研究年報 第61号(2010)和文要旨

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事業報告

東京都健康安全研究センターにおける新型インフルエンザ対応(2009年)
 2009年に経験した新型インフルエンザ大流行に対して東京都健康安全研究センターで行った対応を記録する.インフルエンザウイルスの検査は,当センター独自に開発した新型インフルエンザと季節性インフルエンザの同時鑑別診断法を用いて全国に先駆けて開始した.当センターで開発した新型インフルエンザ検査法は,国立感染症研究所の示した検査法より約10倍感度の高い方法であった.
 東京都感染症情報センター(疫学情報室)では,新型インフルエンザ発生動向の把握や情報発信,また検査結果の返信を迅速・効率的に行った.特に,東京都感染症危機管理情報ネットワークシステム(K-net)を有効に利用することで,関係者間の情報連携および情報共有を図った.
新型インフルエンザ,新型インフルエンザウイルス,pandemic (H1N1) 2009A/H1N1pdm,リアルタイムPCR,nested PCR,サーベイランス

 

新興再興感染症起因病原体の診断及び解析法に関する研究
 健康安全研究センター微生物部が平成18年度~20年度の3年間で取り組んだ重点研究「新興再興感染症起因病原体の診断及び解析法に関する研究」の成果の概要について紹介した.本研究は7題の個別研究から構成され,鳥インフルエンザや結核,その他の新興再興感染症の発生を想定し,おもに遺伝子検査技術を駆使して,それらの感染症の病原体に対する迅速かつ高感度な診断検査方法と類症鑑別方法を構築する.また遺伝子系統樹解析など分子疫学解析手法を確立し,それらの感染経路の究明や発生源対策及び感染症の封じ込め対策等に有効なデータを関係部署に提供する.さらに,感染症発生情報のいち早い収集と解析によって健康危機管理にかかる情報の迅速な還元と共有化を図るものである.本研究は各課題においてその目標を達成し,その成果のいくつかはすでに感染症や食中毒事例発生に際して応用され,行政施策に反映されている.その代表的事例が,研究終了の翌年,平成21年(2009年)の新型インフルエンザ流行発生に際しての,新型インフルエンザウイルスと季節性インフルエンザウイルスの鑑別検査系の迅速な構築完了と,都独自の情報ネットワークシステムを利用した患者発生情報の収集と迅速な病原体情報の還元である.
新興再興感染症,遺伝子検査,遺伝子疫学解析,鳥インフルエンザウイルス,結核菌,腸管出血性大腸菌,狂犬病ウイルス,E型肝炎ウイルス,フラビウイルス属,感染症発生動向調査

 

違法ドラッグによる危害の未然防止に関する研究
 違法ドラッグの含有成分探索及び生体影響評価を実施し, 以下の成果が得られた.ケミカル系違法ドラッグの系統分析法を開発し試買製品から新規薬物を検出した.尿中ドラッグの分析法を確立し乱用者尿への適用を開始した. 実験動物に対する神経行動毒性から違法ドラッグの生体影響評価法を確立するとともに, 神経系, 肝臓及び精子への毒性及び作用機序を解明した.科学データは知事指定薬物指定の基礎資料となった.さらに植物系違法ドラッグの鑑定法を確立した.
薬物濫用,違法ドラッグ,ケミカル系違法ドラッグ,植物系違法ドラッグ,知事指定薬物,薬事法指定薬物,麻薬,流通実態,生体影響,中枢神経作用

 

アスベスト及びその代替物の検査法の開発と生体影響に関する研究
 平成18年度から3年に及ぶ健康安全研究センターの重点研究プロジェクトのひとつとして,計9課題の調査研究を行ったので,その概要を報告する.本調査研究のうち,5課題は建材,化粧品原料,空気等に含まれるアスベスト量に関する検査法の開発と実態調査,4課題は主にアスベスト代替物の生体影響を病理組織学的,細胞毒性学的,生理学的見地などから検討したものである.
 その結果は,アスベスト等の分析法の開発と実態調査において,1)電子顕微鏡・吸光光度計・イオンクロマトグラフなど既存の機器を使用した定量方法が開発できた,2)X線回折装置による分析法を検討し建材及びタルカムパウダー中のアスベストを高感度に分析できた,3)建材中のアスベスト量や塵埃中のアスベスト数の測定法を改良し検査の迅速化ができた,4)市販品であるアスベスト簡易測定キットの性能試験,流通している化粧品や室内堆積塵・浮遊塵中のアスベスト量の実態調査を検討した方法を用いて行い,製品や室内環境の実態を把握できた.
 また,アスベスト代替物等の生体影響に関する研究では,培養細胞実験で,1)アスベスト代替物は概ねアスベストより弱いものの細胞膜傷害及び酸化ストレスを惹起した,2)小核誘発性試験でアスベストと同程度以下の影響があった,3)エピカテキンがアスベストのマクロファージによる活性酸素放出や酸化性DNA障害を抑制し,肉芽腫発生を減少させる傾向があった.加えて,動物実験では,アスベスト代替物によるラット陰嚢腔内投与で中皮細胞への障害は認められなかったが,マウス腹腔投与では炎症惹起等においてアスベストより強いものがみられた.
アスベスト,アスベスト代替物,検査法,生体影響,事業報告,建材,クロシドライト,アモサイト,クリソタイル,トレモライト,電子顕微鏡,X線回折装置,イオンクロマトグラフィ,酸,金属,タルク,位相差顕微鏡,室内空気,ポリフェノール,エピカテキン,マクロファージ,培養細胞,活性酸素種,8-OHdG,陰嚢腔,ロックウ−ル,ワラストナイト,チタン酸カリウムウィスカー,病理組織学,肉芽腫,フェントン反応,過酸化脂質,チャイニーズハムスター肺由来細胞V79-4,変異原性試験,小核

 

