)を実施し,SARS-CoV-2 の遺伝子検査・分離培養試験を試みた.その結果,全ての放流水ではSARS-CoV-2 遺伝子が検出されず,定点調査の連続した期間の流入水,広域調査の20 地点中6 地点の流入水の主として遠心沈渣からSARS-CoV-2 遺伝子が検出されたが,ウイルスは分離されなかった.
下水,新型コロナウイルス,SARS-CoV-2,沈渣,リアルタイムPCR法,ウイルス分離

 

東京都で検出された新型コロナウイルス変異株の分子系統樹解析
 2021年4~7月に都内で検出された380例の新型コロナウイルスについて,変異株を中心に次世代シーケンサーを用いて全ゲノム配列を決定した.また,アルファ株およびデルタ株について,国際ゲノムデータベースに登録された国内各地域で検出された事例の塩基配列情報と系統樹解析を行った.その結果,アルファ株については国内で広がり始めた当初は東京都および近県3県と関西圏で地域ごとにクラスターを形成する傾向がみられていたが,その後,地域差が認められなくなった.一方,デルタ株では感染拡大初期では地域により分かれたクラスターがみられたが,その後の比較ではより短い期間に地域別クラスターの差が小さくなり,短期間に同一起源から感染が拡大した影響を反映している可能性が推察された.
新型コロナウイルス,COVID-19,SARS-CoV-2,変異株,GISAID,アルファ株,デルタ株

 

東京都内で分離された新型コロナウイルスの次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析(2020年6月~2021年5月)
 2019年12月に中国武漢で初めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者が確認されてから,現在も世界各地で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による流行が続いている.COVID-19の世界的流行に伴い,ウイルスの性質を変化させる変異株の出現が相次いで報告されている.今回,東京都内におけるSARS-CoV-2の変異の調査を目的に,2020年6月から2021年5月までにVero系細胞を用いて分離培養されたSARS-CoV-2の分離株110株を次世代シーケンサーを用いて解析し,武漢で報告された参照株と比較した.第2波(2020年7月から8月)から第3波(2020年12月から2021年1月)では,欧州からの帰国者より広まった第1波(2020年3月から5月)から派生した日本固有の系統であった.また,2021年3月以降の第4波からは海外で流行した株(VOC: Variant of Concern,VOI: Variant of Interest)が次々と都内でも分離されている.

SARS-CoV-2,分離培養株,COVID-19,変異株,次世代シーケンサー,系統樹解析

 

新型コロナウイルス簡易抗原検査試薬のウイルス分離株を用いた検討
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が2020 年に東京都内で初めて確認されてから,都では多くの検査を実施している.新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査では,リアルタイムPCR 法等による核酸検出検査が最も信頼性が高いが,特別な装置や熟練の技術を必要とし,結果が出るまでには数時間を要する.これに対し,簡易抗原検査はイムノクロマト法を原理とし,特別な装置を必要としないため,現場で簡便に素早く測定することが可能である.2020 年5月以降,日本においても多くの種類の簡易抗原検査が厚生労働省により承認されている.今回,臨床検体から分離されたSARS-CoV-2 を用い,11 種類の市販の簡易抗原検査試薬の検出感度の検討を行った.異なるアミノ酸変異を有する5種類の変異株を用いた結果,各簡易抗原検査試薬の検出感度は105–107 copies 程度で,陽性として検出できる濃度に差は生じたが,株の違いによる感度差は認められなかった.簡易抗原検査試薬は医療機関や高齢者施設で早期に陽性者を発見する場合に有用であり,特徴を理解して正しく使用することで,COVID-19 診断の一助となることが示唆された.

新型コロナウイルス感染症(COVID-19),新型コロナウイルス(SARS-CoV-2),変異株,簡易抗原検査試薬,検出感度

 

東京都衛生検査所精度管理調査における新型コロナウイルス核酸検査の調査(2020年度)
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検査は,reverse transcription polymerase chain reaction(RT-PCR)法をはじめとした核酸増幅検査により開始された.感染者の急増に伴い,RT-PCR 検査の需要が増大し,国は衛生検査所の施設要件緩和等の施策を実施し,検査を拡充してきた.現在,東京都においてもSARS-CoV-2 検査は,多くの衛生検査所において行われている.こうした状況下に設置された衛生検査所においては,内部精度管理の実施は努力義務であり,外部精度管理調査の受検は必ずしも必要とはされていない.しかしながら,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)疑い患者を早期に診断し感染拡大を抑制するためには,検査精度の信頼性確保は重要な鍵となる.今回,東京都は,2020 年度の衛生検査所精度管理事業として,わが国で初めてSARS-CoV-2 を対象に病原体核酸検査の外部精度管理調査を実施した.配布試料は市販のSARS-CoV-2 遺伝子コントロール用いて希釈して作製した.その結果は,精度管理調査参加施設及びレファレンス施設とも概ね良好であった.COVID-19 に限らず感染症の病原体検査には高い精度確保が求められており,今後も病原体核酸検査の外部精度管理調査を継続して実施していく必要がある.

