研究年報 第68号(2017) 和文要旨

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和文要旨
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総説

東京都におけるカンピロバクター食中毒
 現在,東京都内で発生する細菌性食中毒において,カンピロバクター食中毒は最も発生件数の多い食中毒となって いる.カンピロバクター食中毒の主な発生要因は「生あるいは加熱不足による食肉の喫食」「二次汚染」「水系感染」 であるが,中でも,加熱不十分な鶏肉を原因食品とした食中毒事例が多く発生している.本稿では,当センターで検 査を実施した中で,本食中毒の特徴的な事例と考えられる「ギラン・バレー症候群患者が確認された事例」「水系感 染事例」「Campylobacter jejuni によるDiffuse outbreak」「二次汚染による事例」「Campylobacter fetusによる下痢症 事例」「旅行者下痢症の事例」を紹介する.また,カンピロバクター食中毒の検査では,感染経路や原因食品の特定 のために血清型別試験を実施している.2005年から2014年の10年間に発生した食中毒(有症苦情を含む)のうち,患 者糞便からC. jejuni が検出されたのは614事例であった.分離されたC. jejuni についてLior法による血清型別試験結果 についても併せて報告し,都内におけるカンピロバクター食中毒について概説する.
カンピロバクター食中毒,Campylobacter jejuni,Campylobacter coli,Campylobacter fetus, 生食,水系感染,二次汚染,鶏肉,血清型別, Lior血清群

 

危険ドラッグの生体影響を評価するための新たな試験方法
 東京都は,平成17年4月に「東京都薬物の濫用防止に関する条例」を施行し,これまでに多くの危険ドラッグに使 用される成分を知事指定薬物として規制してきた.東京都健康安全研究センターでは,平成17年から危険ドラッグの 生体影響試験を実施し,未規制薬物を知事指定薬物として規制するための評価資料を提供してきた.当センターで実 施している試験として,マウスを用いた行動及び神経症状観察試験,自発運動量測定,in vitro試験(ラット脳シナプ トソームを用いたモノアミン再取り込み阻害作用及び遊離促進作用,G-タンパク結合作用の測定),マイクロダイア イリシス法によるマウス中枢神経内モノアミン量の測定試験,薬物依存性を評価する試験として薬物自己投与試験, 条件付け場所嗜好性試験,薬物弁別試験について,それぞれの試験の概要と危険ドラッグの作用について解説する. しかし,これらの試験方法で評価できない薬物の流行や,実験施設の閉鎖等により,新たな試験方法の開発が必要と なったことから,合成カンナビノイドを含有するハーブ系ドラッグの生体影響を調べるための吸入ばく露試験方法を 開発した.また,ラジオアイソトープ実験施設の閉鎖により,ラット脳シナプトソームを用いた神経伝達物質モノア ミンの再取り込み阻害作用等を測定するin vitro試験を実施できなくなったことから,動物を用いず,ラジオアイソト ープも使用しない新たな試験への適用を目指してモノアミントランスポーターの安定発現細胞株を作製し,その妥当 性を確認した.これらの方法は東京都薬物情報評価委員会において,未規制の危険ドラッグを知事指定薬物として規 制するために用いられている.
危険ドラッグ,吸入ばく露,神経症状行動観察,合成カンナビノイド,マウス,神経伝達物質モノアミ ン,HEK293細胞,再取り込み阻害

 

論文Ⅰ 感染症等に関する調査研究

東京都におけるムンプスウイルスの検出状況について(2016年)
 近年,流行性耳下腺炎は4~5年ごとに全国的な流行を繰り返している.都内では2009~2010年に大きな流行が発生 したが,2015~2016年にかけて再び流行が認められた.2016年に当センターに搬入された流行性耳下腺炎及び無菌性 髄膜炎の患者検体82件からムンプスウイルス遺伝子が検出され,うち53件からムンプスウイルスが分離された.検出 されたウイルスの遺伝子型を調べたところ,配列情報が得られた80件のうち,ワクチン株と一致するB型1件を除く79 件すべてがG型であった.分子系統樹解析により71件がGw,8件がGeの各亜型に分類され,それらはさらに複数のグ ループに分かれたことから遺伝的多型が認められた.
ムンプス,ウイルス分離,遺伝子型別,Ge,Gw,分子系統樹解析,ワクチン,2016年

  

手足口病患者から検出されたエンテロウイルスの遺伝子解析(2014年度~2016年度)
 手足口病は,口腔粘膜および手や足に水疱性の発疹が現れる急性ウイルス性疾患であり,主に乳幼児を中心として 毎年夏から秋にかけて流行が見られる.東京都における2014年度~2016年度感染症発生動向調査で,手足口病を疑う 患者から採取された検体322件中245件がエンテロウイルス遺伝子陽性であった.さらに遺伝子型別検査を実施したと ころ,コクサッキーウイルスA6型,A16型,A4型などが検出された.また,検出されたウイルスの構成は各年度によ り差が認められた.

エンテロウイルス,手足口病,発生動向調査,2014年度~2016年度,CA6,CA16, CA4, EV71, 分子 系統樹解析, CODEHOP

 

国内感染事例より分離されたデングウイルスの次世代シーケンサーを用いた分子疫学解析
 2014年8月から10月にかけて,約70年ぶりにデング熱の大規模感染事例が東京で発生した.都内で発生した患者の 血清および蚊から分離されたデングウイルス(DENV)株および患者血清中のDENV遺伝子を次世代シークエンサー (NGS)で解析し,得られた塩基配列を国内感染事例の初発患者由来株の配列と比較検討した. NGSでの解析によって患者から分離された6株,蚊から分離された7株のDENV遺伝子配列は、ほぼ全長の塩基配列 が得られた.分離株と参照株では0~6塩基異なっていたが,分子系統樹上では同一クラスターを形成した.NGS解析 で得られるデータ量はウイルス量に比例し,real-time PCR法でウイルス量を予め推定することにより,NGSで効率 良く解析を行うことが出来ると考えられた.遺伝子解析により分離株で認めた変異の中には、患者血清中のDENVで は確認できない変異も存在した.今回の解析の結果,DENV全長を用いた塩基配列解析において患者由来株と代々木 公園で捕集された蚊由来株が99.9~100%一致したことから,公園に生息していた蚊が国内感染の一因となったこと が強く示唆された.