総説

天然食品添加物及びその製剤の品質に関する調査研究 −製造に使用される化学物質,含有成分および不純物の分析−
 天然食品添加物の製造に使用される有機溶媒等の化学物質の残留や,製剤化に使用される希釈溶媒や乳化剤等についての試験法確立と実態調査,食品の日持ち向上の目的で使用されるユッカ抽出物,カラシ抽出物,セイヨウワサビ抽出物,天然着色料であるクチナシ色素,甘味料カンゾウ抽出物,粗製海水塩化マグネシウム(にがり)等の機能成分や不純物の試験法の確立と実態調査,重金属等の残留実態調査等を中心に報告する.
天然食品添加物,残留溶媒,希釈剤,乳化剤,ユッカ抽出物,カラシ抽出物,クチナシ色素,カンゾウ抽出物,粗製海水塩化マグネシウム,重金属

 

東京都における食事由来のダイオキシン類曝露量
 東京都ではダイオキシン類の人への健康影響を調査することを目的として食事由来のダイオキシン類曝露量推計調査を継続的に実施している.ここでは,過去10年間の調査結果を総括するとともに,離乳食,幼児食及び加工食品等,様々な食事形態を想定して実施した曝露量調査結果についても解説する.1999年~2008年の10年間にわたり継続調査を実施した成人食からのダイオキシン類曝露量では,1999年には1.92 pg-TEQ/kg BW/dayであったが,2001年にかけて減少し,それ以降は1.12~1.39 pg-TEQ/kg BW/dayでほぼ横ばいに推移した.その他に,離乳食,幼児食及び加工食品を中心とした食事を想定して曝露量の推計を試みたが,いずれの食事形態においても耐容一日摂取量(Tolerable Daily Intake:TDI)の4 pg-TEQ/kg BW/dayを下回った.食品群別曝露量を見ると,魚介類群からの曝露量が最も多かったが,総曝露量や栄養学的観点からも魚食を避ける必要性はなく,バランスのとれた食事を心がけることが重要である.
ダイオキシン類,ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン,ポリ塩化ジベンゾフラン,コプラナーポリ塩化ビフェニル,トータルダイエット法,陰膳法,一日耐用摂取量

 

論文Ⅰ 感染症等に関する調査研究

<原著>Corynebacterium ulcerans 遺伝子検査法の検討
 動物からヒトへ感染が示唆されているジフテリア様毒素産生 Corynebacterium ulceransの遺伝子検査法として,リアルタムPCR法によるC.ulceransDLT遺伝子,plD遺伝子の検出法を開発した.DLT遺伝子検出リアルタイムPCR法は,C.ulceransDLT遺伝子ならびにC.diphteriaeDT遺伝子も検出可能であり,ジフテリア様疾患患者発生時には,迅速な検査対応が可能となった.また,2009年に,都内で飼育されているイヌ,ネコ102頭103検体の咽頭スワブ等をリアルタイムPCR法ならびに分離培養法で検査を行ったところ,C.ulceransは検出されなかった.
Corynebacterium ulceransCorynebacterium diphteriae,リアルタイムPCR法,DLT遺伝子,plD遺伝子,イヌ,ネコ

 

<原著>結核集団感染事例における分子疫学的解析法としてのVariable Numbers of Tandem Repeats法の活用
 ストレプトマイシン耐性で同一RFLPパターンを持つ結核菌株が,都内各地よりほぼ毎年のように分離され,当センターでRFLP解析した結核菌株660株のうち5%を占めている.これらの株はすべてストレプトマイシンに高度耐性で,VNTR法で遺伝子型を詳細に解析するとほぼ同一のアリルプロファイルを示したが,部分的に異なる領域も存在した.これらの株が分離された事例間の疫学上の関連性は認められなかったが,RFLP法に変わる分子疫学解析法として,VNTR法の有用性が示唆された.
RFLP法,VNTR法,ストレプトマイシン耐性株

 

<原著>次世代結核菌感染診断用インターフェロンγ測定検査法の検討
 結核菌感染診断用インターフェロンγ測定検査法であるQuantiFERON®第二世代(QFT-2G)の改良版として,第三世代の検査法(QFT-3G)が開発された.しかしながら,QFT-3Gは過度の振とう操作が検査結果に悪影響を与えることが知られている.検体輸送の検査結果に及ぼす影響について検討を行った結果,バイク便による輸送程度の振とうでは検査結果に影響が無いことが示された. さらに,QFT-2G・QFT-3Gの二種類の検査法を用いて性能の比較検討を行った結果,QFT-2G 陰性例109件中105件の結果が一致し,またQFT-2G 陽性例27件中25件,QFT-2G 判定保留例5件中3件で結果が一致した.不一致例の多くは第三世代のQFT法の感度が向上したことによる結果と推察される.
結核,診断法,インターフェロンγ測定検査,結核菌特異的抗原,QuantiFERON TB-2GQuantiFERON TB Gold

 

<原著>新型インフルエンザウイルスA/H1N1pdm2009におけるオセルタミビル耐性遺伝子変異の検出
 オセルタミビル耐性インフルエンザウイルスのサーベイランス調査は極めて重要である.我々は新型インフルエンザウイルスA/H1N1pdmのオセルタミビル耐性変異の有無を調査する目的で,NAタンパク質の275位のアミノ酸がヒスチジンからチロシンに置換(H275Y)されたアミノ酸変異を検出するRT-nested PCR法−シークエンス法およびreal-time PCR法を用いた方法を開発した.この方法を用いて都内で分離されたA/H1N1pdm株546株を調査したところ,1株にH275Yのアミノ酸変異がみられた.同変異ウイルス1株を含むA/H1N1pdm株116株についてreal-time PCR法を行ったところ,H275Y 1株,H275H 115株に区別することができた.
新型インフルエンザ,A/H1N1pdm,ノイラミニダーゼ阻害剤,オセルタミビル耐性遺伝子,アミノ酸変異,H275Y,RT-nested PCR法−シークエンス法,real-time PCR法

 