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2),精度管理調査,病原体核酸検査,臨床検査,登録衛生検査所

 

2020年度の東京都内食中毒事例におけるノロウイルスの遺伝子解析 

 2020年度に,東京都内で食中毒疑い事例として搬入され,ノロウイルス(NoV) が検出された19事例の糞便検体を対象に,VP1領域とポリメラーゼ領域の2領域を含むNoVの分子疫学解析を行った.その結果,GIが6事例,GIIが12事例,GIとGIIどちらも検出されたのは1事例であった.検出されたNoVの遺伝子型は,事例数の多い順に,GII.2[P16]が8事例,GII.17[P17]が4事例,GI.6[P11]が4事例,GI.7[P7]が2事例,GI.4[P4]とGII.4Sydney[P31]が1事例ずつであった.今回の解析結果を2019年度と比較したところ,検体搬入数は52.9%減少し,新型コロナウイルス感染症流行下であった2020 年度のNoV の検出状況は, 2019 年度とは異なる傾向を見せた. また, GII.2[P16] , GII.17[P17] ,GII.4Sydney[P31],GI.6[P11],GI.7[P7]に分類された検体のうちそれぞれ1~2検体について次世代シーケンサー(NGS)による解析を行ったところ,98.0%以上の相同性を示す株が国内または海外で検出されていた.
東京都,ノロウイルス,食中毒,遺伝子型,ポリメラーゼ領域,次世代シーケンサー,NGS

 

都内動物取扱業(販売業及び展示業)における取扱動物の動物由来感染症起因病原体保有実態調査(令和元年度)

 東京都では,都民の飼養する動物や不特定多数の都民がふれあう動物に由来する感染症について,その発生を未然に防止するため,都の動物由来感染症予防体制整備事業実施要綱に基づいた調査を実施している.今回,令和元年度に都内ペットショップで飼養されていた犬47頭及び猫27頭と,都内動物園等で飼養されていたふれあい動物13頭を対象に,各種の病原体保有状況を調査した.調査の結果,ペットショップで飼養されていた動物から,サルモネラ属菌(1検体),Yersinia enterocolitica(1検体),病原大腸菌(2検体),ジアルジア(犬17検体,猫1検体),皮膚糸状菌(犬3検体,猫9検体)が検出された.また,動物園等で飼養されていた動物からは,病原大腸菌(山羊3頭,羊4頭)が検出された.施設内に病原体が持ち込まれることを前提とした検疫体制の整備や,施設内での交差感染を防ぐための衛生管理,動物とふれあう前後の衛生指導が重要であると考えられた.
動物由来感染症,動物取扱業,ペットショップ,ふれあい動物園,サルモネラ属菌,Yersinia enterocolitica,病原大腸菌,ジアルジア,皮膚糸状菌

 

論文Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

危険ドラッグから検出された薬物に関する理化学試験結果(令和2年度)
 令和2年度に行った市販危険ドラッグから検出された薬物の理化学試験結果を報告する.薬物の理化学試験には,主にフォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフィー(LC/PDA),電子イオン化質量分析計付ガスクロマトグラフィー(GC/EI-MS)を用い,必要に応じて高分解能精密質量測定法(HR-MS),核磁気共鳴スペクトル測定法(NMR)及び単結晶X線構造解析法により構造解析を行った.令和2年度は,危険ドラッグ140製品のうち,16製品から14種類の薬物が検出された.そのうち,当センターで新たに検出された薬物は7種であり,構造解析の結果,4-AcO-EPT,3-Chloromethcathinone,3-Chloroethcathinone,2-Thiothinone,4-Fluoroethylphenidate,3F-PCP及び1cP-LSDであった.また,規制薬物では麻薬が1種,指定薬物が6種検出された.

危険ドラッグ,指定薬物,LC/PDA,GC/EI-MS,4-AcO-EPT,3-Chloromethcathinone,3-Chloroethcathinone,2-Thiothinone,4-Fluoroethylphenidate,3F-PCP,1cP-LSD

 

貼付剤におけるローリングボールタック試験法の検討 

 第17改正日本薬局方に収載されている粘着力試験法のうち,ローリングボールタック試験法について,試験条件の検討を行い,結果に影響を及ぼす要因を調べた.ローリングボールタック試験法は,傾斜板で一定の大きさのボールを試験開始位置から転がした後,貼付剤上でボールが停止するまでの距離を測定する方法である.検討した要因は,試料の固定方法,試料の固定強度,製造会社の異なるボール,転球装置の形状及び試験温度の5つとした.今回の検討結果から,測定結果への影響度が大きい要因は,試料の固定方法及び転球装置の形状であることが判明した.また,条件検討の結果から基本条件を設定し,基本条件に基づき試験を実施して併行精度及び室内再現精度について調査した.併行精度では,各試料における測定値に大きな差は認められなかった.室内再現精度では,特に粘着剤の厚いパップ剤において,試験者によって測定値に差が認められた.いずれの試験者においても転球装置を転がるボールの速度は一定であったことから,試料を装置に貼り付ける作業において個人差が生じたものと考えられる.
粘着力試験法,ローリングボールタック試験法,貼付剤,第17改正日本薬局方

 

化粧品における配合成分の検査結果(令和元年度) 