デングウイルス,蚊,次世代シーケンサー,NGS,NGS解析,血清検体

 

東京都内山間部において採取したマダニ類における病原微生物の検索(2016年度)
 重症熱性血小板減少症候群の起因ウイルス(SFTSV)は,2011年に初めて特定され,現在も西日本を中心にマダニ に咬刺され発病する例が新聞などで報道されている.また近年,他のダニ媒介性感染症についても感染地の特定はで きないものの患者報告が見られ,これらのダニ媒介性感染症についての検査の必要性は年々高まっている.今回, 2016年度に東京都内で採取されたマダニ類を用いて,リアルタイムRT-PCR法及びNested-PCR法によるSFTSV,ダニ 媒介性脳炎ウイルス(TBEV)及び紅斑熱群リケッチアなどの病原体検索を行った.その結果,58件のマダニ検体よ り,紅斑熱群リケッチア遺伝子が 23件,Borrelia japonica類似の遺伝子が1件検出され,SFTSV及びTBEVの遺伝子 は検出されなかった.これらの結果から,マダニの生息している地域に入る際は,マダニに刺咬されないような予防 策を徹底することが重要である.

重症熱性血小板減少症候群,ダニ媒介性脳炎,紅斑熱群リケッチア,ライム病,リアルタイム-RT-PCR 法,Nested- PCR法

 

東京都内インフルエンザ流行状況の把握を目的としたツイート数の有用性の検討
 Social Networking Service(SNS)上で発信される情報は多種多様な大量データ(ビッグデータ)により形成されて おり,迅速かつ容易に収集可能なことから,感染症分野での利用が期待されている.本研究ではインフルエンザ等の ウイルス性疾患に注目し,流行状況の迅速な把握を目的としたTwitter上のツイート数の有用性の検討を行った. 2016年の「インフルエンザ」等のキーワードを含むツイート数と感染症発生動向調査におけるインフルエンザ患者 報告数を比較したところ,ツイート数のピークを検知した時期は患者報告数のピークを検知した時期とほぼ一致した が,ヘルパンギーナ,手足口病については,インフルエンザと比べ,報道の影響が強く反映しており,ツイート数の 増加は感染者の増加とは必ずしも連動しない結果となった.感染症の流行把握には,ツイート数だけでなく,感染症 発生動向調査の患者報告数などの他のデータも併せて解析していく必要があり,流行の早期探知についても引き続き 解析を行っていく必要性があると考えられた.

インフルエンザ,サーベイランス,ビッグデータ,Twitter,リアルタイム,早期探知

 

東京都で発生した食中毒疑い事例における拭き取り検査のノロウイルス検出状況(2010年11月~2015年3月)

 東京都では2010 年11 月から,ノロウイルス(NoV)食中毒疑い事例発生時に施設中のNoV 汚染を検出するための 拭き取り検査を行政検査として実施している.過去5 シーズンのNoV 食中毒疑い事例発生時における拭き取り検査の 有用性について検証した結果,リアルタイムPCR 法により検査を行った拭き取り検体1,700 件のうち,陽性は103 件(6.1%)であった.検出率が高かった拭き取り箇所はトイレおよびその周辺であり(79 検体,76.7%),それ以外の 箇所では,厨房やカーペット等,疫学情報によりNoV 汚染が疑われた箇所からNoV が検出された.食品検体を対象 としたNoV 検査は3,343 検体のうち陽性は61 件(1.8%)であり,拭き取り検査での陽性率の方が高率であった.ま た,臨床検体と拭き取り検体の遺伝子型が合致した事例は36 件であった.以上のことから,NoV 食中毒疑い事例発 生時において,拭き取り箇所の選定や適切な疫学情報とのすり合わせにより,拭き取り検査の結果が原因施設や感染 経路を特定するための有用な判断材料となることが示唆された.
 

 

論文Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

危険ドラッグから検出された薬物に関する理化学試験結果(平成28年度)
 平成28年度に行った市販危険ドラッグ製品中に検出した薬物の理化学試験結果を報告する.薬物の理化学試験は, 主にフォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフィー(LC/PDA),電子イオン化質量分析計付ガスクロマ トグラフィー(GC/EI-MS)を用い,必要に応じて高分解能精密質量測定法(HR-MS),核磁気共鳴スペクトル測定 法(NMR)及び単結晶X線構造解析法により構造解析を行った.危険ドラッグ108製品のうち,48製品から薬物を検 出した.新たに検出した薬物は6種であり,構造解析の結果,4-Chloroethcathinone,4-Chloro-α-PVP,2-FPM,3FPhenetrazine, 4-Fluoromethylphenidate及び2-Fluorodeschloroketamineであった.また,規制薬物では麻薬を1種,指定薬 物を13種,医薬品成分を2種検出した.
危険ドラッグ,指定薬物,LC/PDA,GC/EI-MS

 

貼付剤の放出試験
-放出性に影響を与える要因について-
 医薬品一斉監視指導において,当センターに搬入された貼付剤には,パドルオーバーディスク法でトランスダーマル サンドイッチを使用する放出試験法が承認書に規定されていた.しかし,使用する器具の詳細は記載されておらず,米 国薬局方を参考に市販品を購入し試験を実施したところ,放出率は規格を下回った. 製造販売業者(メーカー)に試験方法の詳細を確認すると,実際に使用していたトランスダーマルサンドイッチのス クリーンは市販品とメッシュ数が異なっていた.そのため,メーカーで使用しているスクリーンを用いて,再度試験を 実施したところ,放出率が上昇し,規格に適合した. このことから,スクリーンのメッシュ数の違いによる放出性への影響を確かめた.その結果,メッシュ数の違いによ る放出性との相関は確認できなかったが,スクリーンの規格,器具の設置方法,試料投入時の気泡の除去方法等,様々 な要因が放出性に影響を与える可能性があることがわかった.試験結果に影響を与える要因を少なくするために,承認 書には試験方法の詳細な情報を記載する必要がある.
貼付剤,放出性,パドルオーバーディスク法,トランスダーマルサンドイッチ,スクリーン,メッシュ数

 