<原著>コンパニオンアニマルの外耳における Malassezia 属菌の保有状況と分離株の分子生物学的解析
 Malassezia属菌は,ヒトや動物の皮膚に常在する酵母である.しかし,特定の条件下で過度に菌数が増加した場合などでは,宿主の皮膚等に危害を惹起する.また近年では,本菌のアトピー性皮膚炎への関与や院内感染事例も報告されるようになってきた.そこで今回,コンパニオンアニマルの外耳を対象にMalassezia属菌の保有状況を調査し,分離株について分子生物学的な解析を試みた.その結果,Malassezia属菌は,イヌでは130検体中75検体(57.7%),ネコでは110検体中19検体(17.3%)から検出された.また,分離株のほとんどが動物の常在菌とされるM. pachydermatisであったが,ヒトの常在菌とされるM. japonicaM. slooffiaeも検出された.さらに,分離した85株のM. pachydermatisについてITS1領域を用いた分子系統樹解析を行った結果,M. pachydermatisは5つの遺伝子グループに分かれ,一部の系統には宿主との間に関連性が認められた.
Malassezia属菌,コンパニオンアニマル,担子菌系酵母,ITS1領域,系統樹解析

 

<原著>都内定点病院において2004~2009年に検出されたA群溶血性レンサ球菌の型別成績
 A群溶血性レンサ球菌は咽頭炎を中心とした呼吸器系感染症の起因菌である.小児におけるA群溶血性レンサ球菌の蔓延状況を調査する目的で,2004年1月より2009年12月末までの都内小児科定点病院外来患者の咽頭ぬぐい液より検出されたA群溶血性レンサ球菌および各病院で分離された菌株について,その血清型別,毒素産生性等を検討した.その結果,1993年~2003年の調査結果で全体の57.5%を占めていた3型が,今回の調査では,全体の2.4%を占めるにとどまっていた.一方,25型は2008年には17株(24.6%),2009年には14株(29.8%)と急増していることが明らかとなった.劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者でしばしば分離される1型ではSPE B単独産生株が61.1%を占めた.また,A+C産生株が11型で9株見られたことはこれまでの調査では見られなかった傾向であり,引き続き注視する必要がある.
A群溶血性レンサ球菌,T型別,発熱性毒素

 

<原著>都内定点病院において分離された黄色ブドウ球菌の型別成績(2005~2009年)
 市中病院におけるMRSA保有状況を調査する目的で,2005年1月から2009年12月までの都内小児科定点病院外来患者の咽頭ぬぐい液を中心に検査を実施し,分離されたS.aureus菌株のMRSA鑑別,コアグラーゼ型別,毒素産生性の検査を実施した.その結果,119株のMRSA,55株のMSSAが分離された.MRSAでは,コアグラーゼII型が45.4%と多数を占めており,次いでIII型が21.0%であり,従前からの傾向を踏襲していた.毒素産生性については,コアグラーゼII型,III型ともにSEC+TSST-1の産生株が最も多くを占めた.MSSAについては,コアグラーゼIV型の株が多く,MRSAと比べ,毒素非産生型の株が多くを占めていた.
黄色ブドウ球菌,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ型,エンテロトキシン,トキシックショックシンドロームトキシン-1

 

<資料>非結核性抗酸菌のハウスキーピング遺伝子解析による同定
 人から分離された非結核性抗酸菌株について,コロニーの性状や生化学的性状を検査し,さらに市販の遺伝子同定キットで同定を試みたが,菌種の同定ができなかった.そこでDNAシークエンス法を用いて,ハウスキーピング遺伝子(16S rRNA,rpoBrecAhsp65,ITS)の解析による菌種同定を試みた結果,Mycobacterium gordonaeと同定することができた.
非結核性抗酸菌,DNA−DNAハイブリダイゼーション法,DNAシークエンス法,ハウスキーピング遺伝子

 

<資料>抗梅毒抗体検査キットの検討
 梅毒検査法のうち,脂質抗原に対する抗体を検出する方法(Serological Test for Syphilis:STS法)であるガラス板抗原試薬が2009年12月に製造中止となったため,ガラス板法に変わり得る新たな検査試薬(試薬A,試薬B)の検討を行った.その結果,試薬Aはガラス板法と比べ凝集像が見にくく,低感度であった.また,強度のプロゾーン現象による偽陰性の出現が多い傾向が見られた.一方,Treponema pallidum(TP)の菌体成分を抗原として用いる試薬Bは感度が高く,ガラス板法と同等な結果が得られることが判明した.
梅毒,STS法,TP抗原法,プロゾーン現象,確認試験,ラテックス法

 

<資料>都内のブタにおける日本脳炎ウイルスの感染状況(2006年度~2009年度)
 2006年度から2009年度に都内で飼育されたブタを調査対象として,日本脳炎ウイルス対するHI抗体検査,ウイルス分離試験及び遺伝子検査を行った.その結果,各年度全てにおいて,HI抗体検査では低い抗体保有率であり,ウイルス分離試験及び遺伝子検査においてもウイルスは検出されなかった.
日本脳炎ウイルス,フラビウイルス,ブタ,HI抗体,PCR法

 

論文Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

<原著>平成21年度薬物分析調査について
 平成21年度に行った薬物分析調査の結果を報告する.調査したケミカル系違法ドラッグ56製品のうち,薬物は42製品から13種検出された.検出薬物の内訳は,薬事法の指定薬物が2種,新規未規制薬物が9種及び既知薬物が2種であった.検出された新規未規制薬物は1-(3-fluorophenyl)-2-(methylamino)propan-1-one(3-フルオロメトカチノン),1-(4-fluorophenyl)-2-(methylamino)propan-1-one(4-フルオロメトカチノン),2-(methylamino)-1-(4-methylphenyl)propan-1-one(4-メチルメトカチノン),1-(4-methoxyphenyl)-2-(methylamino)propan-1-one(4-メトキシメトカチノン),1-(2-fluorophenyl)-N-methylpropan-2-amine(N-メチル-2FMP),1-(4-(isopropylthio)-2,5-dimethoxyphenyl)propan-2-amine(ALEPH-4),1-(2,5-dimethoxy-4-nitrophenyl)propan-2-amine(DON),N-ethyl-N-(5-methoxy-1H-indol-3-yl)ethyl)propan-1-amine(5-MeO-EPT)及び1-methylpropyl nitrite(亜硝酸第2級ブチル)である.フォトダイオードアレイ検出器付液体クロマトグラフィー(LC/PDA),薄層クロマトグラフィー(TLC),電子イオン化質量分析計付ガスクロマトグラフィー(GC/EI-MS),高分解能飛行時間型質量分析法(HR-TOF/MS)及び核磁気共鳴スペクトル測定法(NMR)等により構造決定したので報告する.
違法ドラッグ,指定薬物,亜硝酸イソプロピル,亜硝酸イソブチル,毒物,3-フルオロメトカチノン,4-フルオロメトカチノン,4-メトキシメトカチノン,N-メチル-2FMP,DON,亜硝酸第2級ブチル