 令和元年度に搬入された87製品について,ホルマリンや防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分の製品への表示状況並びに検査結果をまとめた.配合禁止成分であるホルマリンは,ホルムアルデヒドとして検査し,ホルムアルデヒドを検出した製品はなかった.防腐剤については,フェノキシエタノールやパラオキシ安息香酸エステル類の検出頻度が高かった.化粧品基準に定められた最大配合量を超過した濃度の防腐剤を検出した製品はなかった.また,表示されていない防腐剤を検出した製品は6製品あった.紫外線吸収剤では,パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルや4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタンの検出頻度が高かった.最大配合量を超過した濃度の紫外線吸収剤を検出した製品はなかったが,1製品から表示されていない紫外線吸収剤を検出した.タール色素で検出頻度の高いものは赤色202号であった.承認化粧品成分については,グリチルリチン酸ジカリウムの検出頻度が高かった.カフェインが表示のない1製品から最大配合量を超過した濃度で検出された.
化粧品,ホルマリン,ホルムアルデヒド,防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分

 

東京都における家庭用品の「ホルムアルデヒド」試験検査結果について(2015年度~2020年度) 

 例年,「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」に基づき,規制対象家庭用品の試買試験が全国的に実施されている.さらに,東京都では健康被害未然防止の観点から,規制対象以外の製品についても,先行調査として同様の試買試験を毎年度実施している.
 2015年度~2020年度における東京都のホルムアルデヒドに関する試験検査の結果,ホルムアルデヒドを認めた製品があったが,違反となった製品はなかった.繊維製品のうち生後24か月以内の乳幼児用433製品中8製品から3~6μg/g,繊維製品のうち生後24か月以内の乳幼児用を除いた子供・大人用446製品中12製品から7~71 μg/g及びかつら,つけまつげ,つけひげ又はくつしたどめに使用される接着剤22製品中1製品から25 μg/gのホルムアルデヒドを認め
た.また,先行調査として検査した抱っこひも2製品について,ホルムアルデヒドを26, 73 μg/g検出した.市場には規制対象外の多様な繊維製品が販売されており,それらの有害物質含有状況について実態を把握するため,今後も先行調査を継続する必要がある.
有害性物質を含有する家庭用品の規制に関する法律,家庭用品,ホルムアルデヒド,繊維製品,接着剤

 

東京都における家庭用品の特定芳香族アミン試験検査結果について(2016年度~2019年度)

 繊維製品や革製品などの染色には,アゾ結合を有するアゾ染料が広く使用されている.アゾ染料は,人の腸内細菌や肝臓等によりアゾ結合が還元されることで,芳香族アミンを生成する.その中には,発がん性を有する又は発がんの可能性が指摘されているものがある.我が国では,2016年から24種の芳香族アミンを「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」により特定芳香族アミンとして指定し,特定芳香族アミンを生成するアゾ染料の使用を規制している.本報告では,2016年度から2019年度までの4年間における特定芳香族アミンの試験検査結果を報告する.東京都内に流通している繊維製品23製品及び革製品6製品について,「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」に基づき試験検査を行ったところ,革製品1製品からbenzidineが154 μg/g検出され,全国で初めてとなる違反事例となった.今後も違反となる製品が流通するおそれがあることから,継続して調査していく必要がある.
家庭用品,アゾ染料,特定芳香族アミン,革製品,繊維製品,発がん性,GC/MS,HPLC/PDA

 

論文Ⅲ 食品等に関する調査研究

マルチプレックスPCRによる5種ウナギの判別法 

 ウナギのかば焼きや白焼きから原料ウナギを判別するため,5種のウナギ(二ホンウナギ,ヨーロッパウナギ,バイカラウナギ,アメリカウナギ及びオーストラリアウナギ)を対象にマルチプレックスPCR法の検討を行った.ウナギのミトコンドリアDNAのD-Loop領域に設計した種特異的プライマーを用いリアルタイムPCRを行うことにより,これらウナギの判別が可能となった.開発したリアルタイムPCR法は迅速で経済的に5種のウナギを判別するための有用なツールになるものと考えられた.
マルチプレックスPCR,判別,ウナギ,ニホンウナギ,ヨーロッパウナギ,バイカラウナギ,アメリカウナギ,オーストラリアウナギ

 

リアルタイムPCRによるニガクリタケ及びクリタケの判別法 

 ニガクリタケ及びクリタケを迅速に判別するため,リアルタイムPCR法を開発した.新規に設計したプライマー及びプローブを用い,Threshold lineを0.200に設定し, Ct値が35以下での増幅の観察を行うことにより,これらを判別できた.さらに,開発したリアルタイムPCR法の特異性を確認するために14種のキノコ(エリンギ,マイタケ,ブナシメジ,ブナシメジ(ブナピー®),シイタケ,エノキタケ,ナメコ,ツクリタケ(ブラウン種),ツクリタケ(ホワイト種),ムキタケ,ツキヨタケ,チャナメツムタケ,ヌメリスギタケ,ムラサキシメジ)ならびに14種の農作物(ニンジン,ダイコン,カイワレ,ネギ,シュンギク,ハクサイ,ミツバ,ミズナ,ジャガイモ,タマネギ,アスパラガス,ナス,ゴーヤ,キャベツ)について,本法で試験を行った結果,これらキノコ及び農作物では非特異的な増幅は見られなかった.これらの結果により,本法はニガクリタケ及びクリタケを判別するための有用な試験法になりえるものと考えられた.
ニガクリタケ,クリタケ,リアルタイムPCR,判別

 

PCRによるバイケイソウ,オオバギボウシ及びギョウジャニンニクの判別法 

 バイケイソウ,オオバギボウシ及びギョウジャニンニクを判別するため,PCR法を開発した.新規に設計したプライマーを用いPCRを行うことにより,これら植物の判別を行うことができた.また,開発したPCR法の特異性を確認するため9種の野菜(タマネギ,ネギ,ニンジン,シュンギク,ハクサイ,アスパラガス,ナス,ゴーヤ及びキャベツ)について,本法で試験を行ったところ,これらの野菜では非特異的な増幅は見られなかった.これらの結果より,開発したPCR法はバイケイソウ,オオバギボウシ及びギョウジャニンニクを判別するための有用な試験法になるものと考えられた.

