研究年報 第55号(2004) 和文要旨

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和文要旨
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総説

食品のカビ汚染と防止対策

 都内流通の加工食品39品目,約3,000検体を対象に実施したカビおよび酵母汚染調査の結果ならびに1987年から2002年までの16年間に取り扱った苦情事例562事例の検査結果を述べるとともに,これまでに実施した調査結果をもとにカビ汚染と汚染したカビの発生を防止するために考慮すべき留意点について考察した.
カビ,酵母,食品汚染カビ,カビ汚染,カビ制御

  

発酵食品に含まれるアミン類
 我々が日常食する発酵食品から摂取する不揮発性アミン類の含有量の実態と生成原因について,筆者の報告を中心に解説した.発酵食品であるチーズ,ワイン,ビール,紹興酒,味噌,醤油,納豆及び魚醤油についてそれらに含まれるアミン類の含有量を示し,人への影響を考察した.また,味噌,醤油に含まれるアミン類の由来となる産生菌の探索を行い,チラミン産生菌としてEnterococcus faecium 及びヒスタミン産生菌としてLactbacillus属の菌を分離し,これらがアミン生成に関与している事を解明した.

不揮発性アミン,発酵食品,ヒスタミン産生菌,チラミン産生菌

  

Ⅰ 感染症等に関する調査研究

重症急性呼吸器症候群(SARS)診断のための遺伝子検査法の確立

 重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生は,香港,ベトナムで多数の患者発生を引き起こし,その後の世界各地での流行を引き起こした.我国におけるSARS患者はこれまでのところ発生していないが,疑い例及び可能性例に相当する患者は多数発生しており,迅速に患者の病因となった病原体を検出するために遺伝子検査法を用いてSARSの診断を補助するための検査法の開発および整備を行ったので報告する.
重症急性呼吸器症候群,二段階PCR,リアルタイムPCR

  

都内小児科定点病院において,1993年〜2003年に検出されたA群溶血性レンサ球菌の型別成績
 1993年6月から2003年12月に,都内の6小児科定点病院由来のA群溶血性レンサ球菌について調査した.A群溶血性レンサ球菌は1729株でT-12型,T-4型,T-1型,T-3型,T-28型の順であった.発熱性毒素型(SPE)は多い順に,SPE-BとC産生,SPE-B産生,SPE-C産生,SPE-AとB産生であった.

A群溶血レンサ球菌,T型別,発熱性毒素

   

Ⅱ 医薬品等に関する調査研究

一般用医薬品の鎮咳去痰薬に含有される生薬の確認試験
 塩基性成分,酸性成分及び中性成分を指標として固相抽出による試料の精製を行った後,TLCによる確認試験法を検討した結果,一般用鎮咳去痰薬製剤に配合可能な生薬は32種のうち21種の生薬の確認が可能と考えられた.実際にマオウ,ナンテンジツ,トコン及びバイモ,セネガ,カンゾウ,オウヒ,キキョウ,ニンジンが配合されていた市販製剤に応用した結果,少数の製品を除き,いずれも確認することができた.
鎮咳去痰薬,生薬,固相抽出,薄層クロマトグラフィー,TLC,確認試験

 

生薬及び煎出液に残留する有機リン系及びピレスロイド系農薬
 日本薬局方において生薬に残留する農薬の規格は,センナ及びニンジン等の有機塩素系の農薬,総BHC及び総DDTのみである.一方,昨年6月に生薬4種から有機リン系農薬4種及びピレスロイド系農薬2種が検出されたとの新聞報道があった.今回問題となった農薬の分析は,食品に対しては広く行われており,その分析法や残留実態についての報告が様々出ているが,生薬についての報告はほとんどない.そこで,生薬中の残留農薬に関する情報を得るため,局方収載生薬13種22試料について,有機リン系農薬8種及びピレスロイド系農薬3種の分析を試みたのところ,5種の有機リン系農薬がチンピ及びソヨウの2生薬から0.04-1.7ppmの濃度で検出された.また,ピレスロイド系農薬3種が,チンピ,サンシュユ,タイソウ,ソヨウ及びセンナの5生薬から0.05-0.44ppm検出された.また,農薬が検出された生薬について,その煎出液への農薬の移行は,チンピ中のイソカルボホスを除いて低い量でしか認められなかった.
生薬,残留農薬,有機リン系農薬,ピレスロイド系農薬,煎出液

 

生薬中のピレスロイド系農薬分析における測定値のばらつき要因と残留実態
 生薬中のピレスロイド系残留農薬分析におけるばらつきの要因を検討し次の結果を得た.GCクロマトグラムの波形処理の相違によるばらつきを検証するため,シペルメトリン(Cyp)についてピーク高さ法と面積法を比較したところ,大きな差は認められなかったが,定量には夾雑物の影響を考慮してピーク高さ法を採用した.分析機器によるばらつきはHPLCに比べてGCの方が高い結果となったが,今回採用したGC-ECDによるC.V.は最大でも5%程度であることが判明した.ソヨウでは残留する農薬は偏在していることが判明したことから,ばらつきの少ない分析を行うためには,均質な試料調製が肝要であることが判明した.今回このことに注意して分析したところ,均質なソヨウ粉末について6回繰り返しのサンプリングによる分析において,Cyp及びフェンバレレート(Fen)のC.V.は約2%であった.以上の知見を基に,国内市場品11品目121検体の生薬を分析したところ,Fenが24検体,Cypが13検体検出された.なお,生薬の種類により粉砕や抽出等の適切な処理方法は異なることが示唆されたことから,今後個々の生薬毎に分析方法の詳細な検討が必要である.
生薬,残留農薬,ピレスロイド系農薬,電子捕獲検出器付ガスクロマトグラフ,測定値のばらつき,ソヨウ

  

セントジョーンズワートとその同属植物の鑑別
 セントジョーンズワートの原植物は,セイヨウオトギリソウと規定されているが,同属植物が多く,サプリメント中に他の植物の混入が懸念されるため検査が必要である.薬用植物園では、オトギリソウ属植物について薄層クロマトグラフィー(TLC法)およびデジタルマイクロスコープにより外部形態を観察し比較を行った.その結果,サプリメント中のセントジョーンズワートの鑑別は,TLC法と外部形態調査の組み合わせで可能と思われた.