 

<資料>市販胃腸薬の消化力試験に及ぼす粉砕法の影響
 市販の胃腸薬4種を①乳鉢で粉砕,②粉砕機で30秒間粉砕,③粉砕機で4分間粉砕 の3通りの方法で粉砕し,消化力試験(たん白消化力試験,でんぷん糊精化力試験,でんぷん糖化力試験)を行い,粉砕法の違いによる影響を調べた.各消化力試験の測定値を乳鉢による粉砕を行った場合の結果と比較すると,粉砕機で30秒間粉砕した試料を使用した場合50~95%に低下し,4分間粉砕ではその測定値は1~20%まで顕著に低下した.以上のことから,試料の粉砕法が消化力試験に大きく影響することが示唆され,その測定値の低下を防ぐためには乳鉢による粉砕等の緩和な方法を用いることが必要である.
消化力試験,たん白消化力,でんぷん糊精化力,でんぷん糖化力,制酸力試験,胃腸薬,粉砕法

 

<資料>化粧品に配合が認められている医薬品成分の表示と検出結果(平成19~21年度)
 平成19~21年度に当センターに搬入された化粧品(548製品)について,化粧品に配合が認められている医薬品成分(承認化粧品成分)のうち13成分を対象として,含有量を分析し使用実態を調査した.211製品に分析対象成分が表示されており,成分数にして延べ278成分が表示されていた.分析対象成分のうち,グリチルリチン酸ジカリウム,酢酸dl-α-トコフェロール,アラントインの順に多く検出した.最大配合量を超えた製品は4製品であった.
化粧品,化粧品基準,グリチルリチン酸ジカリウム,酢酸dl-α-トコフェロール,アラントイン

 

<資料>東京都搬入玄米中のカドミウム及び重金属について
 2004~2009年度に東京都内の米卸売り業者に搬入された1,129検体の玄米中のカドミウムを定量した.年度別平均値は0.05~0.06 ppmであった.さらに,2009年度の玄米183検体についてはカドミウムの他,鉛,ヒ素,クロム及び総水銀を定量した.また,ガラス製のメスフラスコやケルダールフラスコを硝酸(1 mol/L)による予備洗浄を行っても,ガラス製器具から硝酸溶液中にPbが溶出して誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)の定量値に影響を与えることを明らかにしたので併せて報告する.
カドミウム,鉛,ヒ素,クロム,総水銀,玄米,ICP-MS

 

<資料>食品及び容器包装中のPCB含有量調査(東京都:1996-2009年)
 東京都では,1973年から都内流通の魚介類,牛乳,乳製品,育児用粉乳,肉類及び容器包装を対象にPCB汚染調査を行ってきており,魚介類に関しては2008年度まで,牛乳,乳製品,育児用粉乳,肉類及び容器包装については1988年まで報告している.今回は過去14年間(1996-2009年)における牛乳,乳製品,育児用粉乳,肉類,容器包装,及び過去7年間(2003-2009年)における魚介加工品PCB含有量の調査結果について報告する.
ポリ塩化ビフェニール(PCB),牛乳,乳製品,育児用粉乳,肉類,容器包装,魚介加工品,干物

 

論文Ⅲ 食品等に関する調査研究

<原著>メラミン樹脂製品のメラミン及びホルムアルデヒド溶出量調査
 食器洗浄機を用いてメラミン樹脂製品を繰り返し洗浄した時の,原料モノマーであるメラミン及びホルムアルデヒド溶出量を測定した.洗浄を繰り返すとメラミン溶出量は減少したが,ホルムアルデヒド溶出量は増加した.ホルムアルデヒド溶出量は加熱により増加することから,メラミン樹脂製品を食器洗浄機で洗浄する場合は,乾燥温度に注意が必要と考えられた.また,食品に混入したメラミンについて,メラミン樹脂製品に由来するメラミン量を試算した.その結果,酸性食品中に最大0.19 mg/kg溶出される可能性があるが,食品中の定量限界0.5 mg/kgを超えるものはなかった.
メラミン,ホルムアルデヒド,メラミン樹脂製品,食器洗浄機

 

<原著>アセトニトリル不足に対応した食品中のスーダン色素及びパラレッド試験法の検討
 スーダンI~IV及びパラレッドをアセトニトリル以外の溶媒で抽出後,HPLCにより分析する方法について検討を行った.HPLC条件は移動相にメタノール・水(49:1)を用い,良好な分離を実現することができた.抽出溶媒については,油脂(ラー油)以外の食品ではアセトン,イソプロパノール及びエタノールを用いることでほぼ80%以上と通知法に近い回収率を得ることができた.しかし,油脂(ラー油)については検討した液々分配を用いた方法及び溶媒を冷凍処理する方法のいずれもスーダンIIIとIVで回収率が60%前後と低く,今後さらなる検討が必要であると考えられた.
アセトニトリル不足,食品,スーダン色素,パラレッド,未指定添加物,通知法,抽出溶媒,液々分配,高速液体クロマトグラフィー

 

<原著>農産物中ネオニコチノイド系農薬の分析
 農産物中のネオニコチノイド系農薬の分析法を検討した.試料からアセトン・n-ヘキサン混液で抽出し,ジクロロメタンに転溶した.水層に一部移行したネオニコチノイド系農薬を多孔性ケイソウ土カラムに負荷して酢酸エチルで溶出した.次いでENVI-PSAカートリッジカラムに負荷し,トルエン・アセトニトリル混液で溶出して精製を行った.測定にはLC-MS/MSを用いた.種々農産物にネオニコチノイド系農薬添加したときの回収率は0.02 µg/g添加時で52.4%~133%,0.1 µg/g添加時で59.6%~120%であった.本分析法は農産物中ネオニコチノイド系農薬のスクリーニング法として適用できると考える.
残留農薬,農産物,ネオニコチノイド系農薬,液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計