バイケイソウ,オオバギボウシ,ギョウジャニンニク,PCR,判別

 

食品中着色料検査におけるTLC分析の検出限界と分離条件の検討

 食品中の着色料は,主にTLCを用いた定性検査が行われているが,各個人や色素の種類,使用するTLC固定相により検出できる濃度は異なる.今回,12種類の酸性タール色素及び指定外色素5種類についてTLC分析における検出限界を調べるため目視評価による検討を行った.各色素の0.1–50 μg/mL水溶液を調製し,それぞれについて連続した4濃度を選び,RP-18及びシリカゲルアルミプレートを用いて展開した.肉眼でスポットを確認できた最小濃度を各個人の検出限界値とし,検査員35人で確認を行った結果,固定相の種類,色素の種類,検査員による差で検出限界値は10倍以上の開きがあることが示された.また,既知のシリカゲルプレートの展開条件では,食用赤色2号と食用黄色4号,食用赤色102号と食用緑色3号の分離が十分ではなく,複数の着色料が使用されている食品の検査では判定が困難となる.これらの4種類の色素を分離するTLC条件を検討し,1-ブタノール・エタノール・3%酢酸(7:2:4)などの条件で,良好な分離を得られた.同時に,指定外添加物であるポンソー6Rについても分離可能な条件を検討し,シリカゲルプレートにおいて,酢酸エチル・アセトニトリル・メタノール・28%アンモニア(4:2:1:2)で良好な分離が得られた.

酸性タール色素,薄層クロマトグラフィ(TLC),食品

 

食品中の放射性物質の検査結果(令和2年度) 

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を受け,東京都では,平成23年度から都内で流通している食品の放射性物質検査体制を拡充している.令和2年度は,国産食品780検体及び輸入食品60検体,計840検体について放射性セシウム及び放射性ヨウ素の検査を行った.検査には,ゲルマニウム半導体核種分析装置及びヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメーターを用いて測定した.その結果,輸入食品のブルーベリー加工品1検体から放射性セシウム(Cs-137)が検出されたが,基準値未満であった. 

 放射性物質,核種分析,放射性セシウム,ゲルマニウム半導体核種分析装置,ヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメーター,食品

 

食品中の特定原材料(卵,乳,小麦,そば)の検査結果(令和2 年度)

 東京都で令和2 年4 月から令和3 年3 月に実施した,加工食品中の卵,乳,小麦,そばを対象とした特定原材料検査結果を報告する.東京都内で製造または流通していた食品について,卵を対象として11 検体,乳を対象として14 検体,小麦を対象として11 検体,そばを対象として3 検体,計39 検体にELISA 法によるスクリーニング検査を実施した.小麦で2 検体が陽性であり,PCR 法による確認検査を行った結果,1 検体が陽性であった.検査を実施した検体には,原材料表示に検査対象となる原材料の記載はなかった.また,うどんを喫食してアレルギー症状を呈した有症苦情について,卵を対象として2 検体にELISA 法によるスクリーニング検査を行った結果,1 検体が陽性であり,ウエスタンブロット法による確認検査を行った結果も陽性であった.食物アレルギーによる健康被害の防止のために,今後も特定原材料の検査を継続的に実施することが重要である.
食物アレルギー,特定原材料,卵,乳,小麦,そば,ELISA 法,PCR 法,ウエスタンブロット法

 

遺伝子組換え食品の検査結果(平成29年度~令和2年度)

 平成29年4月から令和3年3月までに,東京都で実施した遺伝子組換え食品検査の結果について報告する.国内で流通が認められていない,安全性未審査の遺伝子組換えトウモロコシ(CBH351, Bt10),コメ(63Bt, NNBt, CpTI),パパイヤ(PRSV-YK, PRSV-SC, PRSV-HN)およびばれいしょ(J3,F10)について,250検体の定性試験を行った結果,これらの遺伝子組換え作物は検出されなかった.安全性審査済み遺伝子組換え食品について,ダイズ加工食品およびトウモロコシ加工食品・粉砕加工品339検体の定性試験を行った結果,99検体から組換え遺伝子を検出した.ダイズ穀粒,トウモロコシ穀粒および定性試験で陽性となったトウモロコシ加工食品・粉砕加工品について,93検体の定量試験を行った結果,意図しない混入率の基準(5%)を超えるものはなかった.