セントジョーンズワート,セイヨウオトギリソウ,同属植物,鑑別,ハーブサプリメント

 

植物系ドラッグダツラシードの鑑定に関する研究
 植物系ドラッグダツラシードの鑑定を目的として,チョウセンアサガオをはじめとする5系統のDatura節と,ヨウシュチョウセンアサガオをはじめとする5系統のStramonium節計4種10系統のチョウセンアサガオ属植物の種子形態と,ダツラシードの有害性を知るためアトロピン及びスコポラミン含量の検討をした.ダツラシードはパッケージ内の種子を栽培した結果,原植物がヨウシュチョウセンアサガオであることが明らかになった.また,チョウセンアサガオ属植物の種子形態を比較した結果,Stramonium節の種子は黒色,扁平でDatura節の種子より小型であることなどから種子の段階での鑑別が可能になった.ヨウシュチョウセンアサガオとケチョウセンアサガオの種子をはじめとする植物体の各部位のアトロピン,スコポラミンを定量した結果,各部位にアトロピン及びスコポラミンが含まれたが,種子中に最も高い濃度のアトロピンが含まれ,この値からダツラシードの作用量を試算すると約15粒になった,
脱法ドラッグ,ダツラシード,チョウセンアサガオ属植物,ヨウシュチョウセンアサガオ,アトロピン,スコポラミン

 

HPLC-PDAによるケミカル系脱法ドラッグのスクリーニング
 いわゆる脱法ドラッグのスクリーニングについて検討した.その結果,アセトニトリル/H2O/リン酸/SDS系の溶出液を用いたHPLC-PDAグラジエント分離法によって分離・同定ができた.この結果,少量の試料を迅速に効率よく分析することが可能になった.また新規化合物が現れてもスペクトルの形状から化合物の推定ができ,以後の分析に役立った.市販品50検体についてスクリーニングをおこなったところ,TMA-2,2C-I,2C-T-2,MBDB,5MeO-DIPT,5MeO-MIPT,AMT,5MeO-DPT,BZP,TFMPP,3CPP,4MPP及びDXMの13種が検出された.
脱法ドラッグ,高速液体クロマトグラフィー/フォトダイオードアレイ検出器,迅速分析法,スクリーニング

 

健康食品中に含有されていた新規シルデナフィル類似体について
 平成15年11月及び16年4月,強壮や男性機能亢進を目的としたいわゆる「健康食品」にバイアグラの有効成分であるシルデナフィルを化学修飾した新たな化合物が検出された.これらの化合物を明らかとするため,精製単離し構造解析を行ったところ,我が国では検出したことのないホモシルデナフィル及びアセチルデナフィル(別名ホンデナフィル)であることがわかった.そこで,これらの物理化学的性状を示すと共に,TLC,HPLC/PDA及びHPLC/MSによる分析結果について報告する.
健康食品,ホモシルデナフィル,アセチルデナフィル,ホンデナフィル,シルデナフィル類似体,薄層クロマトグラフィー,液体クロマトグラフィー,液体クロマトグラフィー/質量分析

 

化粧品に配合される新規頭髪用染料の分析法
 化粧品中の新規頭髪用染料についてHPLCを用いた分析法の検討を行った.その結果,2種類の測定法を用いて計14種の新規頭髪用染料を25〜200µg/mLの濃度で30分以内で分析することが可能であった.各成分の検出限界濃度は2〜25µg/mL,保持時間の変動係数は1.3%以下であった.本法を市販製品の試験に適用したところ,剤型に関わらず簡便な試料調製のみで効率的に新規頭髪用染料分析が可能であった.市販品には表示に記載されていない染料が含有されている製品もあった.
高速液体クロマトグラフィー,化粧品,頭髪用染料,セミパーマネントヘアカラー,分析

 

家具類中のホルムアルデヒド量及びタンスに収納された繊維製品へのホルムアルデヒドの移染実態について
 各種家具類20検体,壁紙類5検体におけるホルムアルデヒド(HCHO)について,HCHO溶出試験,揮散試験A(デシケ−タ−法)により測定した.家具類のうちタンス類については,揮散試験B(シャ−レ法),移染試験の測定を行い,タンス類に収納保管された繊維製品への影響を調査した.本調査により,HCHO溶出試験では,壁紙類とコルク製カ−ペットを除いた19検体(107件)よりHCHOが0.1〜240µg/g検出されたが,溶出量の多いタンス類では,繊維製品への移染が顕著であった.なお,タンス類に収納保管するにあたり衣類をポリ袋に入れると移染が防止された.
ホルムアルデヒド,家庭用品,移染,繊維製品,家具類,タンス

 

Ⅲ 食品等に関する調査研究

GC及びGC/MSによる食品中のサイクラミン酸の分析
 GC及びGC/MSによる食品中のサイクラミン酸(CY)の分析法を検討した.CYをUV吸収のある化合物に変換するHPLC法と同一の試験溶液をそのまま用いて,GCおよびGC/MSを行った.GC法の検出限度は試料あたり10µg/gであり,定量精度もHPLC法と同程度であった.また,GC/MSによるマススペクトルにより試料中のCYの確認ができた.本法により,HPLC法以外の確認手段を得ることができた.また,1995年から2003年に実施した輸入食品中のCY調査結果も併せて報告した.
サイクラミン酸,ガスクロマトグラフィー,ガスクロマトグラフ/質量分析法,輸入食品

 

直接抽出法による食品中の保存料の分析
 1. 水蒸気蒸留法においてパラオキシ安息香酸エステル類の回収率が低いあずき生こしあんや,高タンパク高脂質の食品に対し,抽出溶媒として50%エタノール(50°C)及び80%エタノールを用いた直接抽出法を使用することで,回収率を向上させることができた.2. SAの測定に際し,リン酸緩衝液を移動相に用いることにより妨害物の影響を受けることなく測定できた.3. 10種の保存料について多種類の食品に適用できる簡便で迅速な分析法を確立した.また,本法は固相抽出カートリッジなどを使用しないことでランニングコストを低く抑えることが出来,抽出操作にメタノールなど有害物質を使用しないことで環境に配慮した試験法となった.
保存料,安息香酸,デヒドロ酢酸,サリチル酸,パラオキシ安息香酸エステル類,直接抽出法,液体クロマトグラフィー

 

唐辛子を使用した加工食品中のスダンI及びその同族体の分析
 唐辛子を原料に用いた香辛料製品や調味料からのスダンI,スダンII,スダンIII,スダンレッドG,スダンオレンジGの5種の赤系油溶性色素の同時分析法について検討した.試料からの抽出にはエタノールを用い,分離,定量はHPLCで行った.カラムはCapcell Pak C18 MG,移動相にはアセトニトリル・水(85:15)混液を用いて分離し,検出は波長480nmで行った.各種の唐辛子を用いた製品に10~100µg/gとなるように各色素を添加して添加回収実験を行ったところ,回収率は72%以上であった.また,本法の定量限界は試料あたり5.0~10µg/gであった.