化粧品における配合成分の検査結果(平成27年度)
 平成27年度に搬入された80製品について,ホルマリンや防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分の製 品への表示状況並びに検査結果をまとめた.配合禁止成分であるホルマリンは,ホルムアルデヒドとして検査し,ホ ルムアルデヒドを検出した製品は1製品であった.防腐剤については,パラオキシ安息香酸エステル類やフェノキシ エタノールの検出頻度が高かった.化粧品基準に定められた最大配合量を超過した濃度の防腐剤を検出した製品は1 製品であった.また,表示されていない防腐剤を検出した製品は6製品であった.紫外線吸収剤では,パラメトキシ ケイ皮酸2-エチルヘキシルやヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウムの検出頻度が高かった.最大 配合量を超過した濃度の紫外線吸収剤を検出した製品はなく,表示されていない紫外線吸収剤を検出した製品もなか った.タール色素で検出頻度の高いものは黄色4号であった.承認化粧品成分については,酢酸dl-α-トコフェロールの 検出頻度が高く,最大配合量を超過した濃度の承認化粧品成分を検出した製品はなかった.
化粧品,ホルマリン,ホルムアルデヒド,防腐剤,紫外線吸収剤,タール色素,承認化粧品成分

  

論文Ⅲ 食品等に関する調査研究

質量分析計を用いた食品由来微生物同定の検討
 食品から分離された細菌及び酵母を新しい菌種同定法である質量分析計(Matrix-assisted laser desorption ionization time of flight mass spectrometry : MALDI-TOF MS)を用いて同定し,生化学的性状試験法又はリボソームDNAによる塩 基配列解析法による結果と比較した.前処理法はセルスメア法を用い,ビブリオ属菌や酵母については他の方法を検 討した.ビブリオ属菌ではエタノール・ギ酸抽出法の同定率が高く,酵母ではより簡便なギ酸法がエタノール・ギ酸 抽出法と同等の同定精度を示した.細菌275株はMALDI-TOF MS法により27属59菌種に同定され,従来法との一致率 は属レベルで93.8%,種レベルで54.9%であった.種レベルの一致率が低かった要因として,供試菌株の49%を占めた Enterobacter属菌の菌種鑑別が,いずれの手法でも困難であり菌種が一致しなかったことが考えられた.酵母106株は MALDI-TOF MS法により11属18菌種に同定され,84.9%が従来法と種レベルで一致した.MALDI-TOF MSを利用した 食品由来微生物の同定は,従来法と同等の精度を有し迅速かつ簡易に実施可能であった.同定率の向上又は同定精度 をさらに高めるためにはインハウスライブラリーの充実を図る必要があると考えられた.
MALDI-TOF MS,菌種同定,食品分離株,Enterobacter属菌

 

マルチプレックスPCRによるトリカブト,ニリンソウ及びモミジガサの鑑別
 迅速で経済的にトリカブト,ニリンソウ及びモミジガサを鑑別するためにマルチプレックスPCR法を開発した.新 規に設計したトリカブト,ニリンソウ及びモミジガサ用のプライマー対を使用することによって、これら3種植物を 鑑別することができた.開発したマルチプレックスPCR法について試料を加熱することによる影響を調べたところ, 沸騰水中で30分間加熱処理を行った試料からも3種植物を検出することができた.また,10倍希釈系列で調整した DNAを鋳型にして検出感度を調べたところ10の6乗倍まで希釈した鋳型(2.5 fg)からも特異的なPCR増幅産物が検出 された.収集したトリカブト,ニリンソウ及びモミジガサ試料について我々が開発したマルチプレックスPCR法を用 いて調査したところトリカブトのDNAはトリカブト11試料から検出された.一方,ニリンソウ5試料,モミジガサ4試 料,テコバモミジガサ1試料及び13種の野菜からは検出されなかった.同様に,ニリンソウのDNAはニンリンソウ5試 料のみから検出された.また、モミジガサのDNAはモミジガサ4試料とテバコモミジガサ1試料のみで検出された.こ れらの結果は開発したマルチプレックスPCR法がトリカブト,ニリンソウ及びモミジガサを鑑別するための有用なツ ールになり得ることを示している.
トリカブト,ニリンソウ,モミジガサ,鑑別,マルチプレックスPCR

 

LC-MS/MSを用いた食品中着色料の確認法
 食品中の着色料は通常,TLCやHPLCを組み合わせて検査を実施しているが,TLCではRf値や色調,HPLCでは保持時間 が近似する着色料が複数存在するため同定が困難なことがある.LC-MS/MSによる方法は,選択性が高く,同じ質量数の 物質でもフラグメンテーションを起こして異なるプロダクトイオンを生じる場合があるため,多くの異性体が存在する着 色料の確認法として有用である.そこで,LC-MS/MSを用いて,着色料(食用赤色2号,食用赤色3号,食用赤色40号,食 用赤色102号,食用赤色104号,食用赤色105号,食用赤色106号,食用青色1号,食用青色2号,食用黄色4号,食用黄色5号, 食用緑色3号,オレンジG,ファーストレッドE,アゾルビン,パテントブルーVF)の確認法について検討を行ったところ, プロダクトイオンスキャンおよび選択反応モニタリング(SRM)による分析が可能となった.さらにコアシェルカラム (CAPCELLPAK CORE C18)を用いたことにより,大幅に迅速化でき,従来の分析時間を半分程度にすることができた.

LC-MS/MS,合成着色料,食品

 

 衛生規範等に基づいた食品の細菌学的検査成績(平成26年度~平成28年度)
 平成26年度~平成28年度の3年間に当センターに搬入された,各種食品1,920件について細菌学的検査を実施した. 検査項目は国の衛生指導指針である「衛生規範」および東京都が一斉収去検査時に指導対象としている,細菌数,大 腸菌群,大腸菌,黄色ブドウ球菌,サルモネラ属菌,腸炎ビブリオ,腸管出血性大腸菌(O157,O26,O103,O111, O121,O145)である. 衛生規範あるいは都の指導対象となった食品は,「加熱済そうざい・弁当」において7/772検体(0.9%),「未加熱 そうざい」16/300検体(5.3%),「調理パン」3/77検体(3.9%),「洋生菓子」16/315検体(5.1%),「和生菓子」 6/261検体(2.3%),「豆腐」10/123検体(8.1%)であった.「生めん・ゆでめん類」25検体および「一夜漬・浅漬」 47検体では全て良好であった. これらは,生野菜や果物など未加熱の食材が含まれるため原料に由来する細菌の汚 染,あるいは不十分な衛生管理下にある製造工程に由来する細菌の汚染が原因であると推測された. 平成24年度~平成25年度に行った検査と比較すると,「加熱済そうざい」,「未加熱そうざい」,「洋生菓子」, 「調理パン」においては検出率が減少していたが,「豆腐」,「和生菓子」については検出率が高かった.
各種食品,細菌学的検査,衛生規範