遺伝子組換え食品, PCR,リアルタイムPCR,トウモロコシ,コメ,パパイヤ,ダイズ,ばれいしょ,加工食品

 

化学物質及び自然毒による食中毒事件例(令和2 年)

令和2 年に東京都内で発生した化学物質や自然毒による食中毒及び有症苦情事例のうち,原因が明らかとなった5事例について報告し,今後の食中毒等発生防止及び食中毒等発生時の迅速な検査の参考とする.事例1 ではブリの照り焼きを喫食した24 名中11 名が喫食後30 分程度で,事例2 ではシイラのごまダレ焼きを喫食した267 名中8 名が喫食直後から15 分後に,いずれもアレルギー様症状を呈した.薄層クロマトグラフィー(TLC)及び高速液体クロマトグラフ(HPLC)分析により事例1 ではブリの照り焼きから,事例2 ではシイラの原材料及びシイラのごまダレ焼き
からヒスタミンが検出された.事例3 ではニラスープを喫食した3 名中3 名が喫食直後から1 時間30 分後に吐き気,下痢を呈した.液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)分析によりスープの残渣及び患者宅庭に残っていた球根からリコリン及びガランタミンが検出され,スイセンの誤食による食中毒事例と推定された.事例4 ではズッキーニを喫食した16 名中8 名が喫食から数時間後に下痢や腹痛などの消化器症状を呈した.LC-MS/MS 分析によりズッキーニからククルビタシンB,ククルビタシンE 及びエラテリニドが検出された.事例5 ではフグの白子を喫食した1 名が喫食から5 時間半後に四肢の麻痺,ろれつが回らない,意識消失を呈した.LC-MS/MS 分析により患者尿及び血清からテトロドトキシンが検出された.

化学性食中毒,ヒスタミン,ブリ,シイラ,スイセン,リコリン,ガランタミン,ズッキーニ,ククルビタシン類,テトロドトキシン

 

食品の苦情事例(令和2 年度) 

 令和2 年度に検査を実施した食品苦情に関わる12 事例から4 事例を選び報告し,今後の苦情解明の参考とする.(1)グミキャンディに混入していた枯れ葉様物は,官能試験(外観),顕微鏡観察,呈色試験,溶解試験及び燃焼試験を行った結果,セルロースが主の繊維状物が油脂で固まったものと推測された.(2)タレの素に混入していた白色硬質物は,官能試験(外観),電子顕微鏡観察,蛍光X 線分析,溶解試験及び種の鑑別試験を行った結果,ウシの骨片と推測された.(3)みそ汁からのガソリン様臭は,GC-MS 分析を行った結果,灯油,軽油または重油由来と推測された.(4)カニ入り茶碗蒸しに混入していた合成樹脂様物は,官能試験(外観),FT-IR 分析及び燃焼試験を行った結果,カニの爪の腱と推測された.

食品苦情,異物,異臭,繊維,骨,ガソリン様臭,電子顕微鏡,蛍光X 線分析,GC-MS 分析,FT-IR 分析

 

食品中着色料分析において見出される副成色素について 

 指定着色料に由来する副成色素について,食品中着色料の分析方法により試験を行った.現在,標準品の入手が可能な赤色2号,赤色102号,赤色40号及び黄色5号の副成色素について,薄層クロマトグラフ(TLC),高速液体クロマトグラフ(HPLC)及び液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計(LC-MS/MS)により分析を行い,Rf値,保持時間,HPLCクロマトグラム,PDAスペクトル等の情報を収集した.赤色2号及び赤色102号由来の副成色素については判別が容易であった.赤色40号及び黄色5号由来の副成色素については,主色素との分離は良好であったが,各副成色素を比較すると,TLC,HPLCでの判別が困難な色素もあり,LC-MS/MSによる分析が有効であった.これらのデータを,食品中着色料の試験で検出される不明色素について,副成色素であるのか,指定外着色料であるのかを判定するための有用な資料として活用することで,判定の迅速化及び検査の信頼性向上が期待される. 

着色料,副成色素,赤色2号,赤色102号,赤色40号,黄色5号,薄層クロマトグラフ,液体クロマトグラフ,液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計

 

しょうゆ及びしょうゆ漬中のパラオキシ安息香酸エステル類の分析

 平成30年から令和元年に市販されたしょうゆ4検体及びしょうゆ漬22検体について,食品添加物の保存料含有量調査を実施した.定量下限値を下げた分析法を用いたところ,パラオキシ安息香酸(PHBA)エステル類の原材料表示がないしょうゆ漬3検体から,複数成分のPHBAエステル類0.002~0.005 g/kgを検出した.また,しょうゆ3検体から使用基準未満の複数成分のPHBAエステル類を検出した.しょうゆ及びしょうゆ漬から検出された成分の比率が類似していることから,しょうゆ漬より検出されたPHBAエステル類は原材料に用いたしょうゆに由来すると推定された.定量下限値を下げた分析法を用いて測定し,PHBAエステルの種類を確認することにより,食品からPHBAエステル類を検出した場合の原因調査の一助にできると考える.
保存料,パラオキシ安息香酸エステル類,安息香酸,ソルビン酸,水蒸気蒸留法,透析法,LC,しょうゆ,漬物,食品添加物

 

合成樹脂製器具及び容器包装のカドミウム及び鉛材質試験における炭化方法の検討 

 食品衛生法の合成樹脂製器具及び容器包装におけるカドミウム(Cd)及び鉛(Pb)材質試験について、試料の炭化に用いる容器を蓋で覆わない方法を提案した.容器を蓋で覆った場合にCd及びPbが蓋に残存しないこと,蓋で覆わなかった場合にホットプレート上で同時に炭化処理を行った容器にCd及びPbが移行しないことを確認した.各種樹脂製市販品を用いた添加回収試験における回収率と、認証標準物質の回収率はともに90%以上を示した.これらのことから,今回検討した条件において,試料の炭化に用いる容器を蓋で覆わなくてもCd及びPbの材質試験に影響はないことがわかった.