スダンI,スダンII,スダンIII,スダンレッドG,スダンオレンジG,唐辛子,唐辛子製品

 

キャピラリーGCによる揮発性物質,カプロラクタムおよびメタクリル酸メチル試験法の改良
 ポリスチレンの材質中揮発性物質試験とナイロンのカプロラクタムおよびポリメタクリル酸メチルのメタクリル酸メチル溶出試験において,公定法であるパックドカラムから分析精度が高いキャピラリーカラムを用いる測定法に変更することを検討した.揮発性物質は,HP-WAX(0.25mm i.d.×30m,膜厚0.5µm)を用い,試料溶解溶媒をテトラヒドロフランにすることにより,カプロラクタムおよびメタクリル酸メチルは,DB-1(0.32mm i.d.×30m,膜厚5µm)を用いることにより,検量線が原点をとおる直線性を示し,良好な再現性が得られた.
揮発性物質,スチレン,カプロラクタム,メタクリル酸メチル,ポリスチレン,ナイロン,ポリメタクリル酸メチル,合成樹脂,器具,容器包装

 

割りばし中防かび剤の溶出傾向の検討
 厚生労働省の通知に示された割りばし中の防かび剤分析法について,測定法及び溶出試験条件に関する検討を行った.その結果,チアベンダゾールのメタノール溶液を規定されている液体クロマトグラフィー条件で分析すると,ピークトップが分離することが判明し,①注入量10µL,②移動相のpH2.7,③メタノール溶液を移動相で2倍希釈の条件により改善された.また溶出試験における食品疑似溶媒の選択は,20%エタノール(60°C,30分間)が適当であることが判明した.
割りばし,防かび剤,イマザリル,オルトフェニルフェノール,チアベンダゾール,ジフェニル,溶出

 

公定試験法の応用した農産物中オキサジキシル等含窒素系農薬8種類の分析
 農作物中のベナラキシル,カルフェントラゾンエチル,フェンブコナゾール,フェノチオカルブ,フルアクリピリム,メタラキシル,オキサジキシル及びトルフェンピラドの8農薬の分析法を公定試験法を改良して作成した.試料(穀類,豆類,野菜及び果実)にアセトンを加えてホモジナイズして,酢酸エチルに転溶した.穀類や豆類はさらにアセトニトリル分配を行い脱脂した.濃縮後フロリジルカラムクロマトグラフィー(オキサジキシルの場合はシリカゲルクロマトグラフィー)で精製を行い,GC-FTDで測定した.この試験法でりんご,レモン,玄米,ほうれんそう及びトマトを用いて試料中濃度0.1ppmとなるように各農薬を添加し,添加回収試験を行ったところ回収率は61.7~106.1%であった.本試験法における各農薬の検出限界は0.01ppmであった.
含窒素系農薬,農作物,アルカリ熱イオン化検出器(FTD)付きガスクロマトグラフ装置,公定試験法

 

加工食品中の特定原材料(そば)の分析
 加工食品中のアレルギー物質検査へのELISA法とPCR法の適用について,「そば」に着目して検討を行った.そばタンパク抽出は,シャフトジェネレーター付きホモジナイザーによる抽出が良好で,そばDNAの抽出は,加工度の高い食品にもシリカゲル膜タイプキットが適用可能であった.ELISA法では,加熱等によるタンパク変性の影響を受け,加工度の高い食品は,測定値が著しく低下することがわかった.PCR法では,そば抗原タンパク検出量が微量なものでも,そばDNAを検出することができ,ELISA法の偽陽性の確認法としても有効であった.
そば,アレルギー,特定原材料,酵素免疫測定法,ポリメラーゼ連鎖反応,遺伝子検査

 

市販生鮮青果物の食品細菌学的調査

 生鮮青果物が感染源とみられる腸管出血性大腸菌O157やサルモネラによる食中毒が報告されている.著者らは平成12~14年の間に都内に流通する生鮮青果物についてそれ等の腸管系病原細菌及びその汚染指標となる糞便系大腸菌の汚染調査をした.その結果リステリア・モノサイトゲネスがネギとカイワレから検出された.その他の腸管系病原細菌は検出されなかった.また,糞便系大腸菌による汚染率は果菜が3%と最も低く,芽物は17%と最も高かった.

生鮮青果物,細菌数,糞便系大腸菌,リステリア・モノサイトゲネス

 

各種市販食品の細菌検査成績 (1993~2002年度)
 1993~2002年度の10年間,多摩地域で製造販売された各種市販食品11,632件について実施した細菌検査の成績を集計解析した.国が設定した成分規格のある食品においてアイスクリームの大腸菌群のみ違反が多く,その他の食品はどの項目も不適率は低かった.都の措置基準のある食品について1983年度から10年間と1993年度から10年間の成績を比較すると,細菌数,大腸菌群及び大腸菌いずれの不適率も減少していることが明らかになった.サルモネラ属菌及び腸管出血性大腸菌O157の検出例はなかった.
市販食品,細菌数,大腸菌群,大腸菌,黄色ブドウ球菌

 

食品におけるアメ−バ汚染の実態調査 (平成12~15年度)
 アメ−バは細菌類を主な栄養源として増殖するため,一過性の細菌汚染では増殖しにくい.したがって,アメ−バが食品から分離されるということは,その製造行程に長期的細菌汚染があることの裏付けになる.そこで,製造工程を含め常時湿潤な状態に置かれている食品すなわち豆腐・生食用カキ・こんにゃく・漬け物の泳がせ水または漬け汁についてアメ−バの検索を試みた.その結果,アメ−バの検出率は,豆腐では40.1%(94/234),漬け物では59.4%(19/32)であったが,59件の生食用カキと5件のコンニャクからは検出されなかった.
アメ−バ,一般細菌数,大腸菌群,豆腐,生食用カキ,コンニャク,漬け物

 