 

食品中の放射性物質の検査結果(平成28年度)
 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を受け,東京都では,平成23 年度から都内で流通している食品の放射性物質検査を実施している.平成28年度は,国産食品1,100検体及び輸入食品 90検体,計1,190検体について放射性セシウム及び放射性ヨウ素の検査を行った.検査には,ゲルマニウム半導体核種 分析装置及びヨウ化ナトリウム(タリウム)シンチレーションスペクトロメーターを用いて測定した.その結果,国 産食品では乾燥シイタケ1検体から,また,輸入食品ではキノコ類3検体及び清涼飲料水1検体から放射性セシウム (Cs-137)が検出されたが,いずれも基準値未満であった.
放射性物質,核種分析,放射性セシウム,ゲルマニウム半導体核種分析装置,ヨウ化ナトリウム(タリ ウム)シンチレーションスペクトロメーター,食品

 

食品中の特定原材料(卵,乳,小麦,そば)の検査結果(平成27年度~平成28年度)
 平成27年4月から平成29年3月に当センターで実施した,加工食品中の卵,乳,小麦,そばを対象とした特定原材料 検査結果を報告する.東京都内で製造または流通していた食品について,卵を対象として32検体を検査した結果,1 検体が陽性であった.小麦を対象として22検体を検査した結果,1検体が陽性であった.そばを対象として17検体を 検査した結果,1検体が陽性であった.一方,乳を対象として34検体を検査した結果,全て陰性であった.スクリー ニング検査陽性であった上記3検体について、卵を対象とした検体はウエスタンブロット法による確認検査,小麦お よびそばを対象とした検体はPCR法による確認検査を行った結果,いずれも陽性であった.これらの検体には,原材 料表示に検査対象となる原材料の記載は無かった.
食物アレルギー,特定原材料,卵,乳,小麦,そば, ELISA法,ウェスタンブロット法,PCR法

 

 化学物質及び自然毒による食中毒及び有症苦情事件例(平成28年)
 平成28年に東京都内で発生した化学物質及び自然毒による食中毒及び有症苦情事例のうち,当センターで検査した ものは32件であった.その内訳は,ヒスタミンによるものが15件,フグ毒によるものが3件,貝毒などマリントキシン によるものが4件,植物性自然毒によるものが4件,キノコによるものが2件,その他の化学物質によるものが4件であ った.本報では,今後の食中毒検査の参考とするために,原因物質の異なる5事例について報告する.ヒスタミンによ る食中毒事例は,いわしのつみれを喫食し,発疹や顔面の紅潮,頭痛などの症状を呈した事例で,ヒスタミンの定量 を行った.その結果,残品からヒスタミンを検出し,ヒスタミンを含有した食品を喫食したことによる食中毒と断定 された.フグによる有症苦情事例は,フグの刺身等を喫食して口唇やほほの痺れなどを呈した事例で,フグ毒につい てマウス単位法により分析を行ったがフグ毒は検出されなかった.ヒガンバナ科植物による有症苦情事例は,植物の 葉を喫食して吐き気や嘔吐,下痢などの症状を呈した事例で,植物鑑定と有毒成分であるリコリンの分析を行った. その結果,残品はヒガンバナ科の有毒植物であることが判明した.ナス科植物による食中毒事例は,自宅で採取した 植物を喫食して意識不明,散瞳などの症状を呈した事例で,植物鑑定と有毒成分であるトロパンアルカロイドの分析 を行った.その結果,ナス科チョウセンアサガオ属の植物であることが判明した.ニシバイによる食中毒事例は,自 宅で調理したニシバイを喫食して手や口の痺れ,悪寒,下痢,発疹,運動障害等の症状を呈した事例で,鑑定と有毒 成分であるテトラミンの分析を行った.その結果,エゾバイ科チヂミエゾボラであることが判明した.
化学性食中毒,ヒスタミン,イワシ,ブリ,フグ,スイセン,ヒガンバナ科植物,リコリン,チョウセ ンアサガオ,ナス科植物,ニシバイ,サザエ,テトラミン

 

 食品の苦情事例(平成28年度)

 平成28年度に検査を実施した食品苦情に関わる39事例の中から,原因が明らかになったものや今後の異物検査の参 考となるものなど6事例について報告する.(1)目玉焼きに混入していた淡黄色ひも状物は,FT-IR分析と簡易化学分析 及び種の鑑別試験を行った結果,卵の卵白が固まったものであると推察された.(2)タイカレー缶中の橙色ビニール様 物は,光学顕微鏡観察とFT-IR分析の結果,カレーの原材料の一つである唐辛子と推察された.(3)学校給食で提供さ れた紙パック入り牛乳中の褐色物は,光学顕微鏡観察とFT-IR分析の結果,紙パック由来の紙粉が焦げたものである と推察された.(4)和風ツナパンから出てきた緑色ビニール様薄片は,FT-IR分析と熱分解GC分析の結果,ツナサラダ の包材と推察された.(5) おにぎり中の黒色糸状物は,光学顕微鏡観察とFT-IR分析及び種の鑑別試験を行った結果, 原材料であるスケトウダラの卵膜の筋と推察された. (6) ヨーグルト中の白色糸状物は,光学顕微鏡観察やFT-IR分 析及び種の鑑別試験を行った結果,バショウ科バショウ属の植物であると推察された.