食品衛生法,合成樹脂製器具及び容器包装,材質試験,カドミウム,鉛,炭化方法

 

バナナ及びかんきつ類に使用されている防かび剤の実態調査(2018年度~2020年度) 

 2018年4月から2019年3月までに都内に流通した輸入バナナ12検体及び2018年4月から2021年3月までに都内に流通した輸入かんきつ類5種86検体(グレープフルーツ,オレンジ,レモン,ライム,オロブロンコ)について防かび剤検査を実施した.バナナはすべての検体で,食品表示(以下,表示)に防かび剤の記載がなく,防かび剤の検出もなかった.かんきつ類はライム1検体を除き,すべての検体の表示に2種類以上の防かび剤の記載があったが,すべての防かび剤が検出されないケースが多数あった.定量限界値以上検出された防かび剤は,イマザリル,オルトフェニルフェノール,フルジオキソニル,チアベンダゾール,ピリメタニルで,0.0005~0.006 g/kg検出された.また,今回対象としたすべての防かび剤で痕跡が検出された.いずれの検体においても食品添加物として食品衛生法の使用基準を満たしていた.本調査結果から算出した各防かび剤の一日推定摂取量(EDI)は一日摂取許容量(ADI)に対して,0.2~5.6%であり,安全性に問題ないと考えられた.

防かび剤,食品添加物,ポストハーベスト農薬,バナナ,かんきつ類,一日摂取許容量(ADI)

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(令和2年度)-野菜類及びその他-

 令和2年4月から令和3年3月までに東京都内に流通した輸入農産物のうち,野菜,きのこ類,穀類及び豆類の計39種158作物を対象に残留農薬実態調査を実施した.その結果,25種72作物(検出率46%)から検査項目の残留農薬が痕跡(0.01 ppm未満)~0.32 ppm検出された.検出された農薬は,殺虫剤34種類,殺菌剤14種類,除草剤6種類及び共力剤1種類の計55種類であった.このうち,中国産しょうが1作物からクロチアニジンが0.10 ppm(残留基準値0.02ppm),ペルー産キノア1作物からオルトフェニルフェノールが0.02 ppm(一律基準値0.01 ppm),ミャンマー産緑豆1作物からチアメトキサムが0.06 ppm(残留基準値0.05 ppm)検出され,食品衛生法で定められた基準値を超過した.これらの作物における残留量は,各農薬に設定された一日摂取許容量(ADI)の1/1,000未満であった.

残留農薬,輸入農産物,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,共力剤,残留基準値,一律基準値,一日摂取許容量(ADI)

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(令和2年度)-果実類-

 令和2年4月から令和3年3月に東京都内に流通していた輸入農産物のうち,果実19種115作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,17種83作物(検出率72%)から殺虫剤,殺菌剤,除草剤及び共力剤合わせて52種類の農薬が検出された.作物別検出農薬の内訳は,柑橘類では4種23作物から殺虫剤が17種類,殺菌剤が4種類及び共力剤が1種類検出された.ベリー類では3種20作物から殺虫剤が10種類,殺菌剤が10種類及び除草剤が1種類検出され,その他の果実では10種40作物から殺虫剤が16種類,殺菌剤が19種類検出された.食品衛生法の残留農薬基準値の対象部位のうち,検査項目農薬が痕跡(0.01 ppm未満)~0.58 ppm検出された.このうち,ベトナム産ライム1作物から殺菌剤ヘキサコナゾール及び殺虫剤プロフェノホスがそれぞれ0.07 ppm及び0.13 ppmと一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出された.本作物における各農薬の残留量は,ヘキサコナゾールに設定された一日摂取許容量(ADI)の約1/190,プロフェノホスのADIの約1/11であった.

残留農薬,輸入農産物,果実,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,共力剤,残留基準値,一律基準値,一日摂取許容量(ADI)

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査(令和2年度) 

 令和2年4月から令和3年3月までに都内に流通していた国内産農産物のうち,野菜20種71作物,果実類1種4作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,16種45作物(検出率60%)から殺虫剤,殺菌剤及び除草剤合わせて35種類の農薬を検出した.このうち,検査項目農薬の濃度は痕跡(0.01 ppm未満)~0.65 ppmであった.作物別検出農薬の内訳は,野菜では15種41作物から殺虫剤16種類,殺菌剤14種類,除草剤1種類が検出された.一方,果実類では1種
4作物から殺虫剤4種類,殺菌剤5種類が検出された.検出頻度の高かった農薬はジノテフランで,野菜9作物(検出率12%)から検出された.なお,食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えて検出された農薬はなかった.

残留農薬,国内産農作物,野菜,果実,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,残留基準値,一律基準値

 

東京都における食品中残留農薬一日摂取量調査(令和元年度)

 令和元年5月から6月に東京都内で購入した食品(94種類300品目)及び6月に採取した水道水を試料としてマーケットバスケット方式を用いて残留農薬の一日摂取量を調査した.残留農薬は,I群(米・米加工品),IV群(油脂類),VI群(果実類),VII群(緑黄色野菜)及びVIII群(その他の野菜・きのこ・海草類)からジノテフラン,ボスカリド及びアセタミプリド等11農薬が0.001~0.012 ppm検出された.喫食した場合における各農薬の推定一日摂取量(EDI)を算出し,一日摂取許容量(ADI)と比較したところ,EDI/ADI比は0.00050 ~ 0.40%であり,ヒトへの健康影響はないと考えられれた.