1998~2002年の5年間に調査した茨城県産シラウオにおける横川吸虫メタセルカリアの寄生状況 −主に霞ヶ浦産シラウオについて−
 1998~2002年に茨城県産シラウオの横川吸虫メタセルカリアの寄生調査を行った.霞ヶ浦産のみに寄生が認められ,平均寄生率85~97%,平均寄生数13~34個と高い値の北浦産と,平均寄生率7~47%,平均寄生数2個以下と低い値の西浦産が都内及び近県に流通していることが明らかとなった.また,霞ヶ浦産シラウオを対象とした「加熱調理用」表示の確認と産地についての聞取り調査から,産地表示は水域名で表示し,「加熱調理用」表示を徹底していくことが,霞ヶ浦産シラウオの生食によるヒトへの横川吸虫の感染防止に必要であると考えられた.
横川吸虫,メタセルカリア,シラウオ,霞ヶ浦

 

輸入醤油の有害性元素及び腐敗性アミン類含有量について
 市販のアジア産醤油19試料について有害性元素及び腐敗性アミン類の含有量調査を行った.ヒ素,カドミウム及び鉛は検出されず,Cuは7試料から0.2~1.0µg/g検出されたが,原料由来と考えられた.揮発性塩基窒素(VBN)は2.6~470mg%検出された.不揮発性アミン(NVA)は約8割の試料から検出され,最も含有量の高かったチラミンは4試料で100µg/g以上を検出した.VBN及びNVAともに魚醤油や国産醤油での含有量を超えるものはなく,健康な人が摂取する場合,調味料としての通常の使用量であれば健康被害を及ぼす危険はないものと考えられる.
醤油,調味料,ヒ素,銅,カドミウム,鉛,揮発性塩基窒素,不揮発性アミン,ヒスタミン,チラミン

 

GC/MSによる一日摂取量調査試料中のビスフェノールAの分析
 一日摂取量調査試料中のビスフェノールAのGC/MSによる分析法を検討した.高たんぱく質試料以外では,試料をアセトニトリルで抽出し,脱脂,さらにGL-Pak PLS-2カートリッジとSep-Pak NH2カートリッジによりクリーンアップを行い,BSTFAで誘導体化してGC/MSで分析することができた.高たんぱく質試料では,試料をアセトンで抽出し,脱脂,濃縮後,水を加え液液分配によりジエチルエーテルで抽出,GL-Pak PLS-2カートリッジによりクリーンアップした後,前記と同様に操作した.検出限界は,1.0ng/gだった.

ビスフェノールA,一日摂取量,ガスクロマトグラフ/質量分析計

 

海藻食品中のミネラル含有量
 市販海藻食品中の8種ミネラルおよび6種の必須微量元素について,五訂日本食品標準成分表の記載値(成分表記載値)と分析値との差異,および製品毎のばらつきをみるために,ひじき,こんぶ,わかめ,青のりについて,誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により分析した.ひじき中のFe,Znはそれぞれ8.0~88.0mg/100g(CV89.7%),0.5~3.9mg/100g(CV106.1%)であり,大きなばらつきがみられた.また,こんぶ,わかめ,青のりのCaは成分表記載値に比べ高い値を示した.また,すべての試料の分析によるFe含有量は成分表記載値に比べ低かった.製品の多くに,成分表記載値と実測値に大きな差異がみられた.
ミネラル,生活習慣病,元素,海藻,ひじき,こんぶ,わかめ,あおのり,誘導結合プラズマ発光分析法,栄養表示基準

 

都内搬入米および市販大豆のカドミウム含有量調査
 平成15年度の都内搬入米(200検体)と大豆(国産29,輸入9検体)のカドミウム含有量調査を行った.玄米は,検出範囲がND~0.32ppm,平均が0.05ppmで前年度の調査結果及び食糧庁の結果とほぼ一致していた.東京都の基準値,またコーデックス基準値案である0.4ppmを超えたものはなかった.国産大豆はいずれの検体からもカドミウムを検出した(検出範囲:0.02-0.57ppm,平均:0.14ppm).一方,輸入大豆は1検体から0.01ppmを検出したが,他はいずれも0.01ppm未満で,国産に比べるとカドミウム含有量は低かった.
玄米,大豆,カドミウム,含有量,原子吸光光度法

 

全自動試料前処理装置を用いる魚介類と玄米の灰化及びカドミウム含有量調査
 湿式灰化において測定値のばらつきの要因には灰化温度・時間,酸添加量などがあげられる.そこで,全自動試料前処理装置を用いて魚介類及び玄米についての湿式灰化条件を検討し,回収率,RSDの良好な灰化条件を設定した.設定灰化条件でのカドミウム(Cd)添加回収実験結果(n=5)では,ホタテガイ(貝柱)で回収率95.91~101.82%,RSD2.19%,玄米で回収率94.40~100.40%,RSD2.32%であった.また,魚介類の部位別Cd含有量も測定した.

灰化,カドミウム,魚介類,玄米

 

食品用プラスチック製品に含有される酸化防止剤の抽出溶媒及び安定性の検討
 酸化防止剤の抽出溶媒としてクロロホルムの代替となるものを検討した.その結果,シクロヘキサン・2-プロパノール(1:1)が,7種類の酸化防止剤に対して代替品として使用可能であった.溶液中の酸化防止剤の安定性について検討したところ,Irgafos168を単独で溶解したものは分解の進行が速かった.アデカスタブPEP-24Gあるいはトコフェロールを加えると残存率は上昇し,各酸化防止剤の混合溶液中で更に高い安定性を示した.
酸化防止剤,プラスチック製品,抽出溶媒,安定性

  

化学物質及び自然毒による食中毒等事件例 −平成15年−
 平成15年に発生した化学性食中毒等の事例のうち,①トラフグの肝臓による食中毒,②カジキの照焼きにより頭痛,発熱,吐き気,腹痛,発疹等の症状を呈したヒスタミンによる食中毒,③ハンバーグに不正使用されたニコチン酸により発赤,かゆみ等の症状を呈した有症苦情,④ジャガイモのα-ソラニン及びα-チャコニンにより吐き気,おう吐等の症状を呈した食中毒,⑤ココナツミルクに使用されたD-ソルビトールにより腹痛,下痢等の症状を呈した有症苦情の5事例について報告した.
化学性食中毒,ヒスタミン,ニコチン酸,ジャガイモ,ソラニン,チャコニン,ソルビトール

 