食品苦情,異物混入,目玉焼き,卵白,缶詰,唐辛子,牛乳,明太子,スケトウダラ,バナナ

 

大豆製品中のジメチルイエロー及びジエチルイエローの超高速LC-PDAによる分析
 大豆製品中のジメチルイエロー,ジエチルイエローを含む油溶性色素10成分を超高速型LC-PDAで分析するために, 国産の大豆製品にこれらの色素を添加し,既存の油溶性色素を含む色素分析法を準用して前処理を行い,定量する方 法を検討した.分析カラムにAcquity UPLC CSH Phenyl-Hexylを用いて,添加した10成分について良好な分離を得るこ とができた.この方法を用いて台湾産・中国産の大豆製品6製品を購入して分析したところ,いずれの製品からもジメ チルイエロー及びジエチルイエローは検出されなかった.
油溶性色素,ジメチルイエロー,ジエチルイエロー,大豆製品,超高速型LC-PDA

 

 ヨウ素酸カリウム・デンプン試験紙による食品中の亜硫酸検出法の改良
 漂白剤として多くの食品に使用される二酸化硫黄および亜硫酸塩類の検査法のひとつであるヨウ素酸カリウム・デ ンプン試験紙による定性法は,簡便で感度が良好であるが,低濃度において呈色が始まる時間や陽性・陰性の検出結 果にばらつきがある.そこで従来の定性法にマグネティックスターラーによる撹拌操作を加え,試験紙にバレイショ デンプンを用いたところ,従来法の検出下限値10 μg(SO2として)の1/2に相当する5 μgの検出が可能になった.また, 当研究科での成績書記載の定量下限値と比べて検出感度が高く,スクリーニング法として有用であると考えられた.
漂白剤,二酸化硫黄,亜硫酸塩,ヨウ素酸カリウム・デンプン

 

ソルビン酸使用食品における水蒸気蒸留法と透析法との定量値の比較ならびに冷蔵下における混合標準溶液の保存安定性
 食品中の保存料の分析における前処理方法には水蒸気蒸留法、直接抽出法および透析法が用いられている.当セン ターでは透析法を日常の分析法として用いており,既報では9種類の保存料について水蒸気蒸留法および透析法で添 加回収試験を行い,透析法の方がおおむね良好な回収率を得られることを報告した.そこで今回は,ソルビン酸使用 食品(漬物,ソーセージ,チーズ,菓子パン,果実酒,くん製いか,焼き竹輪,ニョッキ)について、前処理に水蒸 気蒸留法と透析法を用いた場合のソルビン酸の定量値を比較した.その結果,ほとんどの食品において透析法の定量 値が有意に高かった.これは既報の添加回収試験の結果とも一致した.また,安息香酸とソルビン酸の混合標準溶液 について経時的な保存安定性を検討したところ,少なくとも1年間安定で使用できることが示唆された.
保存料,ソルビン酸,水蒸気蒸留法,透析法,LC,標準溶液,安定性,食品添加物

 

赤色102号を使用したシロップから付随色素を検出した事例について
 パキスタン産フルーツミックスシロップから原材料表示に記載のあった赤色102号以外に4種類の赤色色素を検出し た.薄層クロマトグラフィー及びHPLCを用いて分析した結果,これらの赤色色素はファストレッドE,赤色40号, 赤色2号及びポンソー6Rであることがわかった.ファストレッドE,赤色2号及びポンソー6Rは赤色102号の付随色素 として知られている一方,添加された可能性も考えられた.そこで,HPLCにより定量値を求めたところ,赤色102 号に対するファストレッドE,赤色2号及びポンソー6Rの比率はいずれも1%未満と少ない上,3種類が同時に検出さ れていることから,赤色102号の付随色素であることが推測された.一方,赤色40号については,赤色102号の付随色 素としての報告もなく,化学構造からも生成されることは考えにくいため,キャリーオーバーか,もしくは添加され た可能性が高いと推測された.
赤色102号,赤色2号,ポンソー6R,ファストレッドE,付随色素,薄層クロマトグラフ,HPLC

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(平成28年度)
-果実類-
 平成28 年4 月から平成29 年3 月に都内に流通していた輸入農産物のうち,果実類20 種157 作物について残留農 薬実態調査を行った.その結果,18 種107 作物(検出率68%)から殺虫剤,殺菌剤,除草剤合わせて59 種類の農薬 が痕跡(0.01 ppm 未満)~3.0 ppm 検出された.検出農薬の内訳は,有機リン系殺虫剤10 種類(アセフェート,ク ロルピリホス他),カルバメート系殺虫剤2 種類(カルバリル,メトキシフェノジド),有機塩素系農薬5 種類(キャ プタン,クロロタロニル他),ピレスロイド系殺虫剤7 種類(ビフェントリン,シフルトリン他),含窒素系及びその 他の殺虫剤8 種類(アセタミプリド,ブロモプロピレート他),含窒素系及びその他の殺菌剤24 種類(アゾキシスト ロビン,ボスカリド他),含窒素系及びその他の除草剤3 種類(ジクロベニル,ペンディメタリン,シマジン)であ った.なお,食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えるものはなかった.

残留農薬,輸入農産物,果実,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,残留基準値,一律基準値, 一日摂取許容量

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(平成28年度)
-野菜類及びその他-
 平成28年4月から平成29年3月に東京都内に流通していた輸入農産物の野菜,きのこ類,穀類及び豆類の39種193作物に ついて残留実態調査を行った.その結果,22種77作物(検出率40%)から,残留農薬が痕跡(0.01 ppm未満)~0.45 ppm 検出された.検出農薬は,殺虫剤,殺菌剤,除草剤及び共力剤の合わせて45種類(有機リン系農薬5種類,有機塩素系農 薬6種類,カルバメート系農薬3種類,ピレスロイド系農薬5種類,含窒素系農薬及びその他の農薬26種類)であった. このうち,ベルギー産チコリ1作物からメタラキシルが一律基準値0.01 ppmを超過し0.02 ppm検出され,食品衛生法違反と なった.本作物における残留量は,メタラキシルに設定された一日摂取許容量(ADI)の約1/1160であった.
残留農薬,輸入農産物,野菜類,きのこ類,穀類,豆類,一律基準値,一日摂取許容量