 

<原著>食品中シアナミドの分析
 シアナミドは農薬のひとつ石灰窒素の有効成分であると共に,単独でも使われる農薬である.シアナミドは国内で適用作物があり,海外でも基準値が設定されているものの,その試験法は確立されていない.食品中シアナミドを無水硫酸ナトリウム存在下で酢酸エチルにより抽出し,溶媒を水に置換後塩基性下でダンシルクロライドと反応させ,蛍光誘導体化して蛍光検出器付高速液体クロマトグラフで測定した.シアナミド標準溶液0.1 µg/g相当を野菜および果実に添加して添加回収試験を行った結果,おおむね良好な回収率が得られた.
シアナミド,残留農薬,高速液体クロマトグラフィー,蛍光検出,ダンシルクロライド

 

<資料>食肉中のカンピロバクター検出法の検討
 食肉の日常検査に高感度で効率的なカンピロバクター(Campylobacter jejuni およびC. coli)検出法を導入する目的で,増菌方法としてリンス法,大量培養法および10倍乳剤法を比較した.リンス法と大量培養法で顕著な差異は認められず,リンス法は大量培養法と比較して培地量の少量化や操作性においてすぐれ,利便性の高い手法と考えられた.しかし10倍乳剤法の検出数は極めて少なかった.増菌培地と分離平板は,Preston培地による増菌でmCCDA培地による分離が適していた.
カンピロバクター,Campylobacter jejuniCampylobacter coli,検査法,Preston培地,Bolton培地,mCCDA培地,Butzler培地

 

<資料>東京都民の食事からの食品添加物一日摂取量調査(着色料)
 2008年および2009年のマーケットバスケット方式による東京都民の食品添加物一日摂取量調査において,食用着色料12種類のHPLCによる定量分析を行い,食用赤色40号(R40),食用赤色102号(R102),食用赤色106号(R106),食用黄色4号(Y4),食用黄色5号(Y5),食用青色1号(B1)および食用青色2号(B2)を検出した.検出した着色料の成人体重1 kg当りの推定一日摂取量(kg bw/day)は,R40:0.00070 mg,R102:0.00464 mg,R106:0.00314 mg,Y4:0.03380 mg,Y5:0.00370 mg,B1:0.00212 mg,B2:0.00048 mgであった.これらのうちFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)で一日摂取許容量が設定されているR40,R102,Y4,Y5,B1,B2については,いずれもその量の0.5%未満であった.
食品添加物,一日摂取量,マーケットバスケット方式,着色料,HPLC,定量分析

  

<資料>食品添加物一日摂取量調査    パラオキシ安息香酸エステル類(平成19年度)及びトコフェロール(平成20年度)について
 マーケットバスケット方式による加工食品中の食品添加物の一日摂取量調査を行った.平成19年度は保存料のパラオキシ安息香酸エステル類,20年度は酸化防止剤のトコフェロールの調査を実施した.各種パラオキシ安息香酸エステル類の一日総摂取量は0~0.036 mgであったが,今回検出されたパラオキシ安息香酸エステル類には一日摂取許容量(ADI)が定められていないため,これらの値からはADIを指標とした評価はできなかった.一方,α-トコフェロールの一日総摂取量は4.124 mgであり,体重を50 kgとした場合にADIの4.1%であった.総トコフェロールの一日総摂取量は17.192 mgであり,この値を食品添加物であるミックストコフェロールのADIを用いて評価したところADIの17.2%であった.
食品添加物,一日摂取量,一日摂取許容量,マーケットバスケット方式,パラオキシ安息香酸エステル類,トコフェロール

 

<資料>輸入食品中の放射能濃度(平成21年度)
 1986年4月に発生したチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故をうけて,東京都では輸入食品中の放射能濃度(セシウム134及びセシウム137)の監視を行っている.平成21年度は328件の放射能濃度測定を行った.その結果,フランス産ブルーベリージャム1検体から暫定限度値(370 Bq/kg)を超える,500 Bq/kgのセシウム137を検出した.この他,50 Bq/kgを超える放射能濃度を検出したものは7検体であった.これら8検体の内訳を原産国別で見ると,フランス及びベルギー各2検体,ドイツ,ベラルーシ,ブルガリア,ポーランドが各1検体であった.また,食品群別に見ると,きのこ類が4検体,ブルーベリー加工品が4検体であった.
チェルノブイリ原子力発電所事故,輸入食品,放射能,セシウム137,セシウム134,きのこ,ブルーベリー加工品,ヨウ化ナトリウム検出器,ゲルマニウム半導体検出器

 

<資料>遺伝子組換え食品の検査結果(平成20~21年度)
 平成20年度及び平成21年度に当センターで行った遺伝子組換え食品検査の結果を報告する.安全性審査未了のため国内で流通が認められていない遺伝子組換えトウモロコシ(CBH351及びBt10),Btコメ,55-1パパイヤに関して,安全性審査未了である遺伝子組換え食品は検出されなかった.また,安全性審査済み遺伝子組換え食品に関しては,ダイズ穀粒・加工食品またはトウモロコシ粉砕加工品・加工食品から,ラウンドアップレディーダイズまたは組換えトウモロコシが検出されたが,定量試験の結果,意図しない混入率の基準(5%)を越えるものはなかった.
遺伝子組換え食品,定性PCR法,定量PCR法,トウモロコシ,コメ,パパイヤ,ダイズ,加工食品

 