食品の苦情事例−平成15年度−
 平成15年度に食品成分研究科で検査した食品の苦情に関する検体数は57件であった.苦情原因の内訳は,異物混入が29件(51%),臭いに関するものが16件(29%),味に関するものが6件(10%),変色に関するものが5件(8%),その他1件(2%)であった.今回,異物混入事例等(異物混入と消費者側の誤認)として,ヨーグルト中のブルーベリーの種子,黒穂病病変部が混入したトウモロコシ缶詰,糖質が析出した大豆水煮缶詰,鳥の糞の付着したブロッコリー,パイ喫食事の義歯床用アクリル樹脂片について,概要,試験内容,結果,考察について紹介する.
食品,苦情,異物,缶詰,大豆,トウモロコシ,ヨーグルト,義歯

 

東京都多摩地域における食品の苦情事例(第3報)
 平成14年度及び15年度に多摩地域の保健所から搬入された苦情食品検体の中から4事例について報告した.異物については,特に原因が微生物に由来する「コーン水煮缶中のゼリー状異物」及び「缶入り炭酸飲料中の紐状異物」の2事例を取り上げた.前者は乳酸菌の1種が産生したデキストラン,後者はカビの1種Phoma sp.の菌塊であった.さらに,食品の変色に関する事例としてアミノカルボニル反応による「スポーツ飲料の褐変」,異味に関するものの中からアルカロイドのトマチンに起因する「トマトの苦み」について,それらの解明に至る経緯を報告した.
食品の苦情,異物,食品の変色,食品の変質,プルトップ缶,デキストラン,乳酸菌,糸状菌,アミノカルボニル反応,トマチン

 

輸入食品中の放射能濃度 − 平成15年度 −
 チェルノブイリ原発事故に由来する放射能汚染食品の実態を明らかにするため,平成15年4月から平成16年3月までに都内で流通していた輸入食品等243試料について放射能汚染実態を調査した.放射能濃度が暫定限度値370Bq/kgを超えるものはなかったが,6試料から50Bq/kgを超えて検出された.いずれもフランス産のキノコであり,その内訳は生鮮シャンテレル,乾燥トロンペット,冷凍ジロル,冷凍セップの各1試料及び乾燥セップ2試料の計6試料であり,それぞれ240,150,85,78,78及び56Bq/kg検出された.
チェルノブイリ原発事故,放射能汚染,輸入食品,調査,セシウム,キノコ,ヨウ化ナトリウムシンチレーション検出器

  

輸入農産物中の残留農薬実態調査(有機リン系農薬及び含窒素系農薬) −平成15年度−
 2003年4月から2004年3月までに東京市場で入手した輸入農産物245作物中の有機リン系及び有機窒素系農薬について残留実態調査を行った結果,26種の作物から有機リン系殺虫剤13種類及び有機窒素系殺菌剤2種類が検出された.有機リン系殺虫剤は39作物から痕跡~4.0ppmの範囲で,有機窒素系殺菌剤は2作物から0.04~0.10ppmの範囲でそれぞれ検出された.我が国の食品衛生法で残留基準値のある12種類の農薬が26種の作物から検出された.検出された農薬の残留量は残留農薬基準値以内であり,CODEXの最大残留量及び原産国の基準値以内であった.
残留農薬,輸入農産物,有機リン系農薬,含窒素系農薬

 

輸入農産物中の残留農薬実態調査(有機塩素系農薬,N-メチルカーバメイト系農薬及びその他) −平成15年度−

 2003年4月から2004年3月に都内で購入した輸入生鮮農作物等82種245作物について残留農薬の実態調査を行った.有機塩素系農薬では,4種類の殺虫剤及び4種類の殺菌剤が痕跡~0.70ppm検出された.カーバメイト系では,1種類の殺虫剤及び1種類の除草剤が0.03及び0.31ppm検出された.ピレスロイド系農薬では,3種類の殺虫剤が痕跡~2.7ppm検出された.その他の農薬では,3種類の殺菌剤及び1種類の除草剤が痕跡~2.4ppm検出された.いずれも残留農薬基準を超えるものはなく,喫食上,特に問題はないと考える.

残留農薬,輸入農産物,有機塩素系農薬,カーバメイト系農薬,殺虫剤,ピレスロイド系農薬,殺菌剤,除草剤,収穫後使用

 

国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査 −平成15年度−
 2003年4月から2004年3月までに都内に入荷した国内産野菜・果実類19種151作物について残留農薬実態を調査した.野菜類では18種類の農薬が12種21作物(25%)から検出された.慣行栽培野菜11種17作物(36%)から痕跡~43ppmの農薬が検出され,このうち大葉1件のTPNが残留基準値を超えていた.「JAS有機栽培」表示野菜では13種37作物のうち4種4作物(11%)から痕跡~0.06ppmの農薬が検出されたが,その検出率ならびに残留量は慣行栽培品と比較して明らかに低いものであった.農薬の複数残留は慣行栽培品5作物(11%)のみに認められた.慣行栽培の果実類では23種類の農薬が6種36作物(54%)から痕跡(0.01ppm未満)~0.88ppm検出されたが,残留基準値を超えたものはなかった.
残留農薬,国内産農産物,野菜,果実,有機農産物,有機リン系農薬,有機塩素系農薬,カーバメイト系農薬,含窒素系農薬,ピレスロイド系農薬

 

牛乳及びチーズ中の残留有機塩素系農薬の実態調査
 牛乳及びチーズ中の有機塩素系農薬の残留実態調査を実施した.牛乳15検体中14検体からp,p’-DDEが0.0002~0.0005ppm(全乳中)検出された.チーズ15検体中14検体からp,p’-DDEが0.003~0.017ppm,1検体からヘプタクロルエポキサイドが0.001ppm(脂肪中)検出された.牛乳の結果を脂肪中濃度に換算するとチーズの残留濃度とほぼ同じレベルであった.食品衛生法及びCODEXの基準を超えるものはなかったが,今後も残留が続くと考えられ,内分泌かく乱作用を有する疑いもあることから,実態調査を継続する必要がある.
有機塩素系農薬,残留,牛乳,チーズ,内分泌かく乱化学物質,ゲル浸透クロマトグラフ,ガスクロマトグラフ/質量分析計,選択イオン検出

 