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査(平成28年度)
 平成28年4月から平成29年3月に東京都内に流通していた国内産農産物22種80作物について残留農薬実態調査を行っ た.その結果17種50作物(検出率63%)から殺虫剤及び殺菌剤合わせて39種類の農薬(アセフェート,アセタミプリ ド等)が痕跡(0.01 ppm未満)~0.62 ppm検出された.検出された農薬の内訳は,有機リン系農薬4種類,有機塩素系 農薬4種類,カルバメート系農薬3種類,ピレスロイド系農薬6種類,含窒素系及びその他の農薬22種類であった.食 品衛生法の残留農薬基準値及び一律基準値を超えたものは無かった.
残留農薬,国内産農産物,野菜,果実,殺虫剤,殺菌剤,残留基準値,一律基準値

 

輸入農産物中の残留臭素実態調査(平成24年度~平成28年度)
 平成24年4月から平成29年3月の5年間に都内で流通していた輸入農産物96種884作物について,残留臭素の実態調 査を行った.その結果,33種118作物から残留臭素が検出された.穀類および穀類加工品では47作物中29作物から1 ~40 ppmの範囲で検出された.果実では696作物中68作物から1~19 ppmの範囲で,果実加工品では111作物中11作 物から1~25 ppmの範囲で,豆類では30作物中10作物から1~3 ppmの範囲で検出された.今回の調査で40 ppmと最 も高い値であったあわの残留基準値は50 ppmであり,その他いずれの作物においても残留量が食品衛生法の残留基準 値を越えるものはなかった.

輸入農産物,残留臭素,臭化メチル,くん蒸剤,電子捕獲検出器付ガスクロマトグラフ

 

論文Ⅳ 生活環境に関する調査研究

ヘアケア製品由来の環状シロキサンが室内に及ぼす影響
 筆者らが実施した室内空気調査で,デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)が,他の化学物質よりも高濃度に検 出された住宅の事例があり,発生源はヘアケア製品と推定された.そこで,シャンプー及びコンディショナー中のオ クタメチルシクロテトラシロキサン(D4)及びD5の分析法を確立し,市販品中のD4及びD5含有量を調査した.次に 住宅7軒で,洗髪前後の室内空気中D5濃度を調査し,1名の被験者についてD5の個人曝露量を測定した.シャンプー及 びコンディショナー中のD4及びD5分析法検討では,ヘッドスペース-GC/MS法が適当であった.シャンプーとコン ディショナーをペアで13銘柄調べたところ,コンディショナー4製品からD5が検出され,含有量は0.81~4.4%であっ た.住宅調査では,洗髪後の室内空気中D5濃度は,D5含有コンディショナー使用住宅で50.9~266 μg/m3,D5非含有 コンディショナー使用住宅で0.51~4.2 μg/m3と,D5含有製品を使用していた住宅の方がD5濃度が高かった.洗髪前後 のD5濃度の比(洗髪後/洗髪前)は,D5含有製品使用住宅で2.7~156倍,D5非含有製品使用住宅で0.7~3.8倍であった. 個人曝露量は,同一人物がD5含有及びD5非含有のコンディショナーを使用したところ,D5含有製品使用時は972 μg/day,D5非含有製品使用時は36.0 μg/dayと,27倍の差がみられた.
環状シロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,シャン プー,コンディショナー,リンス,室内空気

 

東京湾産魚介類に残留するダイオキシン類調査

 東京都では,東京湾産魚介類に残留するダイオキシン類濃度を継続的に調査している.本報告は平成11年度から平 成27年度までの調査結果である.スズキ,マアナゴはダイオキシン類濃度が経年的に減少傾向が見られたが,ボラ, マコガレイ,アサリは濃度に変化は見られなかった.魚類では,ダイオキシン類の濃度組成比はほとんどコプラナー ポリ塩化ビフェニル(Co-PCB)濃度が占めており,また残留濃度を毒性等量(TEQ)濃度に換算しても,Co-PCBが 濃度組成の7割以上を占めていた.一方アサリは,ポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD),ポリ塩化ジベンゾフ ラン(PCDF)の濃度組成比が魚類に比べ高く,TEQ濃度ではPCDD+PCDF濃度の方がCo-PCB濃度よりも高い調査年 度もあった.また,魚類では採取場所によるダイオキシン類濃度に差は見られなかったが,アサリは,三枚洲より多 摩川河口部の方が高い傾向を示した.ダイオキシン類は難分解性であり,環境中に長期間残留する.都民の健康を守 るため,東京湾で捕獲される魚介類について,今後も引き続きダイオキシン類濃度を調査,監視する必要がある.

ダイオキシン類,東京湾,ボラ,スズキ,マアナゴ,マコガレイ,アサリ

 

居住環境における空気中化学物質濃度と発生源について
 居住環境の実態を調査するため,2016年10月~11月に,都内の住宅10軒において室内空気中化学物質濃度を測定し た.測定対象物質は,アルデヒド類,揮発性有機化合物類及び有機酸類,合計77物質とした.調査の結果,厚生労働 省が設定する空気中化学物質濃度の指針値を超える物質が検出された住宅はなく,現在,指針値設定が検討中のベン ゼンのみ指針値相当濃度(1.7 μg/m3)を超えた.指針値が設定されていない物質については,酢酸が高濃度で検出さ れる割合が高く,18室中14室で室内濃度が最も高く,他4室も2番目に高かった.その他,ギ酸,トリデカン,プロピ レングリコールモノメチルエーテル,2-プロパノール,デカメチルシクロペンタシロキサン及びリモネンが比較的高 濃度で検出される住宅があった.これらの発生源を推測した結果,酢酸及びギ酸は酢酸ビニル樹脂系接着剤,その他 は,家庭用品から発生した可能性が考えられた.総揮発性有機化合物(TVOC)濃度については,暫定目標値(400 μg/m3)を超えたのは,18室中2室であったが,検出された全物質の合計値を算出すると,18室中13室が400 μg/m3を超 過した.TVOCは空気汚染の指標として設定され,また,住宅においては特に酢酸が高濃度で検出されることを考慮 すると,TVOCについては,アルデヒド類や有機酸類を含めた化学物質を指標とすることにより,空気汚染の実態を より正確に把握できると考えられた.
室内空気,発生源,揮発性有機化合物,酢酸

 