<資料>食品中の特定原材料(卵,乳,小麦,落花生,甲殻類)の検査結果 −平成21年度−
 平成21年度に当センターで行った特定原材料検査について,東京都内で製造された食品中の卵,乳,小麦,落花生の検査結果及び,東京都内で流通していた市販食品中の甲殻類を対象とした検査結果を報告する.都内で製造された食品について,小麦を対象として7検体検査した結果,1検体が陽性であった.陽性であった検体の表示に小麦を原材料とする旨の記載はなかった.卵を対象として12検体,乳を対象として23検体,落花生を対象として4検体検査した結果,いずれも陰性であった.市販食品40検体について,甲殻類(えび,かに)を対象としてスクリーニング試験を行った.その結果,原材料表示にえび又はかにの記載のある11検体で陰性,同様にえび及びかにいずれも記載のない2検体で陽性であった.その他の試料では表示と一致した.
食物アレルギー,特定原材料,ELISA法,ウエスタンブロット法, PCR法,卵,乳,小麦,落花生,甲殻類

 

<資料>化学物質及び自然毒による食中毒等事件例(平成21年)
 平成21年に発生し,原因物質の究明を行った化学物質及び自然毒による食中毒等事例のうち,カジキのムニエルを喫食して顔のほてり,発赤,上半身の紅斑などの症状を示したヒスタミンによる食中毒等2例,赤バイ貝のステーキを喫食してのぼせ,めまい,視力障害などの症状を示したテトラミンによる食中毒1例及び,ロールケーキとアーモンドクッキーを喫食してアナフィラキシーの症状を示した苦情1例について報告する.
化学性食中毒,カジキ,ブリ,ヒスタミン,バイ貝,テトラミン,ロールケーキ,クッキー,小麦

 

<資料>食品の苦情事例(平成21年度)
 平成21年度に実施した一般食品苦情に関わる検査37件の中から顕著な事例5件を選び報告する.(1) 瓶詰いか塩辛中のかび様物質は,いかのうまみ成分が結晶化したチロシンであった.(2) 飲食店で提供された水を飲んだ客が喉の痛みを感じた事例では,店員が殺菌洗浄に使用した次亜塩素酸溶液を客に提供してしまったことが原因であった.(3) あんパンやチョコレートを喫食中に発見された白色プラスチック様破片は,苦情者の歯の詰物が取れたものであった.(4) クッキーを喫食中に発見された異物は,苦情者の歯が欠けたものであった.(5) 焼豚中の黒いひも様物質は豚肉の血管であった.
食品苦情,異物混入,チロシン,次亜塩素酸,歯の詰物,歯,血管

 

<資料>国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査 −平成21年度−
 平成21年4月から平成22年3月にかけて都内で入手した野菜及び果実など国内産農産物26種48作物について残留農薬実態調査を行った.その結果,12種19作物(検出率:40%)から殺虫剤及び殺菌剤を合わせて21種類の農薬(有機リン系農薬1種類,有機塩素系農薬4種類,カルバメート系農薬1種類,ピレスロイド系農薬4種類,含窒素系農薬及びその他の農薬11種類)が痕跡(0.01 ppm未満)~0.17 ppm検出された.食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えたものはなかった.
残留農薬,国内産農産物,野菜,果実,殺虫剤,殺菌剤

 

<資料>輸入農産物中の残留農薬実態調査(有機リン系農薬及び含窒素系農薬) −平成21年度−
 平成21年4月から平成22年3月に都内に流通していた輸入農産物72種340検体について,有機リン系農薬及び含窒素系農薬の残留実態調査を行った.有機リン系では殺虫剤10種類が13種36作物から検出された.含窒素系では殺虫剤5種類が5種17作物から,殺菌剤17種類が18種49作物から,除草剤1種類が1種1作物から痕跡程度~0.91 ppmの濃度で検出された.食品衛生法の残留基準値及び一律基準値(0.01 ppm)を超えたものは,中国産冷凍アスパラガスからイソカルボホスが一律基準値を超えて検出された一例のみであった.
残留農薬,輸入農産物,有機リン系農薬,含窒素系農薬,殺虫剤,殺菌剤,除草剤

 

<資料>輸入農産物中の残留農薬実態調査(有機塩素系農薬,N-メチルカルバメート系農薬及びその他) −平成21年度−
 平成21年4月から平成22年3月に東京都内の市場等で購入した輸入農産物72種340作物について,有機塩素系農薬,N-メチルカルバメート系農薬,ピレスロイド系農薬及びその他農薬の残留実態調査を行った.有機塩素系農薬では,8種類の殺虫剤及び4種類の殺菌剤が,16種40作物(検出率11.8%)から検出された.N-メチルカルバメート系農薬では,1種類の殺虫剤が,1種1作物(0.3%)から検出された.ピレスロイド系農薬では,6種類の殺虫剤が14種29作物(8.5%)から検出された.その他2種類の殺虫剤,3種類の殺菌剤,2種類の除草剤,1種類の植物成長調整剤及び1種類の農薬共力剤が検出された.これらの残留量は痕跡(0.01 ppm未満)~6.4 ppmであり,いずれの残留量も食品衛生法の残留基準値あるいは一律基準値以下であった.
残留農薬,輸入農産物,有機塩素系農薬,N-メチルカルバメート系農薬,ピレスロイド系農薬,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,植物成長調整剤,農薬共力剤

 

<資料>食品輸入事業者に対する自主的衛生管理の推進について
 平成21年度に実施した食品輸入事業者に対する自主的衛生管理の推進事業について報告する.事業の実施にあたっては,食品輸入事業者の自主管理の取組状況を把握するために点検項目を設定し,事前講習会,立入調査など一連の手順を踏んで事業を進めた.点検の結果,自主管理の取組状況は輸入者や点検項目によって開きが見られた.今後,支援や指導を継続するにあたっては,本結果を踏まえて進めていく必要があると考えられた.
輸入事業者,自主的衛生管理

 

論文Ⅳ 生活環境に関する調査研究

<原著>大気中硫酸ジメチル及び硫酸ジエチルの測定法
 硫酸ジメチル,硫酸ジエチルについて大気の濃度調査に適用可能な方法を確立した.この方法により測定した都内の住宅近傍(n=11)における中央値は,硫酸ジメチル:2.1 ng/m3未満,硫酸ジエチル:2.3 ng/m3であった.道路沿道では,2物質ともに住宅近傍より濃度が高かった.自動車排出ガス(n=14)を調査した結果,中央値は,硫酸ジメチルがディーゼル車:0.17 µg/m3未満,ガソリン車:77.3 µg/m3,硫酸ジエチルがディーゼル車:0.58 µg/m3,ガソリン車:6.6 µg/m3で,ガソリン車排出ガスの方が濃度が高かった.
大気,有害大気汚染物質,硫酸ジメチル,硫酸ジエチル,加熱脱着,Tenax TA,自動車排出ガス,ディーゼル車,ガソリン車