Ⅳ 生活環境に関する調査研究

大気中微小粒子(PM2.5)と粗大粒子の有害元素濃度に関する順位化法による測定地点評価
 都内7地点において採取した大気中の微小粒子(PM2.5)と粗大粒子に含まれる16有害元素を定量し,その濃度を順位化して地点を総合評価することを目的とした.濃度は,微小粒子中のCdで0.01ng/m3未満から,粗大粒子中のAlとFeで約1,200ng/m3までの範囲に及んだ.16元素濃度の順位化により,地点の特性が明らかになり,さらに,この順位の和から7地点の簡潔な順位表を作成でき,有害情報の統合化に順位化は有効であった.
有害元素,微小粒子(PM2.5),粗大粒子,順位化法,評価,都市大気中粒子状物質

 

環境中たばこ煙の曝露指標としての血清中及び尿中コチニン濃度からみた受動喫煙状況

 成人363名の喫煙による健康影響調査を行った.対象者の血清及び尿中コチニン濃度を測定し受動喫煙率を求めた.強受動喫煙者(喫煙者と同等以上のコチニン濃度が検出された非喫煙者)と判定された者は,血清又は尿中コチニン濃度では44%,尿中コチニン濃度からは33.2%であった.採取時に針刺しの苦痛がない尿検体は,血清単独より有効な試料であった.受動喫煙者は「職場の喫煙室設置割合が低く」「家庭でたばこの煙を気にしない,家族が寝室で喫煙する」傾向があり,分煙の徹底とたばこ煙への曝露を避けることが有用であった.

コチニン,血清,尿,環境中たばこ煙,受動喫煙,小規模企業検診,質問票

 

塗料,接着剤等から放散する揮発性有機化合物
 チャンバー法を用いて,塗料及び接着剤から放散する揮発性有機化合物を調査した.その結果,調査した全ての製品からトルエン,キシレン及びエチルベンゼンの放散が認められた.また一部の塗料からはエチルトルエンが多く放散していた.エチルトルエンは目,鼻,喉を刺激する物質で,マウスへの吸引暴露によるRD50(50%のマウスが肺のガス交換率低下)はトルエンよりも低濃度である.したがって使用の際にはトルエン等と同様に注意し,暴露防止に努める必要がある.
塗料,接着剤,揮発性有機化合物,エチルトルエン,小形チャンバー法,放散速度

 

家庭電化製品・OA機器から発生するフタル酸エステル類及びリン酸エステル類
 家庭電化製品(テレビ,ビデオ及びチューナー)及びOA機器(コンピューター及びコピー機)の表面に吸着材を密着させ,吸着材に移行するフタル酸系可塑剤及びリン酸系難燃剤13物質の移行速度を調査した.その結果,家庭電化製品からは12物質,OA機器からは9物質が検出された.フタル酸系可塑剤では家庭電化製品・OA機器ともにフタル酸ジ-n-ブチル及びフタル酸ジ-2-エチルヘキシルの移行速度が大きかった.この2物質の移行速度を中央値で比較するとテレビはコンピューターの3〜10倍高値であった.リン酸系難燃剤は家庭電化製品ではリン酸トリス(2-クロロエチル)及びリン酸トリス(2-クロロイソプロピル),OA機器ではリン酸トリフェニルの移行速度が大きかった.
電化製品,テレビ,コンピューター,室内空気,フタル酸エステル類,リン酸エステル類,可塑剤,難燃剤,ODSフィルター

 

遊泳用プール水中二酸化塩素,亜塩素酸イオン及び残留塩素測定のためのN,N-ジエチル-p-フェニレンジアミン(DPD)吸光光度法の検討
 DPD吸光光度法の一部を改良し,プール水中の二酸化塩素,亜塩素酸イオン及び残留塩素を精度良く定量する方法を確立した.二酸化塩素の定量は遊離塩素と塩素イオンが共存すると妨害されたが,試料から得られた吸光度から二酸化塩素を揮散した曝気試料の吸光度を差し引くことで塩素イオン等の妨害による影響を補正した.亜塩素酸イオンの定量は遊離塩素により妨害されたが,試料にグリシンを添加して遊離塩素を結合塩素にすることで妨害とならなかった.また,曝気試料を用いることで二酸化塩素の影響を除去し,精度よく定量することができた.
二酸化塩素,亜塩素酸イオン,残留塩素,塩素イオン,DPD吸光光度法,遊泳用プール,プール水

  

PCRによるCryptosporidium parvumの特異的検出法の開発と環境水への適用
 クリプトスポリジウムのスポロゾイト外膜構成糖蛋白をコードするCpgp40/15遺伝子を標的とするnested PCRについて検討し,ヒトへの感染性が明らかなC. parvumに特異的に検出するPCR法を確立した.本法の検出下限はゲノムDNAとして5×10(マイナス13乗)gであり,これは環境中でのクリプトスポリジウムの存在単位である1オーシストに相当した.本法は河川水等の濁度の高い環境水においても、免疫磁気ビーズ法で回収・精製したオーシストに対して,実質的に1オーシストに相当する検出下限を保持していた.今後,より少ない回収個数での検出方法の確立,並びにヒト型のC. parvumへの本法の適用について検討する必要がある.
クリプトスポリジウム パルブム,ポリメラーゼ連鎖反応,糖蛋白遺伝子,プライマー,免疫磁気ビーズ法,濁度

 

電磁誘導加熱による環境放射能測定用水試料濃縮法の改善
 ちり等の降下物を含む雨水,河川水及び水道水中の環境放射能の測定では,担体としてストロンチウム,セシウムを添加してから濃縮・蒸発乾固し乾固物とする.ほうろうを用いた電磁誘導加熱による濃縮法では,ストロンチウム回収率が不十分なことが度々あったが,磁性体底構造のガラス製容器に酸を加えて加熱濃縮することにより,回収率が向上した.
環境放射能,電磁誘導加熱,水試料,ストロンチウム,回収率

 

地下水を原水とする専用水道における新水道水質基準項目の調査
 新水質基準項目の検査方法(公定法)について検討するとともに,東京都多摩地域の地下水を原水とする専用水道の浄水を対象に新水道水質基準項目の実態調査を行った.調査した51ヵ所の専用水道のうち,いずれかの項目が新水質基準値を超えて検出された浄水は4試料であった.基準値を超過した項目は鉛,1,4-ジオキサン,臭素酸およびマンガンであった.超過原因として,1,4-ジオキサンは原水である地下水の汚染,臭素酸は次亜塩素酸ナトリウムの過剰使用,マンガンは地質由来と考えられた.
専用水道,多摩地域,地下水,水質