都内新築ビルにおける室内空気中の化学物質の実態調査(第二報) 
 未規制物質を含む化学物質による室内空気汚染の現状を把握するため,都内新築ビルにおいて,アルデヒド類,有 機酸類及び揮発性有機化合物(VOC)計76物質を対象に,2年間にわたり空気質調査を行った.調査の結果,シック ハウス症候群の原因物質とされるホルムアルデヒドをはじめ,厚生労働省から指針値が示された8物質はすべて検出 されたが,いずれも低い濃度で推移しており,調査期間中,指針値を超過する物質は無かった.この他に,未規制物 質が45物質検出され,その中でも酢酸の検出率は調査期間中100%であった.酢酸は床材が畳の部屋で濃度が高く(最 大濃度:190 μg/m3),2-エチル-1-ヘキサノールは床材がカーペット及びビニルシートの部屋で濃度が高く(最大濃度 :269 μg/m3),室内で用いられた建材が発生源であると推察された.多くの物質は夏季に濃度が上昇し,冬季に減少 する傾向が見られた.
室内空気,化学物質汚染,アルデヒド類,有機酸,揮発性有機化合物(VOC),未規制物質

 

特定建築物の給湯水における臭素酸,塩素酸及び陰イオン類等の実態調査
 東京都内に所在する中央式給湯設備を持つ3か所の特定建築物(Aビル,Bビル及びCビル)の給湯水の臭素酸濃 度(基準値:0.01 mg/L)が高濃度で検出したため,経時的な採水を行い,季節変動による影響を調査した.給湯水 中の臭素酸濃度は,Aビルで0.006~0.019 mg/L,Bビルで0.012~0.028 mg/L,Cビルで0.002~0.017 mg/Lであった. 給湯水の臭素酸が高濃度で検出する原因として,水質検査が行われる夏期は,貯湯槽に給湯水が滞留して臭素酸が 上昇すると想定したが,調査の結果,一年を通して高濃度で推移していることが判明した.その他の調査項目では, 塩素酸(基準値0.6 mg/L)が,高濃度(最高濃度:0.45 mg/L)で検出していた.給湯水の臭素酸や塩素酸が高濃度 で検出している原因として,水温による影響については,明確な相関は認められなかった.また,貯湯槽内での給 湯水の蒸発による濃縮の可能性については,硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素,塩化物イオンの濃度に,補給水に比べ て給湯水での上昇が認められなかったことから,臭素酸や塩素酸の濃度の上昇は濃縮ではなく,貯湯槽内で生成し ていると推測できるが,要因は不明である.Cビルの給湯水の採水前に,貯湯槽の洗浄を行ったところ,臭素酸が 0.002~0.003 mg/Lまで低下した.Aビルの給湯水中の臭素酸及び塩素酸について,ブローによる影響を調査したと ころ,臭素酸で最大60%,塩素酸で最大100%の低減効果が認められた.
特定建築物,給湯水,中央式給湯設備,臭素酸,塩素酸,陰イオン

   

論文Ⅴ 生体影響に関する調査研究

ネオニコチノイド系農薬ジノテフランのCD-1マウスによる経口毒性試験

 ネオニコチノイド系農薬ジノテフランは,稲,野菜,果実等に使用されるほか,動物用医薬品としても使用される. ジノテフランは近年急激に出荷量が増加しているが,これまで哺乳類におけるジノテフランの行動観察の報告は無く, 安全性に関しても公表された知見は極めて少ない.今回,マウスを用いたジノテフランの反復投与試験を実施し,併 せて行動観察を行った. 雌雄のCD-1マウス各40匹を5週齢でそれぞれ4群に分け,0(対照群),22,44及び88 mg/kg体重のジノテフランを, 10 mL/kg体重の投与容量で,1日1回,週5日間,4週間にわたり,体重測定後胃ゾンデを用いて強制経口投与した.投 与2週間後に多様式T型水迷路試験を,投与3週間後に探査行動の運動活性を測定した.4週間の投与期間終了後,イソ フルラン麻酔下で採血と殺し,血液・生化学及び病理学的検索を行った. 雌雄のマウスとも全群で死亡例はなく,体重及び摂餌量にジノテフラン投与の影響はみられなかった.血液検索で 雌雄の投与群にWBCの減少傾向が認められた.また,雌雄の投与群で好中球数の用量相関性の減少がみられ,雌の高 濃度群では有意な減少であった.生化学的検索,病理学的検索及び行動観察では投与の影響はみられなかった.これ まで,哺乳動物の免疫系に及ぼすジノテフランの影響は報告されていないが,WBC及び好中球数の減少はジノテフラ ンの免疫系への影響を示唆している.

ジノテフラン,ネオニコチノイド,殺虫剤,経口毒性試験,CD-1マウス

 

NNKイニシエートによるA/Jマウスの肺における磁性マグネタイト気管内投与の影響
 磁性ナノ粒子マグネタイトは,医療あるいは産業分野などで様々な用途に利用されているが,安全性に関する情報 は限られ,早急な安全性評価が求められる.マグネタイトのin vitro 及び in vivoにおける遺伝毒性を考慮すると,そ の発がん性の評価は重要な課題である.今回,マグネタイトの肺に対する発がん性を検討する目的で,A/Jマウスを用 いて,4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone (NNK)イニシエートによる中期発がん性試験を実施した. 7週齢のA/JJmsSlc雌マウス100匹を4群に分け,生食あるいはNNK 2 mg/マウスを腹腔内投与し,その後マグネタイト を0あるいは5.0 mg/kg体重で4週間毎に1回,気管内投与した.実験開始から16週間後に,イソフルラン麻酔下でと殺 解剖し病理学的に検索した.その結果,肉眼観察で,NNKを投与したマウスの肺に,多発性に結節あるいは白斑が認 められ,組織学的検索で肺胞上皮の過形成あるいは気管/肺胞上皮腺腫が高い確率で認められた.肺胞上皮の過形成及 び腺腫の発現率と個体当たりの腫瘍数にマグネタイト併用投与の影響は認められず,本試験条件下で,マグネタイト は肺に対する発がん性を有しないことが明らかとなった.