トータルダイエット,残留農薬,一日摂取許容量(ADI)

 

畜水産物中の残留有機塩素系農薬実態調査(令和2年度)

 令和2年4月から令和3年3月に東京都内に流通していた食肉,生乳,魚介類及びその加工品等畜水産物9種94食品について残留有機塩素系農薬の実態調査を行った.その結果,生乳,ウナギ,サーモンの22食品(検出率23%)から3種類の有機塩素系農薬(DDT,ノナクロル,及びヘキサクロロベンゼン)が0.0001~0.004 ppmの範囲で検出されたが,食品衛生法の残留農薬基準値及び一律基準値を超えたものは認められなかった.
残留農薬,畜水産物,有機塩素系農薬,残留基準値,一律基準値

 

論文Ⅳ 生活環境に関する調査研究

東京湾産魚介類中の残留ダイオキシン類濃度調査結果(令和2年度)

 東京都では,東京湾産魚介類中の残留ダイオキシン類濃度を継続的に調査している.本報は,令和2年度の調査結果である.調査には,東京湾産のボラ,スズキ,マアナゴ,マコガレイ,ホンビノスガイを用いた.令和元年度の結果と比較し,スズキ以外で残留濃度が増加した.平均残留濃度が最も高かった魚種はマアナゴで,2.07 pg-TEQ/g-wetであった.マアナゴの残留濃度は昨年の約3倍となったものの,調査開始以降2番目に低い値であり,経年的な減少傾向にあると考える.TEQに占めるコプラナーポリ塩化ビフェニル(Co-PCB)の割合は,全魚種で約7~8割であり,TEQに寄与していた.ダイオキシン類は環境中に長期間残留することから,今後も引き続き残留濃度を調査する必要がある.

ダイオキシン類,東京湾,魚介類,PCDD,PCDF,Co-PCB

 

論文Ⅴ 生体影響に関する調査研究

マウスを用いたオピオイド系違法薬物の催奇形性に関する予備調査

 東京都は,平成17 年からこれまでに多くの危険ドラッグに含まれる成分を知事指定薬物として規制しており,東京都健康安全研究センターでは未規制薬物を知事指定薬物として規制するための評価資料として生体影響試験を実施してきた.
 オピオイド系薬物の中で,フェンタニル系薬物及び非フェンタニル系であるベンズイミダゾール系薬物が近年北米などで中毒者が増加しており,東京都でも知事指定薬物として規制する薬物が増加している.
 知事指定薬物として指定するための生体影響試験には生殖発生毒性は含まれないことから,今回違法薬物の生殖発生毒性を調べるためにオピオイド系違法薬物の催奇形性試験をマウスで実施した.
 フェンタニル系薬物の4Cl-iBF を0.0(対照),0.37,1.1 及び3.3 mg/kg 体重/日で,同じくフェンタニル系薬物の4F-iBF及びp-Methoxybutyrylfentanyl とベンズイミダゾール系薬物のIsotonitazene を3.3 mg/kg 体重/日で妊娠7 日目から12 日目のマウス母体に連続6 日間腹腔内投与し, 妊娠18 日目に妊娠に関する指標と母体及び胎児への影響を検査した.
 全群で妊娠黄体数,着床数,胎児数等の生殖発生毒性の指標及び外表奇形は対照群と比較し有意な増加は認められなかった.いっぽう,胎児体重の減少がIsotonitazene 投与群で見られた.骨格奇形は今回調査した4 種類すべての被験物質で対照群と比較し腰肋が有意に増加し,Isotonitazene ではその他に頭蓋骨形成遅延,胸骨核の縮小など化骨遅延が見られた.違法薬物の催奇形性試験はこれまで報告が少なく,貴重な情報提供となる.

危険ドラッグ,オピオイド,フェンタニル,催奇形性試験, 4Cl-iBF,4F-iBF, p-Methoxybutyrylfentanyl,Isotonitazene,マウス

 

知事指定薬物に指定されたα-PHP 類縁化合物の生体作用比較

 平成26年度から令和元年度までに知事指定薬物に指定された薬物のうち,α-PHP類縁化合物である5-BPDI,3,4-Dimethoxy-α-PHP及び3,4-methylenedioxy-α-PHPの生体影響試験結果について,作用比較を行った.行動及び神経症状観察試験の結果から,3,4-methylenedioxy-α-PHPが最も強い生体作用を示す傾向にあった.また,マイクロダイアリシス試験の結果から,3,4-methylenedioxy-α-PHPは5-BPDIと3,4-Dimethoxy-α-PHPよりも有意にセロトニン(5-HT),ドパミン(DA)及びノルエピエフリン(NE)量を増加させた.したがって,3,4-methylenedioxy-α-PHPが生体に与える影響が最も強いと推測される.