 

遊泳用プール水の水質調査−平成15年度−
 東京都多摩地区に立地する遊泳用プールの水質を調査した.水質基準で不適合となったプール数は屋内プールでは夏期22/167件(13.2%),冬期17/165件(10.3%),屋外プールでは17/117件(14.5%)であった.項目別では遊離残留塩素4.8〜10.3%,大腸菌群1.2〜6.0%,一般細菌1.2〜3.6%,KMnO4消費量0〜3.0%であった.屋内プールに備えられた採暖槽(夏期)の不適合数は29/66件(43.9%)であり,項目別ではレジオネラ属菌25.8%,KMnO4消費量及び一般細菌がそれぞれ10.6%,そして,遊離残留塩素及び大腸菌群がそれぞれ9.1%であった.
遊泳用プール,採暖槽,過マンガン酸カリウム消費量,遊離残留塩素,レジオネラ属菌,大腸菌群,一般細菌数

 

都市環境水におけるレジオネラ属菌の生息実態と共存生物調査 −平成15年度−
 平成15年度に水質研究科に搬入された水試料362件についてレジオネラ属菌検査を行った.冷却塔水137件中44件,循環式給湯水63件中4件,温泉浴槽水59件中19件,及び浴槽水56件中21件からそれぞれレジオネラが検出され,その他の都市環境水47件は検出限界以下であった.レジオネラと共存生物との関係について 調査した結果,アメーバ類がレジオネラの増殖に関与していることが示唆された.それ以外の共存生物では特に原生動物の生息率が高かった.また,レジオネラの生息に一般細菌及び大腸菌群との関連性は特に見いだせなかった.
都市環境水,レジオネラ属菌,冷却塔,給湯,温泉,アメーバ類

 

循環式浴槽設備の配管系統におけるレジオネラ属菌調査事例−平成15年度−
 循環式浴槽水におけるレジオネラ属菌対策として,浴槽水の塩素処理を中心とした保健所等による監視・指導が実施されてきた.その結果,特に,公共性の高い施設などでは浴槽水中の菌数が顕著に減少している.しかし,皆無にすることはかなり困難である.この原因を究明する目的で,循環式浴槽設備をもつ4箇所の施設を調査定点として,配管系統における本菌の消長を調査した.その結果,本菌汚染が多い配管系統は集毛器及びろ過器であった.配管系統の洗浄・消毒を施した施設では,循環水系統及び浴槽水中のレジオネラ属菌は不検出となった.
循環式浴槽,浴槽水,レジオネラ属菌,一般細菌,大腸菌群,塩素処理,高齢者施設

 

小笠原諸島父島・母島におけるアフリカマイマイの広東住血線虫の寄生調査
 近年,小笠原諸島父島において,広東住血線虫の最も代表的な中間宿主であるアフリカマイマイの個体数は減少傾向にある一方で,母島におけるその個体数が増加している.そこで,2002年5月下旬から7月上旬に小笠原諸島母島を中心に父島・母島に生息するアフリカマイマイに寄生する広東住血線虫の寄生状況調査を行った.その結果,母島における広東住血線虫の平均寄生率は父島より10〜20倍高く,母島の住宅地域と山間農地では農地の方が2倍以上高い寄生率であることが判明した.また,1984年の調査と比較した場合,母島の農地における寄生率が20%以上増加している一方,父島における寄生率は約1/10に減少していた.
広東住血線虫,アフリカマイマイ,第3期幼虫,寄生率

  

Ⅴ 生体影響に関する調査研究

ディーゼル車排出ガスと花粉症 子宮内曝露・経母乳曝露の免疫機能への影響

 胎仔期における排出ガス曝露は花粉に対する感受性を高める.本研究は,出生直後に曝露群と非曝露群の親仔を入れ替えて,排出ガスに曝露された母親の仔への影響はいつ起こるかを検討した.胎仔期は曝露されている母親の胎内,生後は妊娠中授乳中とも曝露されていない母親の母乳で育てられた仔ラットのIgE抗体は,対照群並びに胎仔期は曝露されず妊娠中曝露されていた母親の母乳で育てられた仔ラットに比べ有意に上昇した.排出ガス曝露の次世代における免疫機能への影響は,曝露されている母親の胎内にいる間に生じることが明らかになった.

ディーゼル車排出ガス,ラット,スギ花粉,免疫グロブリンE,交差育成,子宮内,経母乳

 

安定型形質転換細胞を用いたレポータージーンアッセイによるフタル酸エステル類のアンドロゲン及び抗アンドロゲン作用の検討
 フタル酸ジエステル類が,食品中へ溶出すること,生体内でフタル酸モノエステルに代謝されて,内分泌かく乱作用を現す可能性が報告されている.今回,フタル酸ジエステル類及びフタル酸モノエステル類についてレポータージーンアッセイにより,アンドロゲン性及び抗アンドロゲン性を調べた.また,アンドロゲン受容体(AR)結合作用も調べた.その結果,数種のフタル酸ジエステルに抗アンドロゲン作用が認められた.フタル酸モノエステルには,抗アンドロゲン作用は確認できなかったが,強い細胞毒性を有することを明らかにした.

内分泌かく乱物質,ジエチルフタル酸エステル,ジ-n-ブチルフタル酸エステル,ジシクロヘキシルフタル酸エステル,フタル酸モノエチル,フタル酸モノブチル,フタル酸モノシクロヘキシル,レポーター遺伝子アッセイ,抗アンドロゲン作用,アンドロゲン作用

  

銀染色法を用いた簡便なDNA損傷検出法としてのコメットアッセイ

 コメットアッセイをDNA損傷物質のスクリーニングに用いるため,画像解析によらない判定評価を試みた.損傷の程度をコメットの形態から5段階に分けた分類表を作り,CHO-K1細胞を用いてDNA損傷作用の知られている過酸化水素を指標にアッセイを行い,褪色しにくい銀染色を施した標本を直接検鏡し判定した.これに各段階に与えた点数を掛けてDNA損傷の強さを定量化した.この値は用量−作用関係を持ち,過酸化水素のDNA損傷作用をよく反映していた.