マグネタイト,Fe3O4,ナノ粒子,A/Jマウス,肺,気管内投与,NNK

 

論文Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究

日本における死因別死亡数の動向予測
 東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システムを用いて,総死亡,脳血管疾患,虚血性心疾患, 全がんなど14種の死因による死亡特性を分析した.その上で本システムを用いて,これらの疾病による日本の死亡者 数を2030年まで予測した.予測結果は次のとおりである.総死亡:男子58万人,女子60万人.脳血管疾患:男子3.1万人, 女子3.3万人.虚血性心疾患:男子3万人,女子1.8万人.肺炎:男子5.4万人,女子4.3万人.全がん:男子19万人,女子16万 人.胃がん:男子1.9万人,女子1.1万人.結腸がん:男子2万人,女子2万人.肝臓がん:男子8.8千人,女子4.5千人.膵臓 がん:男子1.9万人,女子2万人.肺がん:男子5万人,女子2.4万人.白血病:男子4.6千人,女子3.5千人.前立腺がん:男子 1.2万人.乳がん:女子1.6万人.子宮がん:女子7.5千人.
人口動態統計,世代マップ,総死亡,脳血管疾患,虚血性心疾患,全がん,肺がん,子宮がん,乳がん

 

死因統計分類の変更が人口動態統計に及ぼす影響について
 東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システムを用いて,死因統計分類の変更や死亡診断書の 改訂が人口動態統計に及ぼす影響について考察した.日本で使用する国際疾病分類(ICD)が第8版から第9版へ変更 された1979年と,第9版から第10版への変更のあった1995年に,糖尿病による死亡者数の大幅な変動がみられる.こ のように使用するICDの変更に起因する死亡数の変動は,腎疾患において日本のみならずアメリカ,フランス,オラ ンダ,スウェーデンなどでも観測される.日本では,死亡診断書の改訂が1993年に行われた.この改訂により心不全 による死亡者数が約30%も減少した.ICDや死亡診断書の改訂を行う際には,人口動態統計に与える影響を十分考慮 して改訂を行う必要があろう.
ICD,人口動態統計,世代マップ,糖尿病,腎不全,老衰,心不全,脳血管疾患,虚血性心疾患,悪性 新生物,骨腫瘍

 

論文Ⅶ 精度管理に関する調査研究

東京都水道水質外部精度管理調査結果(平成28年度)
-フッ素及びトリクロロエチレン-
 東京都では「東京都水道水質管理計画」に基づき,東京都健康安全研究センターが中心となり,水道事業者及び厚生 労働大臣の登録を受けた水道水質検査機関を対象とした外部精度管理を実施している.本稿においては,平成28 年度 に実施したフッ素及びトリクロロエチレンに関する外部精度管理の概要を報告する.フッ素では,参加40 機関のうち 2 機関が,z スコアが|z|≧3 かつ誤差率が±10%を超えたことにより,評価基準を満たさなかった.その原因は,ピーク の拡大率が不十分であったこと,テーリングの発生による積分範囲の設定が不適切であったことであった.一方,トリ クロロエチレンでは,参加38 機関のうち1 機関がGrubbs の棄却検定で棄却され,3 機関が,z スコアが|z|≧3 かつ誤差 率が±20%を超えたことにより,評価基準を満たさなかった.Grubbs 棄却検定で棄却された原因は特定されなかった が,精度管理調査以前にあった機器の不具合,担当者の思い込みによるミス,試料混和の不十分さ等による可能性があ った.評価基準を満たさなかった原因は,配付試料の瓶を空隙の多い状態で数時間放置したことによりトリクロロエチ レンが揮散したこと,機器の不具合等,標準液の面積値が通常の検査と比較してやや低かったことであった.

外部精度管理,フッ素,トリクロロエチレン,告示法

 

東京都建築物飲料水水質検査業外部精度管理調査結果(平成26年度~平成28年度)
 東京都では,平成26年度より「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」に基づく建築物飲料水水質検査業 登録事業者を対象に,外部精度管理事業を実施している.平成26年度は塩化物イオン,平成27年度は有機物(全有機 炭素(TOC)の量)及び平成28年度は亜硝酸態窒素を対象とし,外部精度管理を実施したので,その概要を報告する. 参加した検査機関数は,塩化物イオン23機関,TOC19機関及び亜硝酸態窒素17機関であった.集計解析した結果,塩 化物イオン及びTOCでは,数値に問題がある機関はなかった.一方,亜硝酸態窒素では,Grubbsの棄却検定により1機関 が棄却され,別の2機関のzスコア,誤差率及び検査機関内変動係数が,あらかじめ設定した必要条件を満たさず不満足 な結果となった. また,水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法(平成15年7月22日付厚生労働省告示第261号) に基づく検査の実施状況では,平成26年度からの3年間を通して,告示法の遵守が徹底されていない機関が複数見られた. 特に試験開始までの日数及び標準液の調製日については,半数近くの検査機関で告示法が遵守されていなかった.

外部精度管理,水道水,塩化物イオン,有機物(全有機炭素(TOC)の量),亜硝酸態窒素,告示法

 

東京都衛生検査所精度管理調査におけるHBs抗原の調査結果について(平成12年度~平成28年度)
 東京都では,衛生検査所を対象とした東京都衛生検査所精度管理事業を実施し,毎年度報告書にまとめている.精度管 理調査項目のうちの血清学のHBs抗原試料については当センター精度管理室で検体作製と配付を行っているが,平成25年 度以降,試料作製の際に実際の調整濃度より低値傾向が見られることがあった.原因としてHBs抗原の添加量が少なく, 試料の原料である血清中に高力価のHBs抗体の存在による影響が疑われたため,試料作製時に影響を及ぼす因子について 検討した. また,HBs抗原国内標準品の使用を開始し,IU/mL単位の表示に改めた平成12年度から平成28年度までのHBs抗原検査の 結果と測定法の推移について併せて報告する. 試料作製の問題点については,ボランティア又は市販のプール血清中のHBs抗体がHBs抗原と競争阻害することにより 測定値が低値を示すことが示唆された.また,平成12年度から平成28年度までのHBs抗原検査の測定法は,平成12年度に は多く採用されていたRIA法を使用している施設はなくなり,現在ではECLIA法,EIA法,CLIA法が主流となってきてい る.しかし,一部の施設でイムノクロマト法を採用しており,検出感度の面で課題が残されている.

臨床検査,衛生検査所,精度管理調査,HBs抗原,B型肝炎,血清学的検査,イムノクロマト法,ECLIA 法,EIA法,CLIA法

東京都環境放射線測定サイト東京都感染症情報センター東京都健康安全研究センターサイト
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