 

<資料>プール水及び浴槽水におけるレジオネラ属菌の検出とアメーバ及び線虫類の消長
 2006年から2009年の間に多摩地域のプール水(加温プール水,採暖槽水,屋外プール水)1,064件と浴槽水,不感風呂水,水風呂水の226件について,レジオネラ属菌(1CFU/100 mL以上)とアメーバおよび線虫類について生息調査を行った.レジオネラ属菌の検出率は,採暖槽水で37.8%,不感風呂水で23.8%,浴槽水で21.8%であったが,加温プール水では4.8%,屋外プール水では1件のみの検出,水風呂水からは検出されなかった.アメーバの検出率は,加温プール水で36.6%ともっと高く,次いで屋外プール水,水風呂水,不感風呂水,浴槽水の順に低率となり,最も低率であった採暖槽水でも19.1%であった.線虫類は,屋外プール水では検出されなかったが,水風呂水からの検出率が14.3%であり,水温が高くなるとともにその検出率が低下し,浴槽水でのそれは3.5%であった.
プール水,浴槽水,レジオネラ属菌,アメーバ,線虫類

 

<資料>遊泳用プール水中の消毒副生成物等に関する調査結果(第1報)
 循環ろ過式の遊泳用プールで,塩素消毒に起因する消毒副生成物がプール水中に残留,蓄積されている可能性がある.これらの化学物質の動態を明らかにするために実態調査を行った.消毒副生成物で水道水質基準を超えた項目は,塩素酸,臭素酸,クロロ酢酸,ジクロロ酢酸,トリクロロ酢酸,抱水クロラール,ジクロロアセトニトリル及びクロロホルムであり,消毒剤ではイソシアヌル酸よりも次亜塩素酸ナトリウム,屋内よりも屋外のプールでこれらの濃度が高い傾向があった.塩素酸が高値であった施設の追加調査した結果,塩素剤の管理方法が高値の原因と推察された.
プール水,消毒副生成物,消毒剤,屋外,塩素酸,ハロ酢酸,ハロアセトニトリル,トリハロメタン,過マンガン酸カリウム消費量,TOC

 

<資料>多摩川流域の下水処理場における医薬品の存在実態
 多摩川流域の下水処理場の水試料を対象に医薬品の存在実態調査を実施した.調査対象の医薬品約100種類のうち,流入下水及び処理下水からそれぞれ38及び35医薬品が検出された.それらの検出濃度は流入下水及び処理下水でそれぞれ数十ng/Lから十µg/L及び数十ng/Lから数µg/Lの範囲であった.解熱鎮痛消炎剤の下水処理場への負荷量は冬季に著しい増加が認められたが,高脂血症薬や高血圧症治療薬などの負荷量の変動は小さく,服用の実態に応じた結果が得られた.下水処理場から多摩川水系への負荷量は調査期間中ほぼ一定であり,河川水中の濃度は降雨などによる河川水量の影響を強く受けることが示唆された.スリンダク,アマンタジン,エピナスチン,メトプロロール,プロプラノロール,ロサルタン,スルピリド,ハロペリドロール,フルボキサミン及びロラゼパムの除去率は20%未満と他の医薬品に比べ低く,微生物による分解性が低いためと推察された.
医薬品,下水処理場,分析,GC/MSLC/MS

 

<資料>東京都内で採集された蚊の種構成と季節的消長(2006-2009年)
 都内の様々な環境の場所において2006年から2009年に蚊成虫を調査した.ヒトスジシマカが最も優占し,アカイエカ群がそれに続き,両種で総採集個体数の約9割を占めた.14種類の蚊が同定された.蚊の種類数は住宅地や繁華街で2,3種と少なかったが,広い面積を有する霊園・池があり樹木の多い公園・動物園で各年4~9種類の蚊が採集された.蚊の多様さは調査地点周辺の緑地・水域の広さと正の相関がみられた.ヒトスジシマカは8月に発生のピークがあるのに対し,アカイエカ群は7月に個体数の多い傾向がみられた.コガタアカイエカは夏季に増加し,都心を含めて多くの調査地点で採集された.
蚊成虫,種構成,優占種,季節的消長,ヒトスジシマカ,アカイエカ群,コガタアカイエカ

 

<資料>カベアナタカラダニ出現に対する床面防水材の抑制効果
 カベアナタカダニは春先から初夏にかけて建物等に多量に発生して住民に著しい不快感を及ぼすことがあり,効果的な駆除・防除法が望まれている.タカラダニは防水材を床面に塗った屋上で少ないことから,防水材によってその発生を抑えられないか検討した.ウレタン防水材を塗った箇所に這い回っているタカラダニは,塗ってない箇所に比べ有意に少なかったことから,防水材に忌避効果があるとわかった.防水材塗布面に24時間接触させたタカラダニに死亡個体および行動異常個体はみられず,殺虫効力は認められなかった.タカラダニが多数発生している屋上に防水材を塗装すると,翌年の発生数が減少し,予防効果があることがわかった.以上の結果から,防水材塗布はタカラダニに対する有効な防除法の一つと思われる.
カベアナタカラダニ,防水材,忌避効果,殺虫効力,予防効果

 