危険ドラッグ,合成カチノン系,α-PHP,神経症状行動観察,マイクロダイアリシス,モノアミン

 

福島原発事故直後に東京で捕集した大気降下物中の球状酸化鉄の走査型電子顕微鏡観察

 東日本大震災に起因する福島原発事故では,多くの放射性物質が大気中に放出された.当センターでも,都内の水道水や大気降下物などに含まれる放射能を測定し,セシウムを含む放射性核種を検出した.原発事故直後に都内で捕集した放射性セシウムを含む大気降下物を,走査型電子顕微鏡を用いて観察し,粒径が9.03~1.60μmの粒子を5個発見した.エネルギー分散形X線分光分析の結果から,これらは純粋な球状酸化鉄と考えられた.結晶粒が融着していることやセシウムボールと同形の球状であることから,酸化鉄粒子の生成時には,融点近くの極めて高温まで熱せられたものと推察された.
福島原発事故,大気降下物,走査型電子顕微鏡,球状酸化鉄,セシウムボール

 

論文Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究

TG異常高値を示した精度管理試料についての原因究明

 東京都では,昭和57年度より衛生検査所を対象とした東京都衛生検査所精度管理事業を実施している.本調査において模擬血液試料を作製して配付したところ,生化学的検査項目のうち中性脂肪(TG)で,複数の参加施設から異常高値が報告されたため,原因究明を行った.調製血液に凝固成分として2種類のトロンビン製剤を添加した試料を作製し,TG濃度を測定した.その結果,2種類のトロンビン製剤のうち一方のトロンビン製剤を添加し,かつ添加量が多い場合においてTG異常高値が見られた.次に,このトロンビン製剤を添加した試料,及びこの試料を2倍以上に希釈したものについてTGを測定したところ,希釈したものでは異常高値は見られなかった.更に,このトロンビン製剤を添加した試料について,血中遊離グリセリンを消去する方法と,消去しない方法でTGを測定したところ,後者でTG異常高値が見られた.以上のことから,TG異常高値は,特定のトロンビン製剤に含まれる高濃度グリセリンによって引き起こされた可能性が示唆された.精度管理用試料を調製する際は,使用する試薬中の添加剤が測定に影響を与える可能性があるため,添加する試薬を含め入念な検討を行う必要があると考えられた.
衛生検査所,精度管理,ブラインド調査,生化学的検査,中性脂肪,グリセリン

 

東京都における水道水質検査の外部精度管理調査結果(令和元年度及び令和2年度) 

 東京都では,「東京都水道水質管理計画」に基づき,東京都健康安全研究センターが中心となり,都内の水道事業者及び厚生労働大臣の登録を受けた水道水質検査機関を対象とした外部精度管理を実施している.本稿では,令和元年度に実施した塩素酸及びホルムアルデヒドと,令和2年度に実施した亜硝酸態窒素,塩化物イオン及びクロロホルムに関する外部精度管理の結果を報告する.参加した検査機関数は,塩素酸39機関,ホルムアルデヒド35機関,亜硝酸態窒素及び塩化物イオン36機関,クロロホルム34機関であった.いずれの実施項目も,8割以上の検査機関が評価基準を満足していた.一方で,Grubbs棄却検定(危険率1%)により,塩素酸,ホルムアルデヒド及び亜硝酸態窒素でそれぞれ1機関が棄却された.その原因は,報告書及び計算書への入力ミス等であった.また,評価基準を満たさなかった検査機関数は,塩素酸6機関,ホルムアルデヒド4機関,亜硝酸態窒素2機関,クロロホルム1機関であった.その原因は,分離カラムの劣化によるピーク形状の異常,検量線用標準液の調製における不具合,器具や溶媒等の汚染,ピークの不適切な積分等であった.国が定めた検査方法(告示法)に基づく検査の実施状況において,いずれの実施項目にも,告示法に準拠していない検査機関が見られた.

 外部精度管理,水道水,塩素酸,ホルムアルデヒド,亜硝酸態窒素,塩化物イオン,クロロホルム,告示法

 

東京都における建築物飲料水水質検査業の精度管理(平成29年度~令和2年度) 

 東京都では,平成26年度から建築物飲料水水質検査業として登録を受けた営業所事業者を対象とした外部精度管理を実施し,平成29年度からは,検査精度の向上のために本精度管理の要件を満たさなかった検査機関等を対象としてフォローアップを行っている.本稿は,フォローアップを開始した平成29年度から令和2年度までの建築物飲料水水質検査業の精度管理について調査結果を報告する.実施項目は,平成29年度がクロロホルム,平成30年度が臭素酸,令和元年度が銅及びその化合物,令和2年度が鉛及びその化合物とした.参加した検査機関数は,平成29年度が20機関,平成30年度が13機関,令和元年度及び令和2年度が19機関であった.このうち,Grubbs棄却検定(危険率1%)により,平成29年度,令和元年度及び令和2年度でそれぞれ1機関が棄却された.フォローアップ参加機関の分析における問題点を分類すると,チェック不足が7件,分析方法の問題が8件,不適切な検量線が8件,標準液の調製不良が3件,機器の調整・整備不良が2件であった.また,フォローアップ実施後にアンケート調査を行い,日常の検査業務に係る改善の取組を確認することができた.フォローアップを通して,告示法やガイドラインを遵守していない検査機関が複数見られたため,参加検査機関に対して遵守の必要性を情報提供していくことが重要である.

建築物飲料水水質検査業,精度管理,クロロホルム,臭素酸,銅,鉛,告示法
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