コメットアッセイ,CHO-K1細胞,銀染色

  

除草剤クロルプロファムによる溶血性貧血と脾臓における病理学的変化の可逆性

 クロルプロファム600ppm以上の13週間のラットへの経餌投与は,用量相関性に,メトヘモグロビン血症,溶血性貧血および脾臓・肝臓・腎臓の病理学的変化を引き起こした.さらに,13週間の投与後に,標準飼料(0ppm)を与えて症状の回復を10週間観察した.血液学的変化,脾臓における赤脾随のうっ血(赤血球の滞留)とリンパ鞘の萎縮および骨髄・脾臓・肝臓における造血の亢進は,10週間で対照群と変わらないまでに回復した.しかし,脾臓・腎臓におけるヘモジデリン沈着および脾臓の線維化は,10週間で消失しなかった.このような,血液学的変化の可逆性と脾臓におけるヘモジデリン沈着および線維化の持続は,クロルプロファムの長期投与においては,血液毒性よりも二次的な脾臓毒性が重要であることを示唆している.

クロルプロファム,溶血性貧血,脾臓毒性,ヘモジデリン沈着,脾臓の線維化,可逆性

 

市販健康茶の突然変異原性について
 中国製市販健康茶である花紅柳緑茶の変異原性を検討するため,エームス試験および哺乳動物であるチャイニーズハムスターを用いた染色体試験を行った。エームス試験では,S9無添加の場合,4菌株において10mg/プレートまで復帰コロニー数が増加し,TA97,TA100及びTA102では有意な用量相関が見られた.S9添加の場合,TA98,TA100及びTA97においては1mg/プレートまで用量相関を持つ増加が見られた.チャイニーズハムスターの雄に花紅柳緑茶の種々用量を投与した染色体試験において,いずれの投与量・投与期間においても染色体異常細胞の有意な増加は認められず,染色体への影響はないものと判断した.
花紅柳緑茶,エームス試験,染色体分析,チャイニーズハムスター

 

SDラット雄性生殖器における難燃剤テトラブロモビスフェノールA新生児投与の影響
 臭素化難燃剤テトラブロモビスフェノールAを,投与用量0,1,10,100及び1000µg/kg体重,投与液量1mL/kg体重で,SDラット新生児に出生後1日から10日まで背部皮下投与した.仔ラットが70日齢に達した時にエーテル軽麻酔下で屠殺解剖し,生殖器及び精子形成を検索した.その結果,投与群で包皮腺重量の軽度な増加,プレレプトテン期及びパキテン期精母細胞と精子細胞数の軽度な減少,精巣上体尾部精子数の軽度な減少が認められた.しかしこれらの変化はいずれも統計学的に有意な差ではなかった.
テトラブロモビスフェノールA,難燃剤,ラット,精子,生殖器,新生児投与

 

テストステロンによるヒト乳ガン由来細胞MCF-7の増殖抑制及び増殖促進
 ヒト乳ガン由来細胞のMCF-7にtestosteroneを作用させると,細胞の増殖の抑制と促進が見られた.10-8M程度の低濃度では増殖は抑制され,10-5M程度の高濃度では増殖は促進された.増殖の抑制はアンドロジェンレセプターを介して発現し,増殖の促進はエストロジェンレセプターを介して発現していると考えられた.
テストステロン,アンドロジェン,MCF-7,増殖

 

透過電子顕微鏡による広視野観察のための試料作製法の検討
 電子顕微鏡は,微細形態の変化を観察することで生体作用を早期に,また微量な物質の影響を細胞の構造変化から検索することが可能である.透過電顕による試料の広範囲の観察を目的に,試料の大きさあるいは前固定液及び積載するグリッドを比較し,試料作製の基礎的方法の一環として検討を加えた.2.5%グルタールアルデヒドと3%パラホルムアルデヒドを比べると,パラホルムアルデヒドが組織への浸透が良く,大きな試料に適用可能であることが分かった.しかし,通常の約1mm四方の小さな試料では,グルタールアルデヒドが膜構造や細胞内小器官の保持に対して良好な結果を示した.切片を積載するグリッドは,100メッシュの標準グリッドの使用が適当と考察された.
広視野観察,超薄切片法,マウス肝,透過電子顕微鏡

 

Ⅵ 公衆衛生情報に関する調査研究

日本におけるがん死亡の動向予測
 東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システムを用いて,肺がん,胃がん,乳がん,子宮がんなどの死亡特性を分析し,2015年の死亡者数を予測した.がんによる死亡者総数は男子20万名,女子13万名と予測される.肺がんによる死亡者数の増加は続くものの増加率は減少をはじめ,男子4.9万名,女子2万名程度になるものとみられる.胃がんによる年間死亡数は着実に減少し,男子2.9万名,女子1.4万名と予想される.乳がん及び子宮がんの死亡者数は,それぞれ1.3万名,6.6千名と予測される.
がん,年次推移,疾病,動向予測,人口動態統計,世代マップ

 

東京都感染症発生動向調査データの解析 −全数把握対象疾患と定点医療機関−
 感染症法施行後の東京都における感染症発生動向調査の患者報告数及び定点医療機関について解析を行った.全数把握対象疾患の患者報告数は全国と比較して,輸入感染症及び性感染症が有意に多いことが明らかになった.東京都の各定点医療機関数は通知で示されている基準を満たさない状況で,人口の多い保健所では特にその傾向が顕著であった.性感染症定点の標榜科による選択はほぼバランスが取れているが,定点の数が少ないため定点の変更が報告数に大きな影響を及ぼすことや,若い世代の実態を反映していない可能性が示唆された.
感染症発生動向調査,全数把握対象疾患,定点把握対象疾患,性感染症

  

Ⅶ 精度管理に関する調査研究 

平成15年度東京都食品衛生検査施設GLP内部点検調査報告
 東京都食品衛生検査施設に対する信頼性確保部門の業務として,平成15年度は健康安全研究センター 26,市場衛生検査所 4,芝浦食肉衛生検査所 2,東京都保健所 12の合計44施設を対象にGLP内部点検を実施した.検査実施施設では各標準作業書の整備状況を,収去実施施設では試験品の搬送時間の管理状況と収去証の記入法を特に重点的に点検した.全施設のうち,13施設に対して改善措置を要請し,2施設に対して確認点検を実施した.
適正管理運営基準,内部点検,信頼性確保部門,標準作業書
東京都環境放射線測定サイト 東京都感染症情報センター 東京都健康安全研究センターサイト
(このホームページの問い合わせ先)
tmiph<at>section.metro.tokyo.jp
※<at>を@に置き換えてご利用ください。
また、個別にお答えしかねる場合も
ありますので、ご了承ください。
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