論文Ⅴ 生体影響に関する調査研究

<原著>4級アンモニウム化合物(QUAT)のマウス免疫系に及ぼす影響
 QUATは2種の4級アンモニウム塩(アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドとアルキルジメチルエチルベンジルアンモニウムクロライド)を含み殺菌剤として使用されている.QUATをマウスに投与した時の免疫毒性を検討した.8週齢雌ICRマウスにQUATを0,50,100,200 mg/kg経口投与し,2日後に体重と臓器重量,胸腺,脾臓と血中のリンパ球分析,脾臓細胞のサイトカイン産生能の変化を測定した.また,QUAT投与の1日後に卵白アルブミンを投与して,産生される抗卵白アルブミンIgM抗体を測定した.QUAT投与で用量依存的に血中B細胞の減少,B細胞分化に関与するサイトカインIL6, IL10の減少と,抗卵白アルブミンIgM抗体産生の減少が観察された.今回の結果は,単回大量投与ではあるが,免疫系への抑制作用が用量依存的に見られたことから,繰り返し使用する時の安全性への考慮の必要性が示唆された.
4級アンモニウム塩,QUAT,殺菌剤,免疫毒性,マウス

 

<原著>市販家庭用消臭除菌剤に配合される4級アンモニウム化合物のマウス新生仔および成獣における一般毒性指標に及ぼす影響
 市販家庭用消臭除菌剤に配合される4級アンモニウム系殺菌剤(通称QUAT),N-Alkyl (60% C14, 30% C16, 5% C12, 5% C18) dimethylbenzyl ammonium chloride とN-Alkyl (68% C12, 32% C14) dimethyl ethylbenzyl ammonium chlorideの等量混合物,の安全性をマウス新生仔と成獣で検討した.新生仔には,0(対照群),1.25,2.5あるいは5.0 mg/kg体重を生後0日から,成獣には,0,2.5,5.0あるいは10.0 mg/kg体重を13週齢から,連続して21日間経口投与した.投与期間中の体重と摂餌量を測定し,投与終了後に解剖し,主要臓器重量測定,血球検査および血液生化学検査を行った. 新生仔においては,雌雄の投与群で用量に相関性して有意な死亡率の増加が見られた.また,雌雄の5.0 mg/kg群の肝臓の実重量および相対重量,雄の5.0 mg/kg群の脾臓の実重量および相対重量と胸腺の実重量,雌の5.0 mg/kg群の卵巣の実重量が,対照群に比べて軽かった.血液生化学検査では,雌雄の2.5 mg/kg群と雄の5.0 mg/kg群の尿酸値が低下し,雌雄の2.5 mg/kg群と5.0 mg/kg群の血糖値が上昇していた.成獣においては,雌の10.0 mg/kg群の脾臓重量の低下,雄の5.0 mg/kg群と10.0 mg/kg群の平均血球容積の低下,雄の10.0 mg/kg群の平均血球ヘモグロビン量の低下,および,雌の10.0 mg/kg群のクレアチニン値の上昇が見られた.本実験の結果,QUATのマウス新生仔の肝臓への影響が,成獣より敏感に認められた.
除菌剤,4級アンモニウム化合物,QUAT,マウス,新生仔

 

論文Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究

<資料>日本における事故死の精密分析
 東京都健康安全研究センターで開発・運用している疾病動向予測システムを用い,事故死の現状を総合的かつ精密に分析した. 1950年の人口動態統計において,事故死の筆頭は溺死で,転倒・転落,自動車事故,鉄道事故,落下物による打撲,窒息がこれに続いていた.2008年の死亡者数を1950年のそれと比較すると,溺死は66%に,鉄道事故は5%まで減少している.その一方,窒息は4.5倍に,転倒・転落は2.3倍になっている. 日本と西欧諸国とを年齢調整死亡率で比較してみると,不慮の窒息と不慮の溺死・溺水が日本で顕著に高くなっていた.この2つの死因による死亡が高齢者において多くみられることから,高齢者を主なターゲットとした施策が必要と考える.転倒・転落や溺死・溺水は,家屋や浴槽を含めた建造物一般の構造と機能を工夫することで,改善できるものと考える.不慮の窒息の要因としての誤嚥を防ぐための取り組みも始まっている地域も存在することから,その成果を正しく評価し施策に反映していくことも重要であると考える.
事故死,窒息,溺死・溺水,誤嚥,日本,疾病動向予測システム,年齢調整死亡率,世代マップ,平均死亡率比

 

論文Ⅶ 精度管理に関する調査研究

<原著>東京都水道水質検査精度管理で判明した検査機関における塩素酸分析実施上の問題点
 水道事業者及び厚生労働大臣の登録を受けた検査機関に対し,塩素酸と全有機炭素の2項目について外部精度管理を行ったところ,塩素酸で参加39機関中8機関(20.5%)が判定基準外となった.判定基準外8機関のうち6機関は塩素酸イオンと他の共存イオンとの分離不良が原因であった.いずれの機関も信頼性確保に必要な書類は完備していたが,分析技術的な面では検討が不十分な場合があることがうかがえた.外部精度管理を通して水質検査項目の分析実施上の問題点を把握し,検査機関に対して技術的指導を行っていくことの重要性が示された.
外部精度管理,水道水,塩素酸,zスコア,分析技術

 

<資料>平成21年度東京都水道水質検査外部精度管理調査結果について −塩素酸,有機物(全有機炭素(TOC)の量)−
 東京都では,「東京都水道水質管理計画」に基づき,東京都福祉保健局健康安全部及び東京都健康安全研究センターが中心となって,水道事業者及び厚生労働大臣の登録を受けた水道水質検査機関を対象とした外部精度管理を実施している.目的は,対象となる検査機関が同一の統一試料を分析し,それらのデータから分析実施上の問題点やデータのばらつきの程度と正確さに関する実態を把握,解析し,それに基づいて各検査機関が分析技術の改善を図ることにより,検査機関の水質検査の信頼性を一層高めることである. 平成21年度は,塩素酸及び有機物(全有機炭素(TOC)の量)の2項目について外部精度管理を実施したので,その概要を報告する.
外部精度管理,水道水,塩素酸,有機物(全有機炭素(TOC)の量),zスコア,誤差率,変動係数
東京都環境放射線測定サイト 東京都感染症情報センター 東京都健康安全研究センターサイト
(このホームページの問い合わせ先)
tmiph<at>section.metro.tokyo.jp
※<at>を@に置き換えてご利用ください。
また、個別にお答えしかねる場合も
ありますので、ご了承ください